「1kg」はどうやってきめられたか?

 前回は「1m」はどうやってきめられたかを学んだ。おさらいをすると現在の「1m」は光の速さで、真空中を約3億分の1秒に進む距離(正確には1秒の299 792 458分の1)として定義されている。  

では1kgはどうやって決められているのだろうか?「1kg」はなんと、毎年重くなったり軽くなったりしている!...というのはご存知だろうか?



 といってもその量は、極々わずかなので私たちの生活に問題はない。1メートルだったら、いつ誰が計測しても変わることのない光の速度を基準にしているが、1kgは「国際キログラム原器」という物体の質量を基準にしているから、このようなことが起きる。物体は物質でできており、物質は他の物質を吸着したり、反応したりするからだ。

 実際にフランスにある「国際キログラム原器」の質量は、表面吸着などの影響により年々増加している。その量は年に0.1µg程度と見られている。1980年代に42年ぶりに国際キログラム原器の洗浄が行われた。これにより国際キログラム原器の質量は約60µg減少した。これは1キログラムの6×10-8倍に当たるので、現行の国際キログラム原器による定義の精度は8桁程度ということになる。

 2007年9月、国際キログラム原器が50µg軽くなっている事が判明した。“50µg”とは指紋が付いた分に相当するという。同時に作られた複製品には異常がなく、また厳重保管されているのに、なぜこのような状態になったかは未だに不明だという。


 国際キログラム原器とは?

 国際キログラム原器はプラチナ(白金)90%、イリジウム10%からなる合金でできており、直径・高さともに39mmの円柱である。フランス・パリ郊外セーヴルの国際度量衡局に、二重の気密容器で真空中に保護された状態で保管されている(世界のすべての質量計測の基準であるので、万一にも錆などにより質量が変化しては困る)。国際キログラム原器の質量は "Le Grand Kilo" と呼ばれる。

 国際キログラム原器を元に40個の複製が作られて各国に配布・保管されており、約10年ごとに特殊な天秤を用いて国際キログラム原器と比較されることになっている。日本には1889年に複製のうちの1つ (No.6) が配布され(日本到着は翌1890年)、日本国内ではこれをキログラムの基準に使用している。この日本国キログラム原器は現在、茨城県つくば市の独立行政法人産業技術総合研究所に、国際キログラム原器と同様の容器内に保管されている。日本国キログラム原器は国際キログラム原器に比べて0.170mg重いことが分かっている。


 当初の定義

 1キログラムの当初の定義は「1リットルの水の質量」である。当初案の定義では、「大気圧下で氷の溶けつつある温度(すなわち0度)における水について」となっていたが、その後、水の体積は温度依存することが分かり、結果として定義は、1790年に「最大密度(=液温摂氏4度)における蒸留水1立方デシメートル(1リットル)の質量」と定義された。しかし、水の密度は気圧と温度に影響され、気圧にはその因子に質量が含まれている。すなわちこのキログラムの定義には循環依存が含まれていることになる。


 普遍的な物理量による定義へ

 他のSI基本単位は普遍的な物理量に基づく定義に改められているのに対し、キログラムだけが人工物に依存する単位として残ってしまった。人工物による定義では、経年変化により値が変化し、また、焼損や紛失のおそれもある。1970年代から、普遍的な物理量によるキログラムの定義が検討されてきた。

 現在の定義に変わる新しい定義の候補として、アボガドロ定数やプランク定数などを用いた各種の提案がある。

 その中で最も有力なのが、一定個数のケイ素 (Si) 原子の質量をキログラムとするという原子質量標準である。アボガドロ定数の値をより正確に求めることができれば、そこからケイ素1キログラムに含まれるケイ素原子の数を決定することができる。ケイ素が採用されたのは、ケイ素が不純物を含まない単結晶を作りやすいからである。現在、国際度量衡委員会 (CIPM) が中心となって、各国の研究機関でケイ素を用いてアボガドロ定数の不確かさを少しでも小さくするための研究が行われている。

 現在のアボガドロ定数の値 NA = 6.022 141 5(10)×1023 mol-1(CODATA2002年推奨値。括弧内は標準不確かさ)には、7桁目に不確かさがある。現行の定義による精度は8桁なので、あと1桁精度を上げることができれば、キログラムの定義を原子質量標準に置き換えることができる。なお、アボガドロ定数のCODATA2002年推奨値は、日本の産業技術総合研究所(産総研)とドイツの物理工学研究所 (PTB) によって報告されたもので、各研究機関からの報告の中で最も信頼性が高いとして2002年の推奨値に反映されたものである。


 「グラム」ではなくなぜ「キログラム」か?

 ところで、なぜグラムではなくキログラムが、SI基本単位とされたのだろう?

 フランスにおいて1790年当時フランス王ルイ16世の号令の元、新しい時代の度量衡としてメートル法を策定すべく、主に科学者達で構成された委員会が結成された。当時その委員会において、質量単位のモデルとして1メートルの10分の1で構成された立方体の升に入った水の質量、すなわち1リットルの大気圧下で氷の溶けつつある温度(0度)における水について、grave(グラーブ、記号G)と名称が与えられた質量単位を標準とする事が提案された。その語源はgravity(重力)から由来したものである。

 当初はこのgrave(グラーブ)が質量の基本単位として原器が作られる予定であった。またこれを元として、1graveの1000分の1を別の質量単位名でgramme(グラム)ないしgravet(グラベト)、また1graveの1000倍を別の質量単位名を用いてtonne(トン)ないしbar(バー)と称するように名称が考案されたりもした。

 そしてやがて来るフランス革命の波に襲われ、科学者達の研究は途中で中断するのだが、その後、新しい革命政府が樹立されると再びメートル法が注目されるようになった。しかしそのフランス革命の後、質量の単位は大きな転機を迎える事となる。


 フランス革命の影響

 1795年の(暫定)メートル法制定当初、革命後の共和政府が当初の質量の基本単位をgrave(グラーブ)から、その1000分の1を表すgramme(グラム)へと変更したのである。

 理由は諸説あるが、有力な説の一つとして、1graveという大きさの質量が当時、メートル法以前の昔から使われてきたいくつかの質量の旧単位と比較しても、大きな単位であるということがある。その為フランスの科学者達は、グラーブは日常的に使う質量単位としては大き過ぎるであろうと危惧し、フランス共和政府と共に、質量の基本単位は1グラーブの1000分の1である1グラムを質量標準として使用すべきであると決定したという説があるが、真相は定かではない。

 しかしながら質量標準を1グラムとすると非常に使い勝手が悪く、とりわけ1グラムを定義した原器を作るにはあまりにも小さすぎた。そこで共和政府は基本単位とした1グラムの1000倍、即ち当初の予定通り1graveの質量原器を作る事を決めた訳であるが、その名称が使われる事はなくグラムの1000倍を表す為に接頭辞のキロ (k) をつけた名称、"キログラム (kg)"の名前を冠した原器を作る事と決めた。

 これはあくまでも質量の基本単位をグラムにした事に起因する。こうして当初の質量単位grave(グラーブ)の名称は姿を消すのである。

 これが後の1799年に作成された"確定キログラム原器"となった。こうしてメートル法制定当初、長さの単位をm(メートル)、質量の単位をg(グラム)とした基本単位が出来上がった。しかし、メートルとグラムとではその規模が異なる。


 CGS単位系とMKS単位系

 すなわち、グラムで量られる質量を持つものはセンチメートル台の大きさであることが多く、逆にメートルで測られる大きさを持つものはキログラム台の質量を持つことが多い。そのため、メートルの代わりにセンチメートルを採用し、センチメートル・グラム・秒を基本単位とする単位系が構築されるようになった。これがCGS単位系である。

 しかし、電磁気学の発展に伴い、CGS単位系では不都合が生じるようになった。CGS単位系を元に電磁気学の単位を作ると、値が大きくなってしまう。これは、電磁気学の現象を記述するには、センチメートル・グラムでは小さすぎるということである。そのため、科学で使われる単位系の主流はメートル・キログラム・秒を基本単位とするMKS単位系へと移行した。また上記に記された1889年のキログラムの新定義により、それ以降のメートル法において質量の基本単位としての礎を築いた。MKS単位系を更に発展させた国際単位系 (SI) においても、キログラムが基本単位として引き継がれている。(出典:Wikipedia) 



質量の起源 (ブルーバックス)
クリエーター情報なし
講談社
物質のすべては光―現代物理学が明かす、力と質量の起源
クリエーター情報なし
早川書房

ブログランキング・にほんブログ村へ 人気ブログランキングへ   ←One Click please