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 野生動物の大量死・形体異常
 アメリカのメキシコ湾で起きた「ディープウォーター・ホライズン原油流出事故」から4月20日で1年が経過した。同湾周辺では野生動物の謎の大量死や奇形が確認され、専門家は事故との関連性を指摘している。

 米国海洋大気庁(NOAA)によると、この冬、アメリカ沿岸で座礁死したバンドウイルカの数は総計113頭に上る。4月前半には6頭のイルカの死骸に、メキシコ湾の石油掘削基地ディープウォーター・ホライズンから流出した原油が付着していた。「ただし(原油が)死因とは限らない」。

 魚類や甲殻類、サンゴなどに対する影響調査も進んでいる。UWFのパターソン氏によると、メキシコ湾のサンゴ礁に生息するフエダイの一種、レッドスナッパーに形態異常が増えており、流出時期とも一致しているという。「体表に常駐する寄生虫の量が、昨年の秋から冬にかけて増加傾向にある」。 また、細菌性疾病の「尾ぐされ病」が進行し、ヒレ全体が溶けて無くなってしまった個体もいる。またメスのレッドスナッパーは、一部に卵巣の硬化や変形が確認された。「炭化水素暴露の典型的な症状例も認められる」という。

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 幸運な海流と風向き、自然の回復力
 一方で、幸運にも予想ほど悪くならなかった例もある。「原油が海流に乗って東海岸まで広がる」という恐れもあったが、無事であった。また、、「メキシコ湾岸の砂浜や湿地を原油まみれの“黒い波”が襲い、壊滅的な被害をもたらす」と危ぶまれた。そして「今後何年もの間、漁業がダメージを受けるのではないか」と誰もが恐れた。「しかし漁業生産に関する限り、大部分は杞憂に終わった」。

 アメリカのフロリダ州タンパにある南フロリダ大学の海洋物理学者ロバート・ワイズバーグ氏は、「状況が異なれば話は別だ」と語る。「昨年は拡大を阻む流れだったが、ループ・カレントは絶え間なく姿を変える。仮にいま同じ事故が起きたとしたら、まったく異なる結果になる可能性がある。幸運に恵まれていたのだ」。
 テキサス州コーパス・クリスティにあるテキサスA&M大学ハート・メキシコ湾研究所の所長ラリー・マッキニー氏は、「湿地への影響は、最悪の事態を免れて軽微で済んだ。自然の回復能力が予想以上で、さまざまな対策も成果を挙げた」と話す。

 ルイジアナ州立大学の環境科学名誉教授エドワード・オーバートン氏は、「事故発生が水深1500メートルという深海だった点も見逃せない。大部分は海底に閉じこめられたと考えられる。1989年のエクソン・バルディーズ号事故は、海面に直接漏れたので沿岸部の汚染が拡大した」と述べる。
 さらに当日の天候が穏やかだったので、原油の沿岸到達が最小限にとどまった。事故のタイミングで風向きの悪い嵐が発生していたら、大量の原油が岸に乗り上げていたと考えられる。

 風評被害とメタン分解菌の活躍
 地域産業が突然停止して地元住民は収入源を絶たれた上、「この地域の海産物は危険」といった風評被害により、需要が大幅に減少しているという。「流出事故の影響は、環境よりも経済面の方が大きかったと言える」とマッキニー氏は話す。

 他方、自然の浄化作用もある面で予想を超えた。原油流出時にはメタンも同時に放出されているが、大量発生したバクテリアがわずか4カ月の間にメタンの大半を食べて分解していた。専門家も驚くスピードだ。

 テキサスA&M大学の化学海洋学者ジョン・ケスラー氏は、「バクテリアがこれほど役立つとは意外だった」と話す。「ただし、今回は自然環境の浄化が進んだからといって、いつでもどこでも同じ条件が揃うとは限らない」。

 肉眼では見えないが、未だに痕跡は残る
 2010年7月には、フロリダ州のペンサコラビーチは、メキシコ湾原油流出事故の油塊(タールボール)と原油に覆われた。事故以前は白い砂で有名だった海岸から、肉眼で見た限り原油が除去されたのは7カ月後の2011年2月だった。

 短期間で元の状態に戻った理由を専門家はこう伝えている。「原油分解能力の高いバクテリア、穏やかな気候、そして連邦政府と産業界が連携した“ディープウォーター・ホライズン統合コマンド(Deepwater Horizon Unified Command)”の懸命な除去活動が実を結んだ」。

 しかし、フロリダ州やアラバマ州で海岸調査を継続する専門家によれば、肉眼では原油が見えない海岸でも、いまだに汚染の痕跡が浮かび上がるという。 紫外線を当てると流出原油のタールがオレンジがかった黄色に光るようすがわかる。汚染されていない紫色部分と容易に見分けが付く。

参考HP National Geographic news メキシコ湾原油流出、外れた6つの予測野生生物に異常現象、原油流出の影響か

NATIONAL GEOGRAPHIC (ナショナル ジオグラフィック) 日本版 2010年 10月号 [雑誌]
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