「産業廃棄物」から発生する硫化水素

 「廃棄物」とは私たちが一般に「ゴミ」と呼んでいる物。たいていの「ゴミ」は、リサイクルやリユースが進んでいて再資源化されるが、最後に残ったものは、焼却するなどの中間処理を経て最終的には、減容化、安定化、無機化、無害化を行い、最終処理場で土中に埋める。しかし、完全な無害化は難しく、水質汚濁の原因となる場合がある。

 現在、「産業廃棄物」が埋められている場所は全国で2700ヶ所。その中で香川県・豊島や滋賀県・栗東市などで、硫化水素などの有毒な物質が検出されて、問題になっていることを学んだ。



 今年流行した硫化水素

 今年は硫化水素を使った自殺や事件が起こり、この気体の恐ろしさを再認識した。今年の4月〜5月には硫化水素による自殺が流行した。

 5月15日午前10時半ごろ岡山駅西口の「東横イン」で男女2人が硫化水素で自殺、ガスが周辺に漏れだし、周辺住民約70人が非難する事件が起きた。

 5月28日には島根県松江市でやはり駅前の「東横イン」の地下室から硫化水素が噴出した。現場付近の測定値は、不快なにおいと感じる0.4〜0.5ppmだったが、発生場所の貯水槽では致死量に至る2000ppmを検知した。8人が頭痛を訴え病院で手当を受けた。


 東横インと硫化水素の関係

 「また自殺か?」その時私はあまり気にもとめなかった。月日は過ぎ10月9日、いつしか硫化水素による自殺も忘れかけたころ、東横インの前社長の西田憲正と清原良昭が廃棄物処理法違反罪で松江地検に起訴された。

 起訴状によると、清原被告は部下らと共謀し、平成16年10月下旬から約2カ月間に、硫化水素の発生源とみられる石膏ボードなどの産業廃棄物計約30トンを不法投棄したとされる。清原被告は「経費削減のため投棄を指示した」と供述している。そして今年5月28日、投棄されていた石膏ボードと雨水が化学反応し、硫化水素が発生。住民ら8人が病院で治療を受ける事件が起きていた。


 「石膏ボード」とは何か?

 何と産業廃棄物である「石膏ボード」から硫化水素が発生したというのだ。いったい「石膏ボード」からどうやって硫化水素が発生するのだろうか?

 調べてみるとまず「石膏ボード」とは、石膏を主成分とした素材を板状にしたものを、2枚の厚い紙などの板でサンドイッチ状に挟んだもの。安価であるが非常に丈夫で、建築材料として壁や床を造る際に広く使用されている。耐火性や防音性に優れる。

 なぜ建築材料として、石膏が使われるのだろう?石膏は化学式「CaSO4・2H2O」。分子中に結晶水を含んでおり、炎や熱に晒されるとこの水が蒸気として空気中に放出され同時に熱を吸収するため、炎や熱に強い。石膏ボードには約21%に相当する結晶水が含まれており、これが耐火性に大きく寄与している。


 なぜ「石膏ボード」から硫化水素が?

 最終的に石膏ボードは産業廃棄物として処理されるが、土中に埋められ、酸素が不足してくると硫酸還元菌がはたらき出す。酸素がなく、水分と有機物と硫黄分があり、30℃以上の温度になれば硫酸還元菌は喜んで硫化水素を発生する。

 対策としては廃材を新しい石膏ボードに混ぜて使うことが考えられているが、強度が落ちる問題がある。石膏の固まるという性質を利用して、土壌の補強剤や崖の吹き付け剤などの土木関係への利用が考えられているが、馴染みがまだない。

 これ以外には酸化鉄を混ぜたり、硫酸還元菌を殺菌する成分を混ぜて、硫化水素の発生を抑えることが考えられているが、値段が1割高くなる。


 NHKクローズアップ現代「突然の有毒ガス発生〜石こうボードの落とし穴〜」

 10月末、東横イン元社長が廃棄物処理法違反で逮捕された。松江市のビジネスホテル地下に石こうボードを放置した疑い。その石こうボードから猛毒の硫化水素が発生したのだ。

 石こうボードは天井板や壁材として広く使われる建材だが、水や温度、酸素が無いなどの条件が揃えば"有毒ガス"を発生させる。この硫化水素、実は全国の不法な投棄現場で発生している。例えば、埼玉県のある町では、致死濃度の2倍が発生。

 県は100カ所近い不法投棄現場の調査を進める事態となっている。背景には、本来、石こうボードを引き取る管理型処分場の費用が高い上、紙などの不純物が混じりリサイクルしにくいという構造がある。今後、高度経済成長期に作られた建物の建て替えに伴い、石こうボードの大量廃棄時代がやってくる。知られざる危険に警鐘を鳴らすとともにその対策を考える。(NO.2673)



百年の負債―産廃不法投棄事件を追う
岐阜新聞産廃問題取材班
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西田 憲正
日本評論社

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