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生産量世界一の化学薬品とは?
硫酸は化学式 H2SO4 で示される無色、酸性の液体で強酸である。できれば身近には置きたくない物質である。この硫酸が、世界で一番多く生産されている化学薬品だと聞くと驚く。
2000年現在の年間生産量では、全世界の9600万トンのうち、中国が2400万トンを占める。次いで、アメリカ合衆国の960万トン、ロシアの830万トン、日本の710万トン、インドの550万トンである。中国とインドは5年間で生産量を約30%伸ばしており、ロシアも成長しているが、日本は微増にとどまり、アメリカ合衆国は減少している。
いったいこの硫酸、何のために使うのであろうか?
硫酸(H2SO4)は活性が高く、化学工業において触媒として広く使われている。触媒とは、自らは変化せずに目的の化学反応を促す物質のことで、ハイオクタン、ナイロンの原料、2級アルコール、食品添加物、医薬品など身の回りの多くの製品に利用されており、化学工業にとって無くてはならない化合物と言える。
あの危険な薬品のどこにそんなパワーが秘められているのだろうか?
硫酸パワーの秘密
調べてみると、硫酸には2つの意味がある。
ひとつには脱水剤。硫酸は水を強力に引き付ける力があるため、反応の結果生成する水を取り除くことができ、それによって脱水反応を促進する効果がある。ただこれだけなら、硫酸以外の脱水剤でも同様の効果が得られる。
第2に、酸が触媒となる効果。例えばエステル形成反応で、カルボン酸とアルコールがあれば反応はおこる。しかし、その速度はそのままではとても遅い。酸はそれを加速する触媒となる。この点では硫酸以外の酸でもかまわない。
硫酸はこのように、脱水剤と触媒の両方の性質を持っているので、さかんに利用されるというわけだ。
硫酸触媒の問題点
このように、優れた触媒である硫酸にも問題があった。それは、硫酸は液体であるため、触媒として使用すると反応生成物(液体)と混ざり合ってしまうという点である。反応生成物に含まれる硫酸は中和して硫酸塩に変え、精製して取り除かなければならない。このため、大変コストがかかった。しかも硫酸は再利用できない。
2005年12月、東京工業大学の原亨和教授らのグループは、この問題を解決するために、硫酸と同様の活性を備えており、しかも反応生成物と混ざらない「固体触媒」を開発することに成功した。
さらに、この「固体触媒」は安価な原料から簡単に製造でき、反応生成物と混ざらず分離が容易であり、繰り返し利用できる優れもの。この「固体触媒」は簡単にいうと、硫酸と炭を結合させてつくる。
「固体酸触媒」の開発成功
原教授らは、強酸であるスルホン酸基(-SO3H)を芳香環でできているカーボンに結合させれば、高い触媒活性を有する固体を合成できると考えた。具体的には,原料である砂糖やセルロース、でんぷんなどを300℃〜400℃に加熱し、炭化させて微小なカーボンシートの集まりを製造した(図)。続いてスルホン化処理により、スルホン酸基が高い密度で結合した触媒(炭の粉末)を合成した(図)。
ここで重要なのは、スルホン酸を結合させる芳香族炭化水素の材料組成である。カーボンシートが小さすぎると、水や有機溶媒に溶けてしまうので、硫酸と同様の問題が起きる。一方、カーボンシートが大きな炭や活性炭では、スルホン酸基が高い密度で結合せず、さらに、水分によってスルホン酸基が簡単に分離して硫酸となってしまう。
水や有機溶媒に溶けず、しかも、スルホン酸基が高密度に結合するような適切な大きさのカーボンシートをもった炭を生成しなければならないことを、原教授らのグループは見い出した。
合成した触媒は非常に安定であり、水や有機溶媒などに全く解けない(図)。既存の固体触媒に比べるとはるかに高い触媒活性を示す。今後は石油化学製品の合成や燃料電池材料、バイオディーゼル(植物から作るディーゼル燃料)の合成などに利用できそうだ。
関連するニュース
原亨和教授が米科学誌の2006年ベスト50に
米国の科学誌「サイエンティフィック・アメリカン」が、政策、経営も含め、その年に科学技術分野で顕著な業績を上げた人物、組織50を選ぶ「2006年トップ50」に、原亨和・東京工業大学教授(「科学者になる方法」参照)が選ばれた。
同誌の日本版「日経サイエンス」2007年1月号に掲載されている。
日経サイエンス誌によると、原亨和教授の受賞理由は「砂糖やデンプン、セルロースを焼いて硫酸で処理したものが、バイオディーゼル製造用の優れた個体酸触媒となることを実証した」業績。
石油の代わりに植物を原料とするバイオ燃料の実用化は、地球温暖化対策の一環としても期待が大きい。硫酸のような液体ではなく、何度でも利用できる固体触媒を、植物からつくったことが、安いバイオ燃料の製造につながる成果として評価された。
ベスト50には、地球温暖化対策に積極的に取り組んだゴア元米副大統領も、「最優秀政策リーダー」として選ばれている。
原教授の受賞分野である、グリーンエネルギーの他の受賞者は、すべて環境対策面での業績を評価された欧米の企業で、トヨタの「プリウス」向けに、それぞれプラグイン・ハイブリッド用キットを開発した米国のイードライブ・システムズ社と、カナダのハイモーション社も含まれている。
(サイエンスポータル 2006年11月24日)
参考HP Naturevol.438,no.178 「Green chemistry: Biodiesel made with sugar catalyst」
東京工業大学HP 硫酸に匹敵する触媒を安価な原料から簡単に製造
NHK「爆笑問題のニッポンの教養」「永久エネルギー誕生!」
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