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 映画「2012」
 映画「2012」を見た。マヤ暦による2012年終末説を題材につくられた映画。地球滅亡を目の前になすすべもない人々が、巨大な自然災害から必死に逃げまどう姿を描く。人類の大半が本当に命を落とす大災害の凄まじい描写をはじめ、従来のディザスター映画が描かなかった部分に踏み込んだ力作だ。CGを使った、通常では考えられない自然災害の迫力ある描写が見事であった。

 さて、自然災害がどうして起きるのか、その科学的根拠に興味がわいた。ドロドロした意味不明の古代の予言が出てくるのかと思ったが、スッキリした最新科学を根拠にしているところに、好感が持てた。

 この作品では2012年に予想されている、太陽活動の極大期を災害の原因とした。現在は太陽黒点の極小期にあたっているが、これから太陽黒点が増え、2年後に急激に活動することを想定している。

 さらに2012年、観測史上最大の太陽活動が起き、大量の太陽ニュートリノが地球を襲う。その結果、ニュートリノがまるで電子レンジのように、地球のコアを過熱させる。やがてその熱で緩んだ地殻が一気に崩壊をはじめ、わずか3日で地表のすべてが海中に没するという設定である。

 電子レンジの原理
 電子レンジは携帯電話にも使われる、マイクロ波(極超短波)という電磁波を食品に当てて加熱する調理器具である。その波長は1cm〜100cmと大きい。電子レンジは「電子」を使っているわけではない。

 大きさ約1.0×10-16 cm、9.1093826×10−31kgである「電子」よりも、はるかに小さく、軽いニュートリノ(電子の約1/25000)が、電子レンジの代わりになるとは考えにくい。通常は大部分のニュートリノは地球を通り抜けている。

 ということで、実際には起こりそうもないと思えるも現象であるが、科学的には興味深い。宇宙には大量の素粒子が飛び交っていて、素粒子が集まったり分かれたりして不思議な現象が起きているからだ。

 宇宙の常識と日常の常識
 例えば陽子はアップクォーク2個と、ダウンクォーク1個が結合して作られている。これらばらばらのクォークは軽いが、結合して陽子などの「ハドロン」になると、なぜか重さ(質量)が100倍くらいになっている。1+1+1=100!? なぜそうなるのか、よく解っていない。

 また、陽子(p)−陽子(p)−中性子(n)から構成されている原子核に、K中間子を埋め込むと、その直径が縮むのではないかと予想されている。この時にはたらく「強い相互作用」で、原子核の密度がグンと上がり、地球上では無いような高い密度の物質が作り出せる。それが宇宙にたくさん発見されている、中性子星やブラックホールなどだ。

 このように宇宙という現実の中では、日常という常識は当てはまらない、不思議な現実がたくさん起きている。そういう意味では、たかだか数千年の歴史で起こらなかったことが、地球上で初めて起きても何ら不思議ではない。

 J-PARC世界最強度のミュオン発生
 茨城県東海村にある、大強度陽子加速器施設(J-PARC)が世界最強度の「パルスミュオン」発生に成功した。 J-PARCは、文字通り「陽子」を光速近くまで加速させる装置である。これをグラファイト(炭素)の標的にぶつけることで他の様々な粒子を発生させることができる。

 これらの様々な粒子として知られているものに、クオークやレプトンがある。今回、大量発生させた「ミュオン(μ粒子)」はレプトンのなかま。ミュオンを0.04秒間隔で周期的に発生させたので「パルスミュオン」と呼んだ。これまで最高だった英国のミュオン実験施設で得られた1パルス当たり約3万個を上回る18万個のパルスミュオンが発生していたことを確認した。

 ミュオンは、湯川秀樹博士が存在を予言したパイ中間子が崩壊してできる寿命の短い不安定な素粒子。J-PARC では光速近くまで加速した陽子ビームをグラファイト(黒鉛)の標的に照射してパイ中間子をつくり出し、さらにそのパイ中間子からミュオンを発生することができる。

 今後、強力なミュオンビームを利用し、物理学の基礎的研究のほか磁性材料、超電導材料、燃料電池材料などさまざまな応用分野、産業の発展につながる物質・生命科学研究の成果が期待されている。(サイエンスポータルnews 2010年3月16日)

 クオークやレプトン
 クオークやレプトンは原子をつくっている素粒子。ラザフォードらが原子の研究をしているうちに、原子は最少の粒子ではなく、原子の中に原子核という別の粒子が存在することを発見した。さらに、放射線の発見によって、原子核も崩壊し、中性子や陽子などの粒子に分かれる核分裂反応が発見され、さらに、陽子や中性子もクオークやレプトンなどの粒子が結びついてできていることが、発見されていくことになった。

 現在知られているクオークは アップ、ダウン、チャーム、ストレンジ(サイドウェイ)、トップ(トゥルース)、ボトム(ビューティ)の6種類。現在までに知られているレプトンは、電荷を持つ電子・ミュー粒子・タウ粒子、そして電荷を持たないニュートリノである電子ニュートリノ、ミューニュートリノ、タウニュートリノの6種類。

 陽子はアップクォーク2個とダウンクォーク1個、中性子はアップクォーク1個とダウンクォーク2個が「強い相互作用」で結びついていることが分かっている。

 宇宙は素粒子実験室
 これらのクオーク・レプトンなどの素粒子が私たちの日常に何の関係があるの?と思う人もいるかもしれない。たまたま地球上のこの空間では、素粒子が目に見えて反応することが少ないので、考えずにすむだけであって、宇宙空間に出たとたん、飛び交う素粒子の嵐に身を置くことになる。

 また、初期の宇宙は、クォークなどがまるでスープのような状態で自由に飛び回っていたが、ビックバンから約1万分の1秒後に、クォークは陽子や中性子という粒子の中に閉じこめられた。今の世界にいる私たちは、自由に飛び回るクォークを見ることはできない。

 その後、陽子などが集まって原子核を作り、原子が生まれ、さらに星が、そして地球が作られてきた。宇宙の始まりから現在までの長い間には、まだ解明されていない謎がたくさんある。私たちをつくる素粒子は原子ではなく、クオークやレプトンである。私たちのルーツを探る旅は、まだ始まったばかりである。

 

参考HP Wikipedia「レプトン・クオーク」「ミュオン」・J-PARC「原子核素粒子研究」  

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