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 インフルエンザ抗ウイルス剤「タミフル」に続き、H5N1型にも効く「T-705」など有望な医薬品が臨床試験中。実用化となれば、鳥インフルエンザ対策も一安心であるが、疑問が一つある。

 それは「タミフル」がウイルスに直接働くのに対し、「T-705」はヒトの細胞に直接働くからである。細胞に悪い影響はないのだろうか?同じことがC型肝炎の新治療薬にもいえる。



 抗ウイルス剤の常識
 タミフルがインフルエンザウイルス自体の表面にある、タンパク質「ヘマグルチニン」を阻害して発病させないようにするが、「T-705」はインフルエンザウイルスの中の「RNAポリメラーゼ」を阻害して発病を抑える。

 ところが、東京大学医科学研究所の河岡義裕教授らのグループでは、インフルエンザウイルスが、ヒトの細胞の中で増殖に利用するタンパク質をつき止め、この働きを阻害して発病を抑えようと考えている。(参考HP アイラブサイエンス 2008.7.13

 ヒトの細胞内にあるタンパク質や酵素の働きを抑えてヒトに害はないのだろうか? 

 これまで抗ウイルス剤の開発は、万が一、人に害を及ぼすことがないように、「ウイルス自体の酵素やタンパク質を攻撃する」というのが常識であった。人の細胞機能に害を与えてしまっては元も子もないからである。この常識が最近はゆらぎ始めている。

 C型肝炎が完治?
 C型肝炎はC型肝炎ウイルス(HVC)により発病する病気である。感染者は国内に200万人以上いるとされる。最近、薬害肝炎訴訟で国が和解に応じたことが報道されたので記憶に新しい。以前は不治の病とされ、C型肝炎から肝臓ガンに移行し死亡するケースが多かった。

 最近では「インターフェロン」などの治療方法も進歩し、感染者の半数程度まで完治するようになった。現在、ほぼ100%完治する「DEBIO-025」という新薬を臨床試験中である。

 実はこの新薬、ヒトの免疫効果を下げる薬品「シクロスポリン」によく似ている。普通ヒトの免疫機能が下がるとウイルスは殖える。ところが、「インターフェロン」だけではウイルスの減少が30%程度のところ、「シクロスポリン」を合わせて使うと60%にあがった。

 発見者の昭和大・与芝真彰教授は1995年に学会に発表したが、「クレージー」と言われ、信用されなかった。その後2003年、京都大学の下遠野邦忠研究員が、「シクロスポリン」がHCVの増殖を止めることを発見、一躍注目を浴びる。

 「毒をもって毒を制す」
 HCVは細胞内でタンパク質の形を変える酵素「シクロフィリン」を利用して殖えることがわかっている。「シクロスポリン」はこのタンパク質の働きを抑えているのことが新たにわかった。ただ、「シクロスポリン」は免疫を弱める働きもあるため、ウイルスを殖やす可能性もある。

 そこで、与芝真彰教授の共同研究者、東京都臨床医学総合研究所の小原道法氏はスイスのベンチャー企業に呼びかけた。その結果「シクロスポリン」によく構造が似ていて、免疫抑制作用のほとんどない「DEBIO-025」がつくられたのである。現在、臨床試験中で実用化が期待される。

 本来は、免疫力を下げると考えられ、ウイルスが殖えるだろうと予測された「シクロスポリン」が、逆にウイルスをつくるタンパク質(酵素)を、阻害するはたらきがあったとは驚きだ。

 こういった経験をもとに現在では、細胞に有害な物質でも、構造を少し変えたり、濃度を下げるなどして毒性を減らし、抗ウイルス剤にする方法が研究されている。まさに「毒をもって毒を制す」という、逆転の発想の素晴らしい成果である。
(参考:朝日新聞 2008.8.25「C型肝炎常識破りの新薬」)

インターフェロンとは?


インターフェロンとは、生体から分泌される物質(サイトカイン)で、抗ウイルス作用を有している。

この他、細胞増殖抑制作用、抗腫瘍作用、免疫調節作用、細胞分化誘導作用等の生物活性が知られている。

インターフェロンにはα(アルファ)、β(ベータ)、γ(ガンマ)、ω(オメガ)の4型があり、この中で現在C型肝炎の治療に一般的に使用されているのはαとβ。
(出典:はてなダイアリー) 

 

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