太陽の極に強い磁場

 国立天文台を含む日米欧国際研究チームは、太陽観測衛星「ひので」に搭載された可視光・磁場望遠鏡により、これまで困難であった太陽極域の磁場の観測を行い、太陽の極域には、黒点並みの1000ガウスを超える強い磁場が存在することを発見した。

 この成果は、「ひので」衛星によって鮮明な太陽極域の画像を取得することに、世界で初めて成功した結果もたらされたもの。観測の結果、今回発見された磁場は、斑点状の形状をしており、太陽の極域全域に存在する。これらの斑点状磁場は、大きさと寿命が黒点に比べて非常に小さいという特徴がある。




  太陽観測衛星「ひので」
 「ひので」衛星による観測結果が明らかになる前は、太陽極域には広がった弱い磁場しか存在しないと考えられていた。つまり、今回の研究成果は、これまでの太陽極域に対する認識に変更を迫る極めて重要な結果である。

 太陽の極域の観測は、今後の太陽活動を予測する上でも極めて重要である。太陽活動は予想以上に静穏な状態を続けており、研究チームは、「ひので」衛星による太陽極域の精密観測を重点項目として継続している。研究チームは、今後の「ひので」衛星による継続的な観測により、太陽フレアや地磁気擾乱などを引き起こす黒点の形成や、太陽風を高速に加速するメカニズムなどを解明したいと考えている。

 さらに、「ひので」衛星の観測データに基づいた研究から、太陽活動周期や太陽の地球環境への影響の理解が進むと期待している。


 黒点の「たね」になる磁場

 太陽の南極と北極に黒点並みに強い磁場が斑点状に散らばっていることを、国立天文台などが太陽観測衛星「ひので」を使って発見した。黒点のもとになる「たね」と考えられるという。国立天文台の常田佐久教授(太陽物理学)は「極域の磁場は将来の黒点数の重要な指標。地球の気候変動を予測する材料にもなるかもしれない」と話している。

 国立天文台野辺山太陽電波観測所(長野県南牧村)の下条圭美助教(同)らは、ひのでで極域付近の磁場を観測。両極に黒点とほぼ同じ1000ガウス程度の磁場が数十個点在することが分かった。直径約4000キロと黒点の10分の1以下、平均寿命は約10時間で、黒点(数日から数カ月)より短かった。


 太陽黒点11年周期に関係

 極域付近の磁場は、太陽の自転や対流によって内部で増幅され、約11年後に赤道付近の表面で一部が飛び出すと黒点になる。従来考えられていた極域の磁場は黒点のたねとなるには弱すぎたが、今回の磁場は十分な強度を持つという。


 黒点の数は11年周期で増減し、現在は数が減る「極小期」。2007年以降はほとんど現れず、黒点がまったくない日は通常の極小期より多いうえ、周期も延びている。過去には数百年から1000年の間隔で、50〜100年にわたり黒点がない時期があり、その多くは地球の寒冷期と一致する。(毎日新聞 2010年3月9日)

 「ひので」とは何か?

 「ひので(SOLAR-B)」は、世界で初めて、太陽磁場の最小構成要素である磁気チューブを空間的に分解して、磁場ベクトルを3次元的に測定する。これにより、コロナ加熱、フレア、コロナの質量放出など、太陽大気中で発生する磁気エネルギーの変動現象を捉え、太陽の外層大気であるコロナの成因、および光球での磁場構造の変動とコロナでのダイナミックな現象の関係を調べる。

 1.太陽磁場の生成と消滅
 宇宙には磁場が満ちている。磁場は宇宙のあらゆるスケールの現象の形を決めるのに重要な役割を果たしている。また、磁場は星内部のダイナモ現象により休みなく作られており、星風により宇宙空間へ吹き出されている。太陽は詳細な観測ができる唯一の恒星であり、11年周期で磁場が変動している。これにより、磁場の生成・消滅が詳しく調べられる。「ひので(SOLAR-B)」は、この太陽磁場の生成・消滅のメカニズムを探る。

 2.太陽の総放射量の変動
 最近20年間程の衛星からの太陽観測により、太陽の総放射量は一定ではなく、磁場の活動周期と同調して変動することがわかっている。また、その変動は非常に小さく、著しい気候変動を引き起こすのに必要な変動量 と比べ3桁以上も不足している。「ひので(SOLAR-B)」では世界で初めて、太陽磁場の変動のメカニズムと総放射量 の変動の相関を、高分解能、広い観測波長、長時間連続観測で調べる。

 3.紫外線・X線の生成
 紫外線やX線、高エネルギー粒子を使って観測すると、太陽は非常に強い放射源であり、その放射量は激しく変動している。この変動は地球の環境に多大な影響を及ぼす。これらの放射は、太陽の彩層やコロナでの磁気エネルギーの解放により引き起こされているが、詳細はわかっていない。「ひので(SOLAR-B)」により高空間分解能かつ高スペクトル分解能のデータが取得でき、磁気エネルギー解放のメカニズムである磁気リコネクションや波動エネルギーの散逸現象を研究する。

 4.太陽大気の爆発および膨張
 100万度のコロナは絶えず外へ向かって膨張し、超音速の風となって宇宙空間を吹ぬける。この風は地球磁気圏を擾乱し、地球上層大気のエネルギーを増加させている。さらに、広い範囲にわたってコロナの物質が爆発的に噴出されると、地球では磁気嵐が発生する。「ひので(SOLAR-B)」は太陽大気中の磁場分布や電流分布、速度分布の精密な観測を行い、太陽での爆発の原因を明らかにする。


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