福島第一原発、国内初の炉心溶融 

 三陸沖で発生した東日本大震災(3月11日発生)は12日午後に入っても被害者が増え続け、各警察本部のまとめで死者は計622人、行方不明者は654人に上った。警察庁によると、ほかにも仙台市で200~300人の遺体が搬送されている。宮城県警は岩沼市と名取市の体育館に計約200人の遺体が運ばれたとしており、死者・行方不明合わせて1700人を上回り、今後も大幅に増える見込みだ。(2011/03/12 共同通信)

 一方、心配なのが、緊急事態宣言の出た、福島第一原発である。自動停止した福島県の東京電力福島第1原発の1,2号機で核分裂反応が続き、温度が上昇、圧力が高まっていた。通常、反応を減速させ、冷却するのに水を使用している。ところが、この水がうまく循環せず、水位低下していたのが原因だった。

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 そして13時35分、内部の放射性物質を含む水蒸気を環境中に放出するという非常事態に発展した。15時6分のNHKニュースによると、福島原子力発電所の敷地内の1号機の周辺で「セシウム」、「ヨウ素」という放射性物質が、検出されたことから、1号機で炉心にある核燃料の一部が溶け出た、「炉心溶融」が発生したことがわかった。

福島第一原発で水素が爆発
 原子炉の圧力が異常に高まると、緊急用の冷却水を原子炉内に注入する緊急炉心冷却装置(ECCS)の稼働もできなくなり、制御がますます困難になる。微量の放射性物質を含む水蒸気が外部に放出される程度なら深刻ではないが、燃料棒が損傷して露出し、水蒸気と反応して爆発するような事態になれば、大量の放射性物質が外部に放出されることになる。1979年の米スリーマイル島原発事故と同様の最悪のケースになる恐れもある。(2011年3月12日  読売新聞)

 周囲に漏れた放射線量も徐々に増加。一時は、15時29分頃には、1015マイクロシーベルト/時と、制限値である500マイクロシーベルト/時の2倍以上の放射線量を記録した。15時36分頃には1号機で爆発が起きた。これは、建物内で発生した水素と空気中の酸素が反応したもので、これにより、1号機の建物が損傷したが、1号機の原子炉容器自体に損傷はなかった。

 枝野幸男官房長官は12日午後8時半から首相官邸で会見し、東京電力福島第1原子力発電所1号機で12日午後3時36分に爆発が起きたが、原子炉の格納容器の外側の建屋が崩壊したもので、放射性物質は漏出していないと述べた。政府は避難指示の対象地域を、第1原発から半径20キロ圏内に拡大した。

 枝野官房長官は、爆発は原子炉を覆っている格納容器とコンクリートと鉄筋の建屋の間に水素が充満し、それが酸素と結びついて爆発したと説明。「格納容器内には酸素がないので水素があっても爆発しない。格納容器は破損していないことが確認された」として、原子炉から放射性物質が漏出した懸念はないと述べた。(2011年 3月 12日  20:02 JST)

東京電力最終手段、原子炉に海水注入
 東京電力は12日、20時20分から容器を海水で満たし、ホウ酸を投入する処置を行った。これは、廃炉覚悟の最終手段である。海水は、海から引いてたくさんの量を使用できるので、冷却の効果が高い。もともと原発には緊急用の海水注入系があり、温めた蒸気の冷却などに海水を使用している。原発が海辺に建設されるのは、このためでもある。

 特に、今回の緊急冷却では、海水にホウ酸を添加して使用する。原発の水は、冷却材であると同時に、中性子の速度を落として核分裂反応を起こしやすくする効果がある。水を注入した結果、再び核分裂が活発化しないよう、反応を抑えるのがホウ酸の役目だ。ホウ酸注入は、非常時の冷却では効果があり、軽水炉には専用の注入システムが常設されている。(3月12日 読売新聞)

炉心溶融とは何か?
 炉心溶融(ろしんようゆう)とは、原子力発電所で使用される原子炉内部にある燃料棒が高熱により融解、破損すること。メルトダウン(meltdown)ともいう。原子力発電においては、原子炉に装荷された核燃料が、冷却材の喪失などが原因で高温となり、燃料自体を溶かしてしまう現象のことである。軽水炉においては溶けた燃料棒が冷却水に落ちると冷却水が激しく蒸発し、水蒸気爆発が起きる可能性がある。

 最悪の場合には原子炉圧力容器や格納容器、原子炉建屋などの構造物も破壊し、外部に放射性物質を大量に放出する恐れがある。映画「チャイナ・シンドローム」では、この炉心溶融が連続して起きて原子炉や地殻を溶かし、地球の反対側の中国まで溶かすという表現が用いられた。このため炉心溶融自体をチャイナ・シンドロームと呼ぶこともある。

 核分裂によって新しく発生する中性子は非常に高速。これを高速中性子と呼び、このままでも核分裂を引き起こすことは可能だが、この速度を遅くしてやると次の核分裂を引き起こしやすくなる。速度の遅い中性子を熱中性子と呼び、高速中性子を減速し熱中性子にするものを減速材と呼ぶ。

 軽水炉では熱中性子で核分裂連鎖反応を維持するために減速材として水を用いる。 核分裂によって発生した熱を炉心から外部に取り出すものを冷却材と呼ぶ。軽水炉では水を用いているため、冷却材が減速材を兼ねることができる。

米スリーマイル島原発事故(メルトダウン事故)
 最も技術の進んだ、情報公開先進国ともいわれるアメリカで発生し、大量の放射能を撒き散らすことになった重大な原子力事故。今から約20 年前の1979 年3 月28 日、東部ペンシルバニア州にあるスリーマイル島(TMI)の原子力発所で事故がおきた。原子炉の核心部ともいえる炉心部分が冷却水不足のために溶けてしまうという大変な事故だった。

 始めは原子炉の本体からは遠く離れた小さなトラブルをきっかけとして蒸気発生器の給水が止まってしまい、本来原子炉に冷却水を入れなければならないのに、ランプの表示が不適切であったことと、炉心の水位を外から見られない構造のため、運転員はそれと気付かず、かえって緊急冷却装置を絞ってしまった。そのため、原子炉容器の圧力が上昇、圧力をにがすために開いた加圧器「逃がし弁」が開きっ放しになり、原子炉の冷却水が漏れて、原子炉の空焚き、燃料の溶融・崩壊に至った。

 被害は時々刻々と、「原子炉が爆発するのか。大都会の集中したアメリカ東部が崩壊するのか」というニュースが続き、周辺の住民は避難を始めた。事故3日後には「8キロ以内の学校閉鎖、妊婦・学齢前の幼児の避難勧告、16キロ以内の住民の屋内待機勧告」などが出され、周辺の自動車道路では避難する車による大パニックが発生した。格納容器に充満した水素ガスが爆発をおこす可能性が高まっていたからである。そこには、安全性より経済性を優先したという背景がある。チェルノブイリ事故より7 年も前のこの事故によって世界中の人々が原発事故の恐さを実感した。(よくわかる原子力)


参考HP Wikipedia「軽水炉」「炉心溶融」「減速材」「冷却材」・よくわかる原子力 スリーマイル事故

原子力ルネサンス ?エネルギー問題の不可避の選択? (知りたい!サイエンス 38)
矢沢 潔
技術評論社
原子炉の暴走―臨界事故で何が起きたか
石川 迪夫
日刊工業新聞社

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