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 フラーレンとは何か?
 フラーレンとは何だろう?フラーレンとは最小の構造が多数の炭素原子で構成されるクラスター(集合体)の総称である。構造の始まりが14個であるダイヤモンドや6個のグラッフェンやグラファイトと異なり、数十個の数の原子から始まる炭素元素同素体である。

 1985年に最初に発見されたのは、炭素原子60個で構成されるサッカーボール状の構造を持ったC60フラーレンである。この発見により、ハロルド・クロトー、リチャード・スモーリー、ロバート・カールは、1996年度のノーベル化学賞を受賞した。

カーボンナノチューブも炭素原子で構成されるクラスター(集合体)なのでフラーレンに分類される。 一般的なのはC60フラーレンでサッカーボール状の構造をしているが、炭素数が70, 74, 76, 78……のものも単離されている。

 フラーレンはサッカーボール型のユニークな形が印象的であるがさまざまな特性があり、医薬、化粧品、潤滑剤など多様な利用法が考えられている。

 高密度記憶媒体
 今回、物質・材料研究機構の研究チームは、フラーレンのひとつC60が超高密度のデジタル情報を書き込み、書き変え、読み出しできる次世代情報素子になり得る方法を開発した。

 現在実用化されている高密度情報蓄積技術に比べ約1,000倍、基礎研究レベルの技術と比べても10倍以上の超高密度デジタル情報を蓄積できる、と研究チームは言っている。

 物質・材料研究機構国際ナノアーキテクトニクス研究拠点の中山知信グループリーダー、中谷真人研究員、大阪大学大学院工学研究科の桑原裕司教授らが開発した方法は、C60分子へ電圧をかけたり、切ったりすることでC60分子同士が化学結合したり、結合が解消されたりする性質を利用している。シリコンないしグラファイトの基板上にC60の超薄膜を形成、とがった金属針を接近させて電圧をかけたり、切ったりすることで、デジタル情報が蓄積できることを確かめた。

 現在、最も普及している記録素子であるハードディスクドライブ(HDD)の蓄積密度は、1平方インチあたり約300ギガビット。研究グループは1平方インチあたり190テラビット(テラは1,000ギガ)の超高密度デジタル情報を記録、消去、再記録させることに成功している。この動作が室温でできるのも長所だ。

 現在、1秒あたり約1キロビットの動作速度を高速化させることが今後の課題、と研究グループは言っている。(サイエンスポータル 2010年3月5日)

 フラーレンの記憶原理
 本研究グループは、新しい原理で駆動するエレクトロニクスの構築を目指して、C60分子間へ化学結合を形成した状態(結合状態)と結合を解消した状態(非結合状態)を自在に制御する方法を開発してきた。今回、フラーレンC60分子2)の超薄膜を記録媒体として利用し、現在実用化されている高密度情報蓄積技術に比べ約1,000倍、基礎研究レベルの技術で比較しても従来の10倍以上の超高密度デジタル情報を蓄積する方法を開発した。

 通常、C60分子は分子間力で凝集し固体結晶を構成しているが、高温・高圧条件下や電子線などの照射によって分子間に化学結合が形成されることが知られていた。このたびの情報蓄積法の開発は、分子薄膜中の意図したC60分子の結合/非結合状態を室温制御する新しい方法の発見と、その現象の機構を詳細に解明する基礎研究に基づいて行われた。

 記録媒体であるC60超薄膜へ先鋭化させた金属針を接近させ、金属針直下のC60分子へ化学反応を誘起する研究を系統的に行ったところ、C60分子の結合状態と非結合状態を意図的に選択する方法を見出した。結合状態(“1”)と非結合状態(“0”)からデジタル情報を構成し、情報蓄積を行ったところ、既存のストレージ素子の約1,000倍の面密度でデジタル情報を記録、消去、再記録することに成功した。この蓄積情報は、室温下で良好な不揮発性を示す。さらに、“1”および“0”状態を簡便に読み出す方法を考案し、その実証にも成功した。研究グループは結合するC60分子の数の制御によって、”2”, “1”, “0”の多値記録にも成功した。

 本研究成果の詳細は学術雑誌Advanced Materials(出版社:WILEY-VCH)へオンライン掲載されており(DOI: 10.1002/adma.200902960)、現在印刷中である。また、今回発表された、記録媒体とそれを用いた情報蓄積方法は国際特許出願済(PCT/JP2008/054917)である。

 フラーレンの性質
 フラーレンは物理的に極めて安定で、水や有機溶媒に溶けにくい性質を持つ。このため、この物体単体の利用開発が妨げられている。

 だが、化学反応性には富み、化学修飾をほどこし水溶性を増させることで、いろんな分野での開発研究が進められており、様々な試薬と反応することが知られている。これは球面状に芳香環が歪められているため芳香族性が低下し、適当な反応性を持つためと考えられる。

 これまで考えられてきたフラーレンの利用方法には、潤滑剤、医薬、化粧品などがある。

 潤滑剤
 フラーレンをグラファイトの基板で挟み込むことで、接触面の動摩擦がゼロのナノギアになるという。これは喩えれば、パチンコ玉を敷き詰めた上に板を載せるとよく滑るようなものである。ナノレベルの超潤滑剤や、ナノベアリングとしての応用が期待される。

 また、フラーレンを混合したポリウレタン樹脂を表面に塗布したボウリングのボールなどのスポーツ用品、エアコンのオイルなどが実用化されている。

 医薬
 ヒト免疫不全ウイルス(HIV)の特効薬としての利用が検討されている。HIVは増殖の際にHIVプロテアーゼという酵素を必要とする。この酵素は脂溶性の空隙があり、ここにちょうどフラーレンがはまり込んでその作用を阻害する。このためある種のフラーレン誘導体は抗HIV活性を示し、臨床試験が進行中である。

 遺伝子の導入にフラーレンが有効であることが判明している。C60フラーレンに4つのアミノ基をつけた水溶性フラーレン(TPFE)はDNAとの結合が可能である。DNAと結合したTPFEは細胞膜を通り抜けた後に分離し、放たれたDNAは発現する。フラーレンは低毒性で、TPFEを使った遺伝子治療は安全だといわれている。遺伝子導入には今までウイルスや脂質類似物を「運び屋」として使う方法があったが、臓器障害などの安全性の問題があった。

 しかし、東大大学院理学系研究科の中村栄一教授と東大医学部付属病院の野入英世准教授らの、マウスを使った実験ではTPFEによる遺伝子導入に臓器障害が見られなかったという。また、TPFEは安価で大量生産できるため、TPFEによる遺伝子治療は安価で利用できるという。

 化粧品
 活性酸素やラジカルを消去する作用により、美肌効果や肌の老化防止効果があるとされており、美容液やローションなどに配合されている。

 

参考HP Wikipedia「フラーレン」・物質材料研究機構「従来より10倍以上超高密度のデジタル情報 

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