よく使われる化合物は何か?

 一番人類が消費する化合物は何であろうか?

 何といっても水であろう。ふだん何気なく使っているが、水はれっきとした水素と酸素の化合物である。何だと思った人も多いであろう。しかし、身の回りに化合物は多い、二酸化炭素もそうであるし、食塩もそうである。紙もセルロースという高分子化合物である。では化学薬品としてよく使われる物質は何であろうか?

 化学薬品としては、意外にも危険な硫酸が最も多く製造され、使用されている。理科の実験で、よく使う炭酸水素ナトリウムも多量に生産され、実にさまざまなところで使用されている。炭酸水素ナトリウムほど、いろいろと役に立つ化学薬品はないのではないだろうか?

 用途多彩 炭酸水素ナトリウム(重曹)

 食品添加物

 まず、食品添加物としてよく用いられる。加熱によって分解し二酸化炭素を発生する性質から、ベーキングパウダーなどとして調理に使われる。口中で炭酸ガスを発生させるソーダ飴などには粉末で封入される。ワラビなどの山菜のアク抜き、松の実などの臭み取り、豆を早く煮るため、肉を柔らかくする下ごしらえ、グレープフルーツや夏みかんの強烈な酸味を中和させるために直接かけたり、冷凍エビの食感改善などにも使うことができる。

 炭酸水
 次に炭酸水の原料としても使われる。炭酸水素ナトリウムとクエン酸を混ぜると炭酸ガスが発生し炭酸水となるので飲料としても用いられ、レモンを加えレモンソーダにしたり、砂糖を混ぜサイダーを作ることもできる。

 洗剤
 次によく使うのが汚れ落としである。研磨効果、鹸化(乳化)効果から、洗剤や洗剤の補助として、ティーカップなどの茶渋落とし、換気扇などの固着した油汚れ・焦げ落としに使用されたりする。

 重曹は、水質汚染で問題とされるBOD・COD値がなく、環境ホルモンも含まれていないため環境にやさしいとされる。また食品添加物としても使用できるくらい人体に対して安全であることも売りとなっている。ただし石けんなどの界面活性剤と比べると軽い汚れしか落ちない。

 脱臭剤
 また、酸性の臭いに対する脱臭効果があり、肉・魚臭さを消したり、靴箱の脱臭剤などにも使用できる。最近では歯磨きやうがいなどにも使用されることがある。

 入浴剤
 さらによく使うのが入浴剤である。ほとんどの入浴剤に使用されている。特にバブなどは、クエン酸と重曹がお湯の中で反応し、炭酸の心地よい泡を発生させる。血行促進、疲労回復効果があるという。天然の温泉に含まれる場合は重曹泉というものがある。

 消化剤
 加熱すると二酸化炭素を発生するので、消火剤として使用される。消防法施行規則第21条の規定による第一種粉末消火薬剤であり、B火災(油火災)とC火災(電気火災)に適応していることから、BC粉末消火剤とも呼ばれる。 粉末の消火薬剤は消火原理は熱分解によって生成されたナトリウム金属イオンが燃焼反応で生じる遊離基(OH・、H・)と結合することで燃焼の継続を抑制する。安価な事から、化学消防車や消防艇の粉末消火装置に用いられる。

 医薬品
 医薬品としては、胃酸過多に対して制酸剤として使われる。ただし胃液には塩酸が含まれているために、炭酸水素ナトリウムは急速に分解し二酸化炭素の気泡が発生する。この気泡が胃を刺激し、さらなる胃液の分泌を促進することが知られている。

 炭酸水素ナトリウム製造法
 このように、炭酸水素ナトリウムの用途は広い。この便利な薬品は、どのように製造されるのであろうか?

 塩化ナトリウム溶液の電気分解で得られた、水酸化ナトリウム溶液に二酸化炭素を反応させてつくることができるが、工業的はアンモニアソーダ法(ソルベー法)という方法で大量につくられる。

 発見者エルネスト・ソルベーはベルギーの化学者である。彼は、また実業家、慈善家でもあった。彼は病気のため大学に行くことができず、21歳の時、叔父の化学工場で働き始めた。1861年に無水炭酸ナトリウムの製造法「ソルベー法」を発明した。

 多才 エルネスト・ソルベー
 1863年に最初の工場を設立し、1872年までに製造法を完成させ、特許を取得した。ソルベー法の工場はイギリスやアメリカ、ドイツ、オーストリアに建設された。今日でも世界中で約70の工場が稼動中である。

 この特許は彼に莫大な利益をもたらした。彼はそれを慈善事業のために使い、ブリュッセル大学に物理と化学の国際的な研究所をはじめとして、社会学の研究所も設立した。1903年にはブリュッセル大学の一部として、『ソルベービジネススクール』を設立した。

 彼はベルギーの上院議員を2回務め、晩年には国務大臣にもなった。体にハンデを持ちながら、大活躍の人生を送り、1922年、ベルギーのイクセルで死亡した。

 ソルベー法(アンモニアソーダ法)とは何か?
 ソルベー法とは、炭酸ナトリウムや、炭酸水素ナトリウムの工業的製法。電気分解が必要ないため、低コストで生産できる方法である。また、副材料のアンモニアと二酸化炭素を回収し再利用できるといった特徴も持っている。電離しにくい二酸化炭素をアンモニア水で電離させるのがこの方法の主要な部分である。

 原料としては安価な石灰石、アンモニア、食塩、水を用いる。

1.まず石灰石を加熱して、二酸化炭素を発生させる。この方法は大量の二酸化炭素が必要な時に用いられる。

   CaCO3 → CaO + CO2

2.次に、食塩を水に飽和させ、そこにアンモニアを十分に溶かした後、二酸化炭素を通じると、溶解度の低い炭酸水素ナトリウムが沈殿する。

   NaCl + H2O + NH3 + CO2 → NH4Cl + NaHCO3 


3.沈殿した炭酸水素ナトリウムを取り出し、熱分解して炭酸ナトリウムを得る。

   NaHCO3 → Na2CO3 + H2O +CO2

4.この方法の優れたところは使用した二酸化炭素、アンモニアが何度も回収、再利用できるところである。

 最初に生成された生石灰は水と反応させ、消石灰とする。

   CaO + H2O → Ca(OH)2
 
 消石灰と塩化アンモニウムを反応させると、アンモニアが回収され、二段目の工程に再利用することができる。

   Ca(OH)2 + 2NH4Cl → CaCl2 + 2H2O + 2NH3↑ 
   
上記の反応を行わず、得られた塩化アンモニウムを肥料として利用することもある。ただしこの場合アンモニアは回収されず、商品に含まれて出荷される。 また、塩化カルシウムは中性の乾燥剤・除湿剤としても使われる。

炭酸ナトリウムをアメリカのトロナから天然品を多量に得ることができる現在では、ソルベー法はかなり衰退した。また、塩化ビニルなどの原料として多量の塩素が必要とされる現代では、食塩の電解により生じる水酸化ナトリウムが余剰になり、二酸化炭素による中和により製造される炭酸ナトリウムの量も無視できない。

参考HP Wikipedia「ソルベー法」「エルネスト・ソルベー」「炭酸水素ナトリウム」 

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