科学大好き!アイラブサイエンス!最近気になる科学情報を、くわしく調べやさしく解説!毎日5分!読むだけで、みるみる科学がわかる!
 温暖化対策で見直される原子力
 現在、地球温暖化対策として、原子力発電が見直されている。政府の「地球温暖化対策基本法案(温室効果ガス25%削減)」でも原子力発電を推進。3月19日、自民党から衆院に提出された「低炭素社会づくり推進基本法案(温室効果ガス15%削減)」の中でも原子力発電所の利用率向上と新設・増設の促進を明記している。

 原子力発電の利点として、発電時に地球温暖化の原因とされる二酸化炭素を排出しないことや、酸性雨や光化学スモッグなど大気汚染の原因とされる窒素酸化物(NOx)や硫黄酸化物(SOx)を排出しないことがあげられる。

 また、中東に大きく依存するガス、石油と違い、ウラン供給国は政情の安定した国が多く、燃料を安定供給できることなどがある。発電コストに占める燃料費の割合が他の発電方法に比べ極めて低いため、コストパフォーマンスに優れている特性があり、雇用を生み出す産業になりうる利点もある。

 しかし、問題の方も大きい。原子力発電所の稼動中に発生する放射線や高熱への対処が難しい。重大事故が発生すると周辺環境に多大な被害を与え、その影響は地球規模に及ぶ。

 特に国土が狭い日本において、一旦チェルノブイリ級の事故が発生した場合、放射性物質による国土の汚染は日本国内の非常に広範囲に及ぶ。また、放射性物質であり生物化学的な毒性もある放射性廃棄物が発生する。 これらの問題のため、ドイツ、スペインなどのように原子力廃絶を目指している国もある。

 そもそも原子力とは?
 原子力とは、原子核反応により得られるエネルギー(核エネルギー)のことである。原子核反応には核分裂反応と核融合反応の二種類の反応があるが、現在原子力エネルギーとして実用化されているのは核分裂反応のみであり、そのため、単に「原子力発電」と言う場合には核分裂反応のエネルギーを用いた発電方法を指す。

 具体的には、ウラン鉱にふくまれるウランの放射性同位体であるウラン235は、容易に核分裂反応を起こすため、原子力発電に用いられている。しかし、この中にはウラン235が0.7%程度しか含まれていないため、原子炉で核燃料として利用するには、ウラン濃縮工程とよばれるウラン235の濃縮作業が必要となる。

 この濃縮ウラン235に中性子を当てると、核分裂反応が起きる。一度核分裂が始まると、その原子は中性子を放出。放出された中性子がまた別の原子に捕捉され、さらにまたその原子が分裂を起こし、そしてそこからまた中性子が放出され…、という連鎖反応が起きる。こうした連鎖反応により核分裂反応が持続している状態を臨界と呼ぶ。

 この時の温度は太陽の温度に匹敵する。原子炉において初めて臨界が達成された時を初臨界といい、これはその原子炉が実際に稼働した最初の時とされる。

 温室ガス25%減:原発稼働率88%必要 国環研試算
 民主党の言うように、国内対策だけで2020年までに温室効果ガスを1990年比25%削減する場合、原子力発電所の稼働率88%達成が必要だとする試算を、国立環境研究所がまとめた。3月19日に開かれた環境省の地球温暖化対策中長期行程表の検討会で報告した。

 試算では、2020年時点の産業部門の生産量を粗鋼1億1966万トン(2005年1億1272万トン)、セメント6699万トン(同7393万トン)などと仮定。25%減達成に必要な設備導入量は、家庭用太陽光パネルの設置世帯数が990万世帯(同26万世帯)、工場など大型施設の太陽光発電導入量は2560万キロワット(同30万キロワット)とした。

 原発稼働率は、2025年時点で88%とした。新潟県中越沖地震後の柏崎刈羽原発の長期停止の影響で、2008年度は60%にとどまっている。

 温室効果ガス25%減実現の追加投資額(省エネ型でない機器と比べて余分にかかる費用)は、11〜20年で年平均10兆円必要と試算。燃料費などが節約でき、10年間で投資額の約半分は回収できるとした。(毎日新聞 2010年3月19日)

 温暖化対策:原発20年間にさらに20基必要 エネ庁試算
 また、温室効果ガス25%削減するためには、原子力発電所の現在の新設計画(14基)がすべて実現しても、2030年以降の20年間にさらに20基の新設が必要という試算を資源エネルギー庁がまとめた。既存原発の寿命による廃炉の目減り分を埋め合わせるためで、現在よりハイペースな「年平均1基の新設」を実現しなければならない困難な状況が浮かび上がった。

 3月5日に開かれた総合資源エネルギー調査会原子力部会で報告された。同庁によると、現在国内で稼働中の原発は54基、総出力は約4900万キロワット。国は温室効果ガス削減対策の一つとして原発を位置付けており、20年までに温室効果ガス25%減(1990年比)という方針の実現には8基の新設が必須となる。30年までにはさらに6基の新設を計画している。

 これらが完成した場合の総出力は約6800万キロワット。この出力を維持するには、既存原発の寿命を現在の40年から60年に延長しても30〜50年の20年間に150万キロワットの大型原発20基が必要だと分かった。

 既存原発には増設の余地は乏しく、新たな立地選定が課題となる。一方、寿命を40年のままとすると30年時点で3000万キロワット、寿命50年でも1500万キロワット分が不足する計算になるという。

 試算は、人口減少や家庭の電化、電気自動車の普及など今後の電力需要の見通しや、再生可能エネルギーの拡大などは考慮していない。一方、中部電力浜岡原発 1、2号機(計138万キロワット)のように寿命前にコスト判断で廃炉が決まるケースもあり得るなど、流動的な面もある。

 部会では「稼働率向上や点検間隔の延長など(発電量を増やす)目先の政策だけしか論議されていない。新設を継続するために国が何をするかの政策がない」などの厳しい意見が相次いだ。(毎日新聞 2010年3月5日)‎

 日本の原発3社、海外へ 温暖化、追い風
 狭い国土、地震の多い地形にある日本で、原子力発電所を増やすのは至難なことだが、それだけに防災設備や効率性能は高く、海外には評価されている。これを産業として海外に輸出しようという動きが高まっている。

 地球温暖化防止の議論が活発化する中、発電時に温室効果ガスを排出しない原子力発電が世界的に見直されている。導入機運の高まりに着目した東芝と三菱重工業、日立製作所の日本メーカー 3社は、海外での原発事業をめぐり激しい受注合戦を展開中だ。経済産業省も「原発は新たな輸出産業になる」(幹部)と日本企業支援に乗り出している。

 「2015年までに全世界で39基の原発受注を見込む」。2006年2月に約6400億円(当時の為替レート換算)で米原子力大手ウェスチングハウス(WH)を買収した東芝の佐々木則夫社長は、原発事業の将来性をアピールする。WH買収当時は市場関係者から「高値づかみ」と言われた。しかし、米政府が原発建設費の8割を保証し、中東や中国などでも原発建設の動きが広がる中で、東芝・WH連合は米国と中国から計12基の原発受注に成功した。

 新興国での受注獲得には「プラント建設だけでなく、燃料供給から使用済み核燃料の再処理まで一貫サービス体制が必要」(東芝幹部)と見て、2007年8月にはカザフスタンの国営会社からウラン鉱山の権益を獲得した。

 WH買収合戦で東芝に敗れた三菱重工は2006年10月、仏原子力大手、アレバと提携した。仏政府の持ち株が9割を超すアレバは、2030年までに世界で新設される原発約300基の3分の1以上の受注を目指している。

 アレバ・三菱重工連合は外資主導の連合だったが、アレバが6月末に事業拡大のための増資計画を発表。三菱重工は増資の有力な引受先に浮上している。三菱重工はアレバなどとともに今年4月、総合原子燃料会社「三菱原子燃料」も設立し、「成長分野の燃料事業にも本格的に踏み出す」(三菱重工幹部)構えだ。

 一方、日立製作所は米総合電機大手ゼネラル・エレクトリック(GE)と組む。2007年には合弁会社を設立し、世界トップ水準の発電力を誇る中国電力島根 3号機タイプによる原子力プラントの輸出を目指す。アラブ首長国連邦(UAE)初の原発建設をめぐり、アレバなどと激しい受注競争を繰り広げている。

 官民協調 輸出促進、政府も支援
 原発の建設・運転で実績を積み重ねてきたのが日本の強みだ。米スリーマイル島原発事故(1979年)や旧ソ連のチェルノブイリ原発事故(1986年)などの影響により、海外では原発建設にブレーキがかかっていた。経産省は「日本の原子力関連産業は高付加価値の輸出産業になり得る」として、海外展開を支援する考えだ。

 ただ、新興国市場で日本勢が受注するうえで弱点もあった。新興国側は燃料から発電所の建設、使用済み燃料の再処理まで総合的に請け負ってくれる相手を求めているが、それに応える体制が整っていなかったのだ。各分野では高い技術やノウハウがあっても、一体となって売り込みをかける戦略が欠けていた。

 また、日本企業が原発関連の資機材や技術を外国に提供するには、核兵器に使われないことを保証するために、輸出相手国との2国間原子力協定の締結が必要だ。海外への原発の売り込みには「国の関与が不可欠」(東芝)との認識が高まり、経産省などは6月、業界団体と「国際原子力協力協議会」を設立。輸出相手国のインフラ整備や人材育成なども含めた幅広い分野に官民協調で取り組む。

 さらに、今年度、原子力資機材メーカー向けの補助制度を新設。8月には原子炉の安全弁や炉心冷却システム用ポンプなどを製造する下請けメーカーへの研究開発支援を決め、素材・部品産業も含めた原発ビジネス全体の国際競争力向上を目指すという。(毎日新聞 2009年10月14日) 

 

プルサーマルの科学―21世紀のエネルギー技術を見通す (朝日選書)
桜井 淳
朝日新聞社

このアイテムの詳細を見る
原子力発電がよくわかる本
榎本 聰明
オーム社

このアイテムの詳細を見る

ブログランキング・にほんブログ村へ ランキング ←One Click please