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 鉄のまち室蘭の取り組み
 北海道の室蘭市は、天然の良港を活かし、鉄鋼業(新日本製鐵や日本製鋼所)の企業城下町として、よく「鉄のまち室蘭」と称されてきた。造船、石炭の積み出し、石油精製などで発展した、北海道を代表する重化学工業都市である。

 最近は造船業でにぎわいを見せたが、受注は減少し景気は低迷している。室蘭工業大学の清水一道准教授は街おこしの一環として、余剰船舶の解体及び再利用を含めた、システムの研究を行っている。

 室蘭港を中心に、製鉄、製鋼、造船のまちとして発展してきた北海道室蘭市において、環境保全型の船の解体を行い有効資源として再利用することが、具体的に可能なのか、それはまた産業として成立するのか、という研究会を、産学官が連携し発足致した。

 世界に冠たる造船国である我が国が、“人間にも環境にも優しい"シップリサイクルシステムを確立できるよう、全国各地域と連携しながら取り組む。日本は世界でも有数の造船・海遠国。私たちには環境汚染を食い止め、資源を有効活用するために、シップリサイクル問題を解決する責務があると考える。

 世界の船舶の35%を日本で製造しており、実際に日本が所持している、あるいは運航している船舶は、世界の15%を占めている。日本は、船舶を“製造する国”“使用する国”として、途上国におけるシップリサイクル問題への国際的な貢献が求められている。(室蘭工業大学 清水一道LABO)


 シップリサイクル条約の採択
 老朽船舶の解体は、過去には我が国でも実施されていたが、1970 年代から新興工業国として台湾や韓国が担うようになり、1980 年代には中国がこれに参入、1990 年代からはインド、パキスタン、バングラデシュといった国々が主役を務めるようになった。

 しかし、後発のこれらアジアの国々では、労働者の安全や環境対策などが疎かで、多数の死傷事故が発生することとなり、人権団体や環境団体が海運国や造船国の責任を指摘するようになった。

 こういった船舶解体(シップリサイクル)に関する問題は国際海事機関(IMO)を始め、国際労働機関(ILO)やバーゼル条約締約国会議などの国際機関で取り上げられ、それぞれ任意のガイドラインを作成するなど取り組みが進められたが、2005 年末の第24 回IMO 総会において新規条約の策定作業の開始が決議された。

 日本は世界有数の海運・造船国としての自負からこの起草作業に当初より深く関与しており、2008 年10 月の第58 回海洋環境保護委員会(MEPC58)において条約案は承認され、2009 年 5月15日に香港において「2009年の船舶の安全かつ環境上適正な再生利用のための香港国際条約(仮称)」(通称:シップリサイクル条約)として採択された。

 シップリサイクル条約の概要
 本条約は、序文(Preamble)の下に条文本文(Articles)として第1条から第21条までが規定されている。また、条約本文には附属書(Annex)として、船舶、船舶リサイクル施設、通報についての要件を示した規則(Regulation)と、付録(Appendix)として有害物質リストと各書式が規定されている。さらに、これに条約の統一的な運用を支援するために任意の指針類(Guidelines)が用意されている。

 船舶に関する要件において、最も重要なことは船舶の一生を通じ、条約で定める有害物質の搭載・使用を禁止・制限し、船舶に含有される有害物質の量や所在を記述したインベントリ(Inventory of Hazardous Materials)を作成・保持・更新し、最終的に船舶リサイクル施設に引き渡すことである。

 船舶リサイクル施設も、施設の運営計画を策定し、関係指針に沿った安全や環境要件を遵守できることが担保されて初めて締約国であるリサイクル国の政府から承認を受けられることになる。船舶リサイクル施設は各船舶のインベントリに基づき、有害物質をどのように処理処分するかを明記した「船舶リサイクル計画」を作成する必要がある。施設が特定の有害物質を処理処分できない場合には有害物質を事前に本船から除去する必要がある。

 これらの準備作業の後、船舶リサイクル施設までの最終航海計画を立て、主管庁等から最終検査を受け、「リサイクル準備国際証書」を受領することで、本船は船舶リサイクル施設へ向かうことができる。船舶リサイクル施設は本条約に従って「リサイクル準備国際証書」を保持する船舶しか受け入れてはいけない。

 本条約は、�@15ヶ国以上が締結し、�Aそれらの国の商船船腹量の合計が世界の商船船腹量の40%以上となり、かつ、�Bそれらの国の直近10年における最大の年間解体船腹量の合計がそれらの国の商船船腹量の3%以上となる国が締結した日の24箇月後に効力を生じることとなっている。

 船舶解体の歴史
 船舶解体は、ヨーロッパの帆船時代には造船などと同じく河岸などにある製材所で行われ、20世紀の終わりまでは先進国、とりわけ日本の造船所などで行われていた。第二次世界大戦後、日本では大規模な造船ラッシュになったこともあり、各国で不要になった戦時中の軍艦などが数多く持ち込まれ、解体された。特に、アメリカからアルゼンチンやチリなどへ輸出された旧式戦艦の多くは、日本で解体された。皮肉なことに、大艦巨砲主義時代の戦艦のうちかなりの数が戦後の日本で解体され、最後を迎えていった。

 20世紀の終わり以降は、事情が変わっている。多くの船舶は、インドのグジャラート州・アラン(Alang)や、バングラデシュのチッタゴンなどの発展途上国の遠浅で干満差の大きな砂浜において、無数の未熟練労働者によって、トーチやハンマーなどの簡単な道具を使い人海戦術で解体されている。

 船主は、解体に伴うコストを軽減・忌避するためバングラデシュなどに船を輸出し、現地の解体業者は、解体した船の残骸をスクラップとして売却している。現地では重要な資源となっており、バングラデシュでは鋼材供給の80%が船舶の廃材による。

 まるで船の墓場
 解体される船舶は最後の航海で、満潮を利用して砂浜に全速力で乗り上げて放置される。解体場となる遠浅の広大な浜辺では、タンカーなどの廃船数百隻が幽霊のように浮かび、大型動物の死体のように、少しずつ解体され分解してゆく非現実的な光景が見られる。

 しかし鉄の船を切り刻み、スクラップを人力で担いで陸地に運ぶ作業は危険なため、ある一つの会社だけで、年間360人以上の割合で多くの死者を出している。安全対策は貧弱で作業員はヘルメットをかぶるものは少なく、ほとんどが素手に素足で作業する。危険ではあるが、「飢餓で死ぬより働いて死んだ方が良い」とし、労働希望者は多数存在する。

 また、直接事故死にはいたらずとも、船舶にはPCBや水銀・鉛・アスベストなどが使用されているほか重油などが残留しているため、解体作業員の健康は蝕まれ、周辺の街の住民にも大きな健康被害が懸念されている。解体は波打ち際で行われるため、多くの有害物質や重油が海に流失していることも懸念材料である。

 2004年からの新造ラッシュに建造された船舶が、解体時期を迎える2030年頃には、世界的な船舶解体ヤードの不足が懸念されている。(Wikipedia)

 

参考HP Wikipedia「船舶解体」・清水一道研究室「シップリサイクル」 

リサイクル―回るカラクリ止まる理由 (シリーズ・地球と人間の環境を考える)
安井 至
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