外来トカゲ、ペタペタ作戦

 独自の生態系の豊かさから「東洋のガラパゴス」といわれる小笠原諸島で、外来トカゲの駆除に粘着式のワナを使った「ペタペタ作戦」が効果を上げている。1万匹以上を捕獲し、駆除した区域では、密度を4分の1以下にすることに成功した。来夏に世界自然遺産への登録をめざす小笠原にとって、外来種対策の成否は大きな焦点。4日から、国際自然保護連合(IUCN)の現地調査が始まる。

 「粘着式のワナを使ったトカゲの大量駆除は、世界でもほとんど例がない試みだ」
 環境省の委託で駆除作業を進める財団法人自然環境研究センター(東京都)の戸田光彦・生物多様性企画室長は、そう話す。

 小笠原諸島で駆除が進められているのは、全長が15センチ前後になる米国原産のトカゲ「グリーンアノール」だ。

 環境省は粘着式のワナによる捕獲作戦を2006年に父島、2008年に母島で始めた。ワナはプラスチック製でゴキブリ捕りに形が似ている。木の幹などに据え付けて使う。トカゲが入ると、足が張り付いて出られない。ワナは父島では港の周辺の約10ヘクタール、母島は島中部の森林地帯約 2ヘクタール、約 6千カ所に設置した。

 外来種・グリーンアノール
 
このトカゲは1960年代、まず父島に定着した。1980年代には母島に「飛び火」した。現在は数百万匹まで増加。国の天然記念物のチョウ「オガサワラシジミ」など、小笠原固有の様々な昆虫類を食べ、島の生物多様性に深刻な影響を与えてきた。

 駆除作戦では全域で根絶するのは難しいため、希少な昆虫類が多い区域などを選び、重点的に捕獲した。その結果、今年3月までに約1万300匹を捕獲できた。駆除区域内のトカゲの生息密度は、父島では4分の1、母島では5分の1に減少したという。

 環境省によると、父島と母島でワナの設置や回収などにかかる費用は年間4500万円前後。ワナ1個当たり180円と、費用対効果でみれば安上がりの対策になった。

 トカゲの駆除作戦について、神奈川県立生命の星・地球博物館の苅部治紀・主任学芸員は「グリーンアノールの生息密度が減れば、それだけ在来昆虫の生存の可能性が高まる。前例のない取り組みで、すばらしい成果だ」と評価。一方で、「長年、捕食によって在来種は痛めつけられているので、昆虫の数や種類が目に見えて回復するには時間がかかるだろう」と話す。

 外来種 vs 固有種
 小笠原諸島は過去に一度も大陸と地続きになったことがなく、生物が独自の進化をとげてきた。国の天然記念物オガサワラオオコウモリが生息し、植物の 3割以上、陸産貝類の9割以上が固有種だ。
東洋のガラパゴスとも呼ばれるほど、貴重な動植物が多い。

 しかし、人間が持ち込んだ生物や島の開発などが原因でオガサワラオオコウモリやオガサワラノスリ、アカガシラカラスバト、ハハジマメグロなどの動物やムニンツツジ、ムニンノボタンといった植物など、いくつかの固有種は絶滅の危機に瀕している。

 国や東京都が対策に本腰を入れている。弟島では、トンボなどを食べる北米原産のウシガエルをかごわななどで捕り尽くし、根絶。外来種の樹木アカギは、人の手で樹皮を削り取って枯らす作業が行われている。

 現地調査は、ユネスコの世界遺産委員会の諮問機関のIUCNが 7月13日まで行う。IUCN日本委員会は「外来種は島の生態系にとって大きな問題。重点的に調べることになる」という。調査団はトカゲのワナの設置場所などを視察する予定だ。来春までに報告書をまとめ、来夏の世界遺産委員会で登録の可否が判断される見通しだ。

 すでに登録された世界遺産でも、外来種問題は大きな課題だ。南米のガラパゴス諸島では、ブラックベリーなど800種以上の外来植物がはびこるなど、独自の生態系が危機に直面。世界遺産委員会は2007年、緊急の保全策が必要な「危機遺産」に指定した。

 環境省の羽井佐幸宏・世界自然遺産専門官は「世界遺産に登録されるためには、将来にわたって確実に自然が引き継がれることを示す必要がある。外来種対策は、そのために必要不可欠だ」という。(asahi.com 2010.7.1)

 グリーンアノールとは何か?
グリーンアノール (Anolis carolinensis) は、爬虫綱有鱗目トカゲ亜目イグアナ科(アノールトカゲ科とする説もあり)アノールトカゲ属に分類されるトカゲ。別名アメリカカメレオン。分布 アメリカ合衆国南東部、キューバ、メキシコ、西インド諸島に分布する。日本(沖縄島、小笠原諸島)、アメリカ合衆国(グアム、ハワイ)等に移入している。

 本種はもともと日本には生息していないが戦後に運搬された物資に混入していたり、ペットとして飼われていたものが遺棄されたり、脱走した個体が沖縄島や小笠原諸島の父島、母島に帰化している。森林や民家の近くにも生息する。オスは咽喉垂を広げ威嚇や求愛行動を行う。

 食性は動物食で、昆虫類、節足動物等に素早く詰め寄り捕食する。繁殖形態は卵生で、10-20日間に1回の間隔で数回にわたり1、2個の卵を地中に産卵する。

 特に小笠原諸島ではオガサワラシジミなど固有種を多く含む昆虫類に壊滅的被害を与えており、地上性の昆虫が地域によってはほとんど姿を消すに至っている。100万匹以上といわれ大変な問題なのだが、大規模な対策はとられてない。

 沖縄島では1989年に東風平町(現八重瀬町)で初確認され、その後那覇市で多くの個体が確認されるようになった。沖縄島での在来生物への影響は不明である。

以前はペット用やトカゲ食動物の餌用としても大量に輸入されていたが、2005年外来生物法により特定外来生物に指定されたため、2007年現在日本国内での本種の流通はない。

 世界遺産に登録されるには

 前提条件
(1)物件を保有している国が世界遺産条約を締結していること
(2)物件が国の法律で確実に保護されていること
 文化遺産の場合: 国宝を含む重要文化財、重要文化的景観、伝統的建造物群保存地区などに指定されていること。
 自然遺産の場合: 自然環境保全法によって国立公園や都道府県が指定する自然環境保全地区に含まれていること。
(3)物件は完全性、真実性を満たし、登録基準のいずれか一つ以上にあてはまること
  完全性(Integryty): 世界遺産の価値を構成する必要な要素がすべて含まれ、長期的保護制度が確立されていること。
  真実性(Authenticity): 文化遺産の場合は建造物や遺跡が本来の芸術的・歴史的価値(オリジナリティ)を保っていること。
  登録基準: 2007年以降は文化遺産の6基準、自然遺産の4基準を統合した10基準の一つ以上にあてはまること。

 登録までの流れ(日本の場合)
(1)国内暫定リストに記載する物件を選定
  文化遺産の場合は文化庁
  自然遺産の場合は環境省か林野庁
(2)世界遺産条約関係省庁連絡会議で国内暫定リストへの記載を決定
(3)国内暫定リストをユネスコ世界遺産センターへ提出
(4)暫定リストのなかから条件の整った物件をユネスコ世界センターへ推薦
  各国の推薦は年2物件(2007年から4年間の試験的措置)
(5)ユネスコ世界遺産センターが現地調査
  文化遺産については ICOMOS、自然遺産については IUCN に現地調査を依頼
(6)ユネスコ世界遺産委員会(年1回開催)で登録の可否を決定
 ICOMOS、IUCN 及び ICCROM の代表を交えて審査し登録の可否を決定
 (ICOMOS=国際記念物遺跡会議・IUCN=国際自然保護連合・ICCROM=文化財の保存及び修復の研究のための国際センター)


参考HP 小笠原自然情報センター「自然再生の取り組み状況」・平和が一番「世界遺産に登録されるには」・Wikipedia「グリーンアノール」 

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