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「脳科学」黎明期の功労者死去
脳の研究が進んでいる。いままで想像もつかなかった脳のはたらきが次々に解明されている。先日、脳の一部にメスを入れて切除する実験的治療を受けて、脳の機能解明に一役買った、米国の男性患者が82歳で亡くなった。

この男性はヘンリー・モレゾンさん。米コネティカット州の老人ホームで2日、呼吸不全のため亡くなった。研究論文などではプライバシー保護のために「H.M」という名前で呼ばれ、脳研究分野では世界的に知られていた。

モレゾンさんは9歳のときに自転車とぶつかって頭を強く打ち、原因不明のけいれん発作に悩まされるようになった。18年後の1953年、脳の「海馬」などを切除する手術を受けたあと、昔のことは鮮明に覚えているのに、新たな記憶がほとんどできなくなる「超記憶喪失」になった。

その後認知科学や脳科学の研究に進んで協力。当時はほとんどわかっていなかった脳機能の解明に貢献した。現在、海馬は学習や記憶で重要な役割を担っていることがわかっている。こういった人たちの自己犠牲の精神が、現代科学の発展に役立っていることは感謝せねばならないと思う。

機能的MRIで脳の血流をみる 
近年、コンピュータ技術の発展に伴って、生きている人間の脳の形や働きを画像として観察することが可能になってきた。脳の形をみる装置としては、MRIと呼ばれる装置やX線CTと呼ばれる装置が用いられている。これらの装置を用いることにより、たとえば脳のどこに病気があるのか、脳神経細胞がどの程度減少しているのか、を目で見ることができる。

脳の働きをみる装置としては、ポジトロンCTと呼ばれる装置や機能的MRIと呼ばれる装置がある。これらの装置を用いると、人間が考えたり動いたりしている時の脳の働きや、脳神経細胞の働きの悪い場所がわかる。これらの方法はいずれも、脳にメスを入れて人体実験する必要がないことから、非侵襲的方法と呼ばれている。

東北大学の川島隆太教授らは、健常な人間を対象として、機能的MRIを用いてさまざまな作業を行っている時の脳活動を計測してみた。目を閉じてじっと考えている時には、前頭葉という所にある手足の運動を司る場所にのみ、強い活性化が認められた。音楽を聴いている時には、側頭葉という所にある音を聞く時に働く場所(聴覚領域)だけが活性化をしめした。

読書・計算力が前頭葉を活性化する
話し言葉を聞いている時には、前頭前野、聴覚領域を含む広範な側頭葉の領域、頭頂葉と呼ばれる所にある言葉の理解と関係のある場所が、左右両側の脳とも活性化していた。足し算や引き算といった単純な計算を行っているときには、やはり左右両側半球の前頭前野、頭頂葉、ものを見る時に働く場所(後頭葉)が活性化した。

文章を読んでいる時には、前頭前野、頭頂葉、側頭葉、後頭葉のさまざまな場所が、両側ともに活性化していた。また、音読をするとこれらの活性化は、さらに強くなることがわかった。これらの実験から、文章を読んだり、計算をしたりすることが、前頭前野をとてもよく活性化するとの結論に達した。

最近は「3才までの幼少期に十分な愛情を受けないと、前頭前野の機能障害を引き起こす。このため凶悪事件が増えている」と指摘する研究者もいる。読書や計算の訓練が世の中を安心して生活できる世界へ変えてくれるのだろうか。 

 

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