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2008年ノーベル医学生理学賞
2008年度ノーベル医学・生理学賞の受賞者が決まった。受賞者は独がんリサーチセンターのハラルド・ツア・ハウゼン名誉教授(72)と、仏パスツール研究所のフランソワーズ・バレシヌシ教授(61)、仏パリ大のリュック・モンタニエ名誉教授(76)である。残念ながら日本の誇る、京都大学の山中伸弥教授の「iPS細胞」や「論文引用世界一」の大阪大学の審良静男教授らは選ばれなかった。

さて、今年はどんな素晴らしい研究が選ばれたのだろう?今年の授賞理由は、ツア・ハウゼン氏が「子宮頸(けい)がんを引き起こすヒトパピローマウイルス(HPV)の発見」。バレシヌシとモンタニエ両氏は「ヒト免疫不全ウイルス(HIV)の発見」であった。

この2つの研究の共通点は何だろう?実は2つとも感染症を引き起こすウイルスの発見である。そして、2つとも性交渉が原因でうつる性感染症ウイルスである。これにまず驚いた。それだけ人類にとって性感染症(STD)が問題になっているのかもしれない。確かに女性にとって子宮がんは脅威であるし、人類にとってヒト免疫不全症候群(AIDS)の世界的な広がりは恐怖である。

ヒトパピローマウイルス(HPV)
調べてみると「ヒトパピローマウイルス(HPV)」はとてもありふれたウイルスで、80%の女性は保有している。300種類ものタイプがあり、低リスクタイプではイボをつくる原因となる程度であるが、高リスクタイプでは子宮頸がんの原因になることがわかった。これが今回の受賞理由となった。

こんなことを聞くと怖いウイルスだが、、HPVに感染しただけで子宮頚がんになるわけではない。感染したHPVの殆どは子宮頚部の表面細胞に付いただけで、しばらく(7〜8ヶ月)すると免疫力や新陳代謝などで細胞とともに剥げ落ちる。ところが感染部分に小さな傷があったり、免疫力の低下などでヒトパピローマウイルス(HPV)が長期感染すると細胞深く侵入して定着し、細胞の異常分裂を引き起こし癌化(がん化)する可能性がある。

ヒト免疫不全ウイルス(HIV)とは?
一方「ヒト免疫不全ウイルス(HIV)」はヒトの免疫機能の発動に必要なCD4+T細胞というリンパ球などに感染し、比較的長い潜伏期の後に活性化してCD4+T細胞を破壊してしまう。CD4+T細胞が著しく減少すると体内の免疫力が極度に低下し、免疫が正常であれば排除できるような病原体にも簡単に感染する日和見感染を起すようになり、容態が不安定になる。進行すれば、その他の合併症等を引き起こし死に至る事も多い。エイズとはこのように感染後の潜伏期を経て陥ってしまう免疫不全状態を指し、単にHIVに感染しただけ(HIVキャリア)ではエイズとは呼ばない。

現在効果的な抗HIV薬が開発され、多剤併用療法(HAART療法)により、血中のウイルスを測定感度以下にまで抑える事が出来る様になった。それに伴い、エイズの発症進行を大幅に抑える事に成功した。今のところ、ウイルスの撲滅までには至っていない為、完治はしないが、抗HIV薬の開発改良は目覚しく一日一回だけの服薬で可能なほど進化している。その為、糖尿病と同じ一般的な慢性疾患として捉えられ、発症を遅らせる治療により、病気とうまく付き合いながら長期生存が可能になりつつある。(出典:Wikipedia)

モンタニエとギャロの激烈な競争
ところでエイズウイルスの発見には、今回ノーベル賞を取った仏のリュック・モンタニエとフランソワーズ・バレシヌシらと米のロバート・ギャロらの間に対立があったことはご存じだろうか?

1983年にパスツール研究所のリュック・モンタニエとフランソワーズ・バレシヌシらによってエイズ患者より発見され、LAVと命名された。1984年にアメリカ国立衛生研究所(NIH)のロバート・ギャロらも分離に成功しており、HTLV-III(Human T-lymphotropic virus type III)と命名した。

最初の発見者をめぐってモンタニエとギャロの仏米の研究チームが長年にわたって対立し、1994年に両者がともに最初であるとして決着したが、長期の対立はエイズ治療薬の特許が絡むもので、治療薬の発売を遅らせないための政治的決着であった。

今回の受賞はフランスのモンタニエとバレシヌシの二人だけであり、これは正式にウイルスの発見者として認められたということになる。

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スウェーデンのカロリンスカ研究所は6日、08年のノーベル医学生理学賞を、独がん研究センターのハラルド・ツア・ハウゼン名誉教授(72)と、仏パスツール研究所のフランソワーズ・バレシヌシ教授(61)、仏パリ大のリュック・モンタニエ名誉教授(76)に授与すると発表した。授賞理由は、ツア・ハウゼン氏が「子宮頸(けい)がんを引き起こすヒトパピローマウイルスの発見」。バレシヌシとモンタニエ両氏は「ヒト免疫不全ウイルス(HIV)の発見」。この2種類のウイルスは性交渉が原因で感染が広がる。ウイルスの発見で病気の理解が深まり、治療法の開発につながったと評価した。

授賞式は12月10日にストックホルムで開かれる。賞金1000万スウェーデンクローナ(約1億4000万円)のうち、半分をツア・ハウゼン氏、残りをバレシヌシ氏らが等分する。

ツア・ハウゼン氏は、83年に子宮頸がんの患者からヒトパピローマウイルスを発見、そのウイルスの遺伝子を複製した。これが、感染を防ぐためのワクチン開発につながった。子宮頸がんと診断された大半からパピローマウイルスが見つかり、毎年50万人が感染している。

バレシヌシ、モンタニエ両氏は83年、後天性免疫不全症候群(エイズ)の患者から原因となるウイルス(HIV)を発見。HIVにより発症したエイズが原因でこれまでに約2500万人が死亡した。

両博士の発見で、ヒトのリンパ球の機能が弱まる仕組みが分かり、ワクチン開発の道が開かれた。世界保健機関によると、HIV感染者は3320万人(07年末現在)に上っている。(毎日新聞 2008年10月7日)

参考HP 子宮頸癌と異形成 → http://indivi.net/index.html 

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