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 重力が生物に及ぼす影響とは?
 私たち生物はあまり意識していないが、重力には大切なはたらきがある。植物は重力があるから、根を下に伸ばし、芽が上に伸びる。ヒトも重力があるから方向を判断したり、バランスをとっている。

 重力がなくなるとどうなるのだろう?宇宙飛行士の若田さんは7月31日、宇宙から帰ってきた。4ヶ月半も宇宙にいたのに、着陸後わずか4時間の記者会見に、しっかり歩いて笑顔で答え、私たちを驚かせた。

 通常宇宙で生活すると、通常は筋肉や骨が減少する。帰還後の筋力は約20%減少。骨からカルシウムが溶け出し、骨粗しょう症に近い状態になる。若田さんは、カルシウムの流出を抑える薬を服用したり、飛行前の筋力トレーニングを強化し、筋肉を約10%増やして臨み、ISSでは毎日2時間運動したという。

 また、微小重力環境においては、人の免疫能も低下することが知られ、特に免疫機能の中心的役割を果たすTリンパ球の機能が低下することが報告されている。最近は重力遺伝子の存在も研究されはじめた。

 人類は地球外で繁栄できるか?
 私たちは将来、宇宙ステーションや月面基地で人類が恒常的に生活し、繁栄していくことを計画している。そのためには、人や動物が宇宙空間で健康に生活し、繁殖していくことが不可欠である。

 1979年にロシアの研究グループが行ったラットの繁殖を試みた実験は失敗に終わり、それ以降ほ乳類の繁殖実験はほとんど行われていなかった。その原因は、宇宙空間へ実験システムを打ち上げるコストが高価なことや、生物発生に関する宇宙実験が、現在の技術ではまだ不可能だからだ。

 今回、理化学研究所と広島大学の研究チームは、三菱重工と協力して、重力のほとんどない状態(微少重力)をつくり出す装置(3D-クリノスタット)を開発。重力のほとんどない状態で、マウスの受精や発生が正しく行われるかどうか観察した。

その結果、微少重力下では、受精は正常に行われたものの、発生の過程で胚の発育段階が阻害される可能性のあることが発見された。

 微少重力下では繁殖できない?
 具体的には、マウスの受精卵を培養を続けると、2細胞期の発生率には、通常の重力と無重力で差は見られなかったが、胚盤胞期への発育は通常の重力が57%だったのに対し、無重力では30%に低下した。

 また、それらの胚をメスの卵管あるいは子宮に移植し、子への発育能を調べたところ、2細胞期では、産仔率は通常では63%に対して、無重力では35%に低下してしまった。96時間で回収した胚盤胞でも同様に、通常では38%に対して、無重力ではわずか16%の産仔率しかなかった。しかし、生まれたマウスは外見も繁殖能力も正常だった。

 この実験結果は、初めて、ほ乳類である人類が、宇宙ステーションあるいは月面基地で、子孫を作ることは困難である可能性を示したことになる。

関連するニュース
サイエンスポータル編集ニュース「宇宙は子づくりに不適?」
飛行中の宇宙船内などの微少重力環境下では、受精に影響は見られないものの胚の発育が阻害される恐れがあることを、理化学研究所と広島大学の研究チームが動物実験で確認した。

 研究チームは、哺乳(ほにゅう)類が宇宙ステーションや月面基地で子孫をつくることが困難である可能性を示した初めての研究結果だ、と言っている。

 地球を周回中の宇宙船や宇宙ステーション内での哺乳類の生殖に関する研究は遅れている。魚類やは虫類と異なり、哺乳類は重力に敏感で交尾をしなくなってしまうためだ。

 理化学研究所発生・再生科学総合研究センターの若山照彦・ゲノム・リプログラミング研究チームリーダーと弓削類・広島大学大学院生体環境適応科学教室教授らが用いたのは、弓削教授と三菱重工が共同開発した3次元重力分散型模擬微小重力装置。

 地球の重力の千分の1という微小重力下でマウスの精子と卵子を体外受精させ、受精卵の異常の有無、胚にまで培養した時の胚の状態、さらに胚を雌の卵管あるいは子宮に移植し、子の発育にどのような影響が出るかを調べた。雌マウスの飼育だけは通常の重力下で行った。

 この結果、受精は正常に行われたものの、胚発生や出産率は通常の重力下の約半分に低下し、微小重力の影響が確かめられた。

 実験が行われた地球上の千分の1に相当する重力は、スペースシャトル内と同じで、国際宇宙ステーションの日本実験棟「きぼう」内はさらに1けた小さく、地上の1万分の1という微小重力環境となっている。

 人類が宇宙でより広範に活動する可能性を探るためには、「きぼう」などを利用した本格的な繁殖実験に取り組む必要がある、と研究チームは言っている。(2009年8月27日)

参考HP Wikipedia「胚発生」・サイエンスポータル・理化学研究所プレスリリース
→ 「
地球の重力が哺乳類の正常な胚発生に必須の可能性を示す 

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