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昨年のイグ・ノーベル賞
去年のイグ・ノーベル賞は、牛の糞(ふん)からバニラの香りと味のする物質、バニリンを抽出した山本麻由・国立国際医療センター研究所元研究員に「化学賞」が贈られた。

イグ・ノーベル賞はノーベル賞のパロディーとして1991年に創設され、笑いを呼ぶというのが条件の一つになっている。たしかに牛の糞からつくられたアイスクリームを真剣に食べている研究者を思い浮かべると笑える。何も牛の糞からつくらなくても...と思う。しかし、これが科学的で合理的な方法なのだから、なおおかしい。

今年のイグ・ノーベル賞
今年も日本人がイグ・ノーベル賞を受賞した。受賞したのは中垣俊之・北海道大学大学院准教授、小林亮・広島大学大学院教授、石黒章夫・東北大学大学院教授、手老篤史・科学技術振興機構さきがけ研究者、山田裕康・名古屋大学客員研究員ら。

蒼々たるメンバーが研究したものは何かと思ったら、迷路を解く粘菌の研究である。神経を持たない粘菌が迷路を解けるわけがない。ところが、解いた。粘菌ならではの科学的、合理的な方法で!

受賞を受けた研究者は「粘菌はバカだと思ったらとんでもない!とっても賢いんです」会場は拍手に包まれた。この「まさか」が科学のもっともおもしろい瞬間。

迷路を解く「粘菌」
迷路を解くのにこんな方法もあったのかと驚く。方法はこうだ。1.まず粘菌を迷路いっぱいにばらまく。2.粘菌は迷路のすべてを埋め尽くす。3.つぎに迷路の入口・出口に餌を置く。4.すると、どんなに広がっても一個の細胞である粘菌は、体中を波のように躍動させながら、吸収した栄養を全身に流す。その姿はまるで動物のようだ。5.その結果、入口と出口を結ぶ最短距離に栄養分の流れができ、他の部分は枯れてしまう。

まさに、科学的・合理的な方法で「粘菌」が生きていることを発見した業績に対し、賞が贈られた。

それにしても「粘菌」とは何だろう?あまり聞いたことがない。動物なのだろうか、植物なのだろうか?

粘菌とは何か?
正解は動物と植物の両方の性質を持つ、不思議な生物である。「粘菌」は「変形菌」とも呼ばれ、「変形体」と呼ばれる栄養体が移動しつつ微生物などを摂食する、アメーバのような”動物的”性質を持ちながら、小型の子実体を形成し、胞子により繁殖するという、植物的(あるいは菌類的)性質を合わせ持つ、特異な生物である。

変形菌は世界で約400種が知られ、一般にはすべてを変形菌門変形菌綱に所属させる。昔は菌類の仲間に入れられたこともあったが、今では違うなかまであることが分かっている。変形菌の名前は、かつてはムラサキホコリカビなど、「カビ」を最後につけていたが、現在は「カビ」を落として、ムラサキホコリ、サビホコリなどとされている。

変形菌が他の生物と変わっているのは、菌類のように胞子をつくりながら、発芽するとアメーバのようにエサである細菌を求めて動き回る。細胞分裂はせず、核分裂を繰り返し、1つの変形体に多数の核を持つ。その内部では非常に速い原形質流動が見られ、しかもリズミカルに往復運動する。胞子をつくるときには、体がいくつにも分かれる。

では、変形菌はいったい何のなかまなのだろう?

粘菌の分類
生物の分類において、まずこれを動物と植物に分けるのはごく自然なものと考えられた。まず植物と動物の区別があり、その中での分類が進められた。藻類やキノコが植物にまとめられることには抵抗が少なかった。

問題が明らかになったのは、いわゆる微生物、単細胞生物に関する知見が集まり始めたころからである。例えばミドリムシが有名であるが、葉緑体を持ち、光合成を行うが運動性があるものは多くの例があり、中には有機物を取り入れるものまであり、それらは動物とも植物ともつかない。また、細菌や藍藻類のような原核細胞の位置付けも問題となる。

ホイッタカーは、1969年の論文で、新しい枠組みについて提唱した。原核生物、真核の単細胞生物、植物界、菌界、動物界の5つに分ける五界説である。五界説は新たな生物世界の分類体系として、広く認められた。2008年現在においても、高校理科生物ではこの説を基本としている。

ただし、現在においてこの説が認められているのは教育界くらいである。実際には古細菌の発見があり、またこの変形菌(粘菌)などの特異な生物の存在があり、現在は最大の区分であった、「界」より上の階級「ドメイン」が考えられている。

変形菌は真核生物(ドメイン)・アメーボゾア(門)・コノーサ(綱)・変形菌(亜綱)・変形菌である。

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粘菌も“学習”の研究成果で日本人にイグ・ノーベル賞


粘菌も餌にありつくための最短距離を見つける能力を持つことを確かめた日本人研究者たちに、2008年のイグ・ノーベル賞が贈られた。

イグ・ノーベル賞の「認知科学」分野で受賞したのは、中垣俊之・北海道大学大学院准教授、小林亮・広島大学大学院教授、石黒章夫・東北大学大学院教授、手老篤史・科学技術振興機構さきがけ研究者、山田裕康・名古屋大学客員研究員とハンガリーの研究者。中垣准教授らは、粘菌を入り口と出口だけに餌がある迷路に置くと、いったんアメーバのように迷路いっぱいに広がった粘菌が餌のない場所からは撤退し、餌のあるところだけを最短距離で結ぶ太い管状になることを確かめた。

神経系を持たない単純な生物である粘菌が“迷路問題”を解くことを確かめた研究成果が、授賞対象になった。

イグ・ノーベル賞は、ノーベル賞のパロディーとして1991年に創設され、笑いを呼ぶというのが条件の一つになっている。昨年は、牛の糞(ふん)からバニラの香りと味のする物質、バニリンを抽出した山本麻由・国立国際医療センター研究所元研究員に「化学賞」が贈られている。(サイエンスポータル編集ニュース 2008年10月11日)

参考HP 変形菌の世界(国立科学博物館 植物研究部)
 

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