2位ではだめなのか?

 2009.11.13 政府の行政刷新会議の仕分け作業は、次世代スーパーコンピューターの開発予算に事実上の「ノー」を突きつけた。議論の方向性を決定づけたのは「世界一を目指す理由は何か。2位ではだめなのか」という仕分け人の発言。結局、「科学技術立国日本」を否定しかねない結論が導かれ、文科省幹部は「日本の科学技術振興政策は終わった」と吐き捨てた。

 次世代スパコンは最先端の半導体技術を利用。ウイルス解析や気候変動問題のシミュレーションなど広範な研究での活用が期待されている。「1秒あたり1京回」という計算速度が売りで、現在、世界一とされる米国製の10倍の速度になる算段だ。平成24年度から本格稼働の予定だが、総額約700億円の国費が今後必要なため、財務省は見直しを求めている。

 この日、口火を切ったのは蓮舫参院議員。その後も「一時的にトップを取る意味はどれくらいあるか」(泉健太内閣府政務官)「一番だから良いわけではない」(金田康正東大院教授)「ハードで世界一になればソフトにも波及というが分野で違う」(松井孝典・千葉工業大惑星探査研究センター所長)などと、同調者が相次いだ。

 文科省側は「技術開発が遅れると、すべてで背中を見ることになる」と防戦したが、圧倒的な「世界一不要論」を前に敗北。同研究所の理事長でノーベル化学賞受賞者の野依(のより)良治氏は「(スパコンなしで)科学技術創造立国はありえない」と憤慨していた。(産経ニュース 2009.11.13)

 スーパーコンピュータとは何か?
 事業仕分けで有名なスーパーコンピュータ(スパコン)とは、内部の演算処理速度がその時代の一般的なコンピュータより極めて高速な計算機(コンピュータ)のこと。HPCサーバ(High Performance Computing Server)とも呼ばれる。

 膨大な計算処理が目的であり、それを実現するための大規模なハードウェアやソフトウェアを備える。計算機による大規模シミュレーションを前提とした科学は特に計算科学と呼ばれ、スーパーコンピュータの設計に大きい影響を与えている。 そのような計算科学の成果を元に、工業製品の設計や評価を行うCAEの分野でも広く利用されている。

 スーパーコンピュータは、高度な演算を必要とするタスクに使用され、そのタスクには量子力学、天気予報、気象研究、計算化学(構造体、化合物、生物学上の高分子、ポリマー、水晶などの性質の計算)、物理的なシミュレーション(航空機の風洞シミュレーション、核兵器の爆発シミュレーション、核融合の研究)などがある。特に国家プロジェクトと呼ばれるものでは、完全な解決のために、ほぼ無限の計算資源が要求されるものもある。

 例えば、2001年東京大学の吉田直紀準教授は、137億年前のビッグバンから宇宙の始まりの謎を解く研究を行っていた。彼の武器はコンピュータの計算機である。ビッグバンの後、暗黒の闇が何億年か続いたとき、宇宙に存在したのは水素とヘリウムと暗黒物質の3種類。これらの物質から、最初にできたのは何だろうか?

 彼は物質を表す、あらゆる方程式を使ってコンピュータに計算させた。コンピュータがその計算を終えたのが7年後の2008年の7月のことであった。計算の結果、宇宙に最初にできた天体は、銀河でもブラックホールでもなく、ただ1つの恒星であった。この天体は太陽の100万倍、青白から白い光を放つ巨大な恒星で「ファーストスター」と名づけた。1つの天体ができると、宇宙のあちこちで、次々とファーストスターが誕生したという。(2008年8月1日 サイエンス)

 TOP500
 TOP500は、世界で最も高速なコンピュータシステムの上位500位までを定期的にランク付けし、評価するプロジェクトである。1993年に発足し、スーパーコンピュータのリストの更新を年2回発表している。ハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)における傾向を追跡・分析するための信頼できる基準を提供することを目的としており、ランク付けはLINPACKと呼ばれるベンチマークにより行われている。リストの作成はマンハイム大学、テネシー大学、ローレンス・バークレイ米国立研究所の研究者らによる。

 2010年5月31日に公表された第35回Top500リストの上位10システムを見てみよう。1位は前回と同じJaguar(米国)だが、2位はDawning(曙光)が構築した中国の国立スーパーコンピュータセンター(NSCS)のNebulaeとなった。上位10システムのオペレーティングシステムは全てLinux系である。なお日本の最上位は2010年3月に富士通が日本原子力研究開発機構に納入したBX900で22位、前回31位の日本の地球シミュレータは37位となった。

 日本は独自の道を行け
 TOP500を見て思うのは、凄まじい数の米国のコンピュータである。TOP10のうち7台が米国製ということ。世界のコンピューター計算力の実に76%が米国製だ。日本は科学技術振興で立国していくより生き残る道はないが、事業仕分けでSTOPをかけられたのも、あながち間違いではなかったかもしれない。

 米国の「トヨタたたき」を見てわかるように、米国は自国の主幹産業に絶大なる自信と絶大なるプライドをもっている。コンピュータも自動車と同じ、米国が発明したものである。こういう分野に対しては総力を結集して向かってくる。例えば日本人だって、インドのタタ自動車が、いくら安くて性能の良い自動車を売りに出したところで、容易に買おうとはしないだろう、まず国産車、次に米国、EUの自動車に目を向けるはず。

 だから、日本も日本独自の科学技術を育てるべきだ。それをプライドと自信を持って、世界に売り出していけばよい。日本の優れているのは電化製品などの省エネ技術。自動車でもエコカーなら世界に対抗できる。パソコンについても省エネ技術を育てていけばよい。

 日本、省エネ世界一 
 東京大と国立天文台が開発したスーパーコンピューター「GRAPE(グレープ)-DR」が、米大学グループが年2回公開する省エネスパコンランキング「リトルグリーン500」(6月版)で1位になった。日本のスパコンが省エネ世界一になるのは初めて。

 このスパコンの1ワットあたりの計算回数は1秒間に8億1500万回。これまで1位の効率を約5%上回った。現在、世界最速の米研究所のスパコンと比べ、演算速度は100分の1ほどの毎秒23兆回だが、電力効率は3倍という。市販のパソコン部品も多用して、開発費を約10億円に抑えた。

 スパコンは現在、日米欧や中国などが速度を競うが、あと数年で計算機本体よりも冷却にかかる電力の方が多くなるという予測もあり、消費電力の増大が問題になっている。理化学研究所が神戸市に建設中の次世代スパコン「京(けい)」も、本体が入るビルの隣に冷却設備だけの別棟が建てられている。

 東大大学院情報理工学系研究科の平木敬教授は「日本は低消費電力化が遅れていたが、世界をリードする技術を確立できた」と話した。(asahi.com 2010年7月8日)

 「2位ではだめなのか」のスパコン、愛称は「京」   
 神戸市のポートアイランドに施設を建設中の次世代スーパーコンピューターの愛称が「京(けい)」(英語での表記は「K」)に決まった。理化学研究所が5日、発表した。目標にしている計算速度である毎秒1京回(1兆の1万倍)の単位で、「漢字1文字でシンプル」「外国人も発音しやすい」などが選定理由。

 重複などを除いた1529件の応募から、外部委員を含めた「愛称選考委員会」などで決定した。「京」の提案者は7人だが、最も多く提案のあった名前は公表していない。

 昨年の事業仕分けでは「なぜ2位になったらだめなのか」との発言で議論を呼んだ。2012年の完成予定。(asahi.com 2010年7月6日)

 

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