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温度計に必要な「定点」
1702年、100℃で沸騰、0℃で融解する水を基準として、初めて目盛付き温度計がデンマークのオーレ・レーマーによってつくられた。沸点と融点2つの定点があり、それに目盛りをつけることで温度計はできている。このように温度計には基準となる温度「定点」が必要である。 

温度はいったい何度から何度まであるだろうか?

正解は低い温度は絶対零度で−273.15℃。高い方はブランク温度で1.41679×100000000000000000000000000000000(10の32乗)K。プランク温度というのは、ビッグバンの瞬間から一定時間経過したときの宇宙の温度である。理論的には高い温度に上限はない。

これだけ温度には幅があるのに、低温から高温までどうやって温度を測定するのだろうか?温度計には定点が必要であった。低い温度では液体窒素沸点 −196 ℃、液体ヘリウム沸点 -272.2 ℃と決まった定点が存在し、これらをもとに温度計はつくられ、測定する。

「高温定点」とは何か?
ところが高い方の定点「高温定点」は、これまで銅の凝固点1084.62℃を超える定点が存在しなかった。つまり、太陽の表面温度は6000℃太陽の中心は1600万℃...などは、おおよその温度で表されている。

先日、産業技術総合研究所の山田善郎主任研究員は、今まで不可能だった高い温度の世界で、高温の定点を次々と生み出すことに成功した。高温の世界では、金・銀・銅などの純粋な金属の融解点や凝固点などを温度の基準点にしていた。

ところが今回発見された定点は、純物質ではなく「金属と炭素の合金」。この定点は「金属−炭素共晶点」という。発見された定点は、鉄−炭素共晶点、コバルト−炭素共晶点(1324 ℃)、パラジウム−炭素共晶点(1492 ℃)、白金−炭素共晶点(1738 ℃)、レニウム−炭素共晶点(2474 ℃)の5点が発見された。このとき合金は固体から液体に融解するが、温度が一定して変化しない融点が観察された。

「計量標準」とは何か?
長さ1mは光の速さの30億分の1秒の間に進む距離。質量1kgはキログラム原器が基準になって決められている。温度については、初めは水の0℃〜100℃が基準であった。しかし、温度は低温から高温まで幅が無限に広く、特に高温の基準である「高温定点」を多数決める必要がある。

このような計測の世界的な基準を「計量標準」という。産業や技術が高度化・国際化などするにつれ、より正確で広範囲な計量標準が求められている。

日本で計量標準の研究や開発を担っているのが産業技術総合研究所の計測標準研究部門。正確で再現性が高く、世界に通用する新たな「計量標準」を生み出そうと、日夜研究が続けられている。

関連するニュース
1000℃以上の温度計の信頼性向上
高温域の温度標準
温度計の高精度な校正には、温度標準器として温度定点装置が用いられます。温度定点とは物質が相転移する温度の再現性・安定性がよいことを利用した温度標準です。代表例としては、水の三重点(水の気相・液相・固相が共存する温度、0.01 ℃)や、金(1064.18 ℃)・銀(961.78 ℃)・銅(1084.62 ℃)などの純金属の凝固点があります。しかし、これまで実用化されていた温度定点で最も高温のものは銅の凝固点でした。  

一方、1100 ℃以上の温度域には製鉄プロセスの高度化や次世代原子力発電の安全性確保など素材産業やエネルギー産業において温度管理の信頼性向上に多くのニーズを抱えています。産総研では1100 ℃から2500 ℃までの温度域にある独自の温度定点5種類を世界に先駆けて実用化し、これらの定点により温度校正サービスを開始しました。

金属−炭素共晶による高温定点
1100 ℃以上の高温域に温度定点を実現する試みは1900年代初頭より世界的に行われてきたものの、実用性のある定点は得られていませんでした。産総研は高温域の温度定点を可能にする「金属−炭素共晶点」を1999年に世界に先駆けて提案し、世界各国の国立の標準研究所と競って実用化研究を進めてきました。

1100 ℃以上の温度定点が、それまで実用化できなかった理由は、温度定点物質の純金属を入れ、温度測定を行うために用いる容器(るつぼ)のグラファイト(炭素)が高温によって溶け出し、るつぼ内部の純金属を汚染してしまうためでした。そこで、産総研は、金属−炭素合金を用いれば炭素による汚染の問題を解決できることを発案しました。実験的にも、金属と炭素を「共晶*」と呼ばれる合金の組成にすれば再現性のよい融解温度が得られ、単一のるつぼを使用しての温度定点の繰り返し再現性は0.05 ℃以下、異なるるつぼ間でも0.2 ℃以下の再現性を確認しています。

金属−炭素共晶点を用いた温度校正サービスを開始 
産総研では、「金属−炭素共晶点」として、鉄−炭素共晶点(1153 ℃)からレニウム−炭素共晶点(2474 ℃)まで9種類について性能を実証しました。これらのうち、鉄−炭素共晶点(1153℃)、コバルト−炭素共晶点(1324 ℃)、パラジウム−炭素共晶点(1492 ℃)、白金−炭素共晶点(1738 ℃)、レニウム−炭素共晶点(2474℃)の5点で新たに温度校正サービスを開始しました。(2008.4.15 産総研プレスリリース) 

参考HP 産総研プレスリリース「1000℃以上の温度計の信頼性向上」 → 
 http://www.aist.go.jp/aist_j/aistinfo/aist_today/vol08_07/infra/p19/p19.html
NHKサイエンスZERO「知られざる計量標準〜高温定点 誕生〜」 →
 http://www.nhk.or.jp/zero/contents/dsp227.html

 

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