バイオガソリンの普及
現在、レギュラーガソリンにバイオ燃料が混ぜられているのはご存じだろうか?バイオ燃料には2通りあり、 「E3」と「ETBE」がある。両者とも二酸化炭素(CO2)削減のためにバイオエタノールを利用したガソリンで、混合されるバイオエタ ノールの量は、どちらも約3%で同じである。では、バイオエタノールはどうやってつくるのだろう?
そう、トウモロコシ、サトウキビ、廃木材などの植物成分をアルコール発酵させてつくられる。アルコール発酵の歴史は古く、最古のものは中国で、紀元前7000年ごろの賈湖遺跡(かこいせき)で、酒造りをした形跡が発見されている。では、アルコール発酵のしくみが解明されたのはいつごろだろう?
1897年、ドイツの薬理学者エドワルト・ブフナーが、発酵には酵母 の中にある酵素が必要なことを解明する。この酵素発酵の発見で、ブフナーは、1907年のノーベル化学賞を受賞した。イギリスの化学者ハーデンとスウェーデンの化学者オイラーは、さらに研究を進め、酵素の1つがNADという補酵素(ビタミンB3)とアポ酵素から成っていること、反応にはリン酸(ATP)が必要であることを発見した。ハーデンとオイラーはこの業績により、1929年のノーベル化学賞を受賞した。オイラーはのちにNADの構造まで解明している。
アルコール発酵のあらすじが解明されるのは、さらに時間を要し、1900年代半ばになってからである。現在でも、より効率的なバイオエタノール発酵を目指し、日夜研究が続けられている。
アーサー・ハーデン
アーサー・ハーデン(Arthur Harden,1865年~1940年)は、イギリスマンチェスター出身の化学者で、糖類の発酵の研究の業績によって1929年にノーベル化学賞を受賞した。
父アルバートと母エリザの元に生まれる。幼いころは私立学校で学び、1882年にマンチェスター大学のオーエンズカレッジに入学、1885年に卒業した。1886年にドルトン奨学金を貰ってドイツのエルランゲンのオットー・フィッシャーの元で1年間研究を行った。その後マンチェスターに戻り講師兼実験助手となり、また後にリスター研究所となる英国防疫協会の会員となり、それを1897年まで続けた。1907年から1930年にかけてはマンチェスター大学で生化学部の学部長となった。
研究内容は塩素と二酸化炭素の混合物における光の作用及び、バクテリアによるアルコール発酵である。イースト菌によって分解されたブドウ糖について研究し、ビタミンに関するいくつかの論文を発表した。1935年には王立協会の理事に任命されている。バッキンガムシャーボーンエンドで没。
ハンス・フォン・オイラー=ケルピン
ハンス・カール・アウグスト・ジモン・フォン・オイラー=ケルピン(Hans Karl August Simon von Euler-Chelpin, 1873年~1964年)はドイツ・アウクスブルク出身のスウェーデンの化学者。1929年にノーベル化学賞を受賞した。ミュンヘンで士官の子として生まれ、ヴァッサーブルク出身の祖母に大きな影響を受けて育った。学校はアウクスブルク、ミュンヘン、ヴュルツブルク、ウルムを転々としていた。1891年にミュンヘンの美術アカデミーに入学するも1892年には化学に転向し、ベルリンに移って1895年に卒業した。1902年にスウェーデン市民となったが、第一次世界大戦ではドイツ軍の兵士として参戦し、第二次世界大戦でもドイツ側に立っていた。2度の結婚を経験し、9人の子を儲けたが、そのうちの1人は後にノーベル生理学・医学賞を得ることとなるウルフ・スファンテ・フォン・オイラーである。
ゲッティンゲン大学とストックホルム大学で物理化学に関する研究をした後、1898年に物理化学の講師として教育と活動を行った。また、1906年にはストックホルム大学の一般化学と有機化学の教授となった。1922年にはドイツ自然科学者アカデミー(レオポルディナ)の会員となり、1929年には大学の生化学およびビタミンの研究所の責任者となった。
1929年のノーベル賞は彼の炭水化物のアルコール発酵の研究に対して与えられた。研究の過程で酵素が補因子とアポ酵素から成っていることを発見した。また、物理化学の手法を用いて酵素反応を説明することができた。その後の1931年にはニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)の構造を解明し、退職後はがん研究を行うなど、生化学に大きな功績を残した。
アルコール発酵とは何か?
酵母菌は嫌気状況(酸素の少ない状況)ではアルコール発酵を行って、ブドウ糖をピルビン酸を経由してエタノール(エチルアルコール)と二酸化炭素(炭酸ガス)に分解し,生存や増殖に必要なエネルギーを得る。このように微生物が無酸素状態で糖を分解することを発酵という。ちなみに私たちになじみの深い乳酸菌は乳酸を作る。
(1) C6H12O6 → 2 C2H5OH(エタノール) +2 CO2 + 2APT
(2) C6H12O6 → 2 C3H6O3(乳酸) + 2ATP
(3) C6H12O6 + 6 O2 → 6 CO2 + 6 H20 + 38ATP
(1) がアルコール発酵、(2)が乳酸発酵、(3)が有酸素状態でブドウ糖が燃焼したときの反応式である。ATP(アデノシン3リン酸)は生物の体内でエネルギーを必要とする反応過程には必ず使用される物質で、生物のエネルギー通貨である。生物がエネルギーを得るということは食物あるいは自分が光合成した物質からATPを産生することを意味する。アルコール発酵では2個のATPしか得られないが、クエン酸回路による有酸素燃焼では平均して38個のATPを得ることができる。
酵母菌も酸素が十分ある環境ではアルコールはほとんど作らず効率よくエネルギーを得ることができる。分かりやすいようにぶどう糖1gから得られるエネルギーで説明すると,酵母菌はアルコール発酵で約80cal、有酸素燃焼では約1,460calのエネルギーを得ることができる。1gのぶどう糖を完全に燃やすと約3,800calのエネルギーが得られるので酵母菌の燃焼効率は38%になる。ということで酵母菌には気の毒だが、アルコールを作るためには酸素の少ない環境で活動してもらう必要がある。
余談だが、ぶどう糖を分解してエネルギーを獲得する仕組みはほとんどの生物で共通している。私たちの体内でもぶどう糖はピルビン酸に解糖され、アセチルCoAという物質を経由してTCAサイクルに入りATPを産生するともに二酸化炭素と水に分解される。体内でぶどう糖が不足すると脂肪が分解され、脂肪酸を経由してアセチルCoAが産生され、脂肪がエネルギーに変わる。タンパク質もある程度分解された後はTCAサイクルに入りエネルギー源になる。
注目されるバイオエタノール
バイオマスエタノール (Biomass Ethanol) 、またはバイオエタノール (Bioethanol) は、産業資源としてのバイオマスから生成されるエタノールを指す。一般には内燃機関の燃料としての利用を意識した用語である。
バイオマスエタノールとは、サトウキビやトウモロコシなどのバイオマスを発酵させ、蒸留して生産されるエタノールを指す。エタノールは石油や天然ガスから合成することもでき、そうして生産されるエタノールを合成エタノールと呼ぶ。合成エタノールに対する概念は発酵エタノールまたは醸造エタノールであり、バイオマスエタノールという語は、エネルギー源としての再生可能性やカーボンニュートラル性を念頭において使われる。
バイオマスエタノールは、再生可能な自然エネルギーであること、および、その燃焼によって大気中の二酸化炭素(CO2)量を増やさない点から、エネルギー源としての将来性が期待されている。他方、生産過程全体を通してみた場合のCO2削減効果、エネルギー生産手段としての効率性、食料との競合、といった問題点も指摘されている。
バイオエタノールの原料
バイオエタノールの原料は、理論的には炭水化物を含む原生生物由来の資源であれば何でもよい。しかし、生産効率の面から糖質あるいはデンプン質を多く含む植物資源が選好されており、現在では主に次のような農産物が原料として利用されている。ブラジルではサトウキビに由来するモラセスが、米国ではトウモロコシが、欧州では甜菜が主な原料となっている。
主な原料としては、糖質原料として、サトウキビ、モラセス(=廃糖蜜)、甜菜がある。デンプン質原料として、トウモロコシ、ソルガム(モロコシ、こうりゃん)、ジャガイモ、サツマイモ、麦がある。これ以外にはセルロース原料として、スイッチグラス(イネ科の一年草)、パルプ廃液、バガス、廃材木、もみ殻・稲藁など、多様なセルロースなどの多糖類を分解して原料とする研究が進められている。
また、2008年には宮崎大学により、非主食系のデンプン質作物であるクズの根部分からバイオマスエタノールを濃縮抽出する技術が開発された。また、長浜バイオ大学 大島淳教授は企業と共同開発にて、クズの葉、茎から濃度11.38%のエタノールが出来たという(トウモロコシの場合は8%ぐらい)。雑草としても知られるクズは、農地でなくても栽培可能である点も利点とされる。いずれにせよこれらの原料は、使用価値の低い物から燃料を作ることができるので、今後の展開が注目される。
参考HP Wikipedia「アルコール発酵」「バイオエタノール」「アーサー・ハーデン 」「ハンス・フォン・オイラー=ケルピン」
酵素学とビタミン学の劇的な出会い 亜細亜が好き!アルコール発酵
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