深刻な農作物の食害

 都市を離れ山村部に行くと、シカやサル、イノシシによる農作物や植林の食害が多い。山村部では過疎により、人手も少なく追い払う事もままならない。既存の動物除け、薬剤には電気柵、ネット、センサー、合成・人工香料忌避剤など、さまざまな商品があるが、それぞれ初期コストが高い、維持費がかかる、容易に破られる、動物が飛び越える、景観を損なう、広い範囲に使えない、設置場所が限られる、動物が慣れる、環境に悪い、人や家畜などに害をおよぼすなど、それぞれに問題点がある。

 何かよい解決方法はないだろうか?

 変わった方法としては、「ウルフピー」という、オオカミの尿を利用した商品がある。狼を天敵として忌避行動をとる哺乳類の本能を利用して、作物や民家などに動物を近づけなくする天然の獣害被害対策商品。ウルフピーは、容器に約50mlずつ小分けして、動物から守りたい場所を囲むように、杭や柵、ネットなどにぶら下げるだけで簡単に使える。

Goat_Wolf

 しかし、日本のオオカミが絶滅してから、100年ほど経過した。そんな見たこともない天敵の尿を、天敵と認識できるのだろうか?商品開発者は、動物は捕食者である狼がいると「勘違い」して近づかなくなり、有効的に獣害対策ができるという。「ウルフピー」は、平成22年にJAS有機適合資材として認められた。

 一方、山梨県南アルプス市では、9月中にもサルの食害防止と遊休農地の解消にヤギを使う取り組みを始めるという。ヤギを放牧することでサルの食害から農作物を守り、遊休農地の解消にもつながり、さらに雇用にもつなげようとする試験的な取り組みだ。長年農家が頭を悩ませてきた課題にヤギの習性が効力を発揮するか、注目が集まっている。

 ヤギの視線でサル撃退

 計画を進めているのは、同市や市内のNPO、農業生産法人など。県の「新しい公共の場づくりのためのモデル事業」に採択され、212万円の補助を受けた。同事業は、地域の課題に取り組むため、NPOなどの民間組織が市町村、企業と協力して行う活動が対象になっている。

 事業主体のNPO「南アルプスファームフィールドトリップ」(南アルプス市)の小野隆理事長(45)によると、市内のスモモ農家などでは、6~7月の収穫期になると毎年、農作物がサルに食い荒らされ、深刻な被害が出ている。農家も電気柵を設けたり、犬を飼ったりしてきたが、効果は今ひとつ。犬の餌代などで費用がかさむといったデメリットもあったという。そこで小野理事長が思いついたのがヤギの活用だった。

 滋賀県の畜産技術振興センターの研究によると、ヤギはサルの存在に気付くとサルをじっと凝視し、興味を示して近づいていく習性がある。サルはヤギとの距離が20メートルほどになると、警戒心からその場から逃げ去るという。

 計画では、この習性を利用し、山の近くの果樹畑や野菜畑に隣接する遊休農地でヤギを飼育し、畑の作物を狙って山から下りてきたサルと鉢合わせさせる。ヤギの「見つめ攻撃」でサルを撃退し、農作物を守ろうという作戦だ。

 更にヤギが遊休農地の草をえさとして食べれば、餌代もかさまず、遊休農地の復活の可能性も高まるため、一石二鳥だ。ヤギの飼育担当者として、精神疾患を持つ人を雇用する計画もある。まずは同市築山にあるスモモ畑に隣接する約30アールの遊休農地をモデルに、業者から購入したヤギ10匹を放して効果を検証する。小野理事長は「事業を継続し、サル対策のモデルケースとしたい」と意気込んでいる。(2011年9月9日  読売新聞) 

 シカ、サル対策に「オオカミ復活」

 さらに、ユニークな方法としては、オオカミを復活させる方法も検討されている。ニホンジカや野生ザルの食害が近年、県内各地で深刻な問題になっている。これら野生動物の増えた原因は、温暖化などによる植生の変化に加えて、天敵であるニホンオオカミの絶滅が大きいという。

 オオカミは古くから福島県を含め国内に広く生息した。シカなどを捕食して増え過ぎを抑え、結果的に森林を守ってきた。さらに、食べ残しはイヌワシなどの餌にもなった。しかし、乱獲や海外からの伝染病などによって激減。明治38(1905)年以降、姿が確認されず、既に絶滅したと考えられている。

 オオカミを日本に復活させ、生態系再生や自然保護を図る計画が進められている。丸山直樹東京農工大教授ら研究者によって研究団体「日本オオカミ協会」が平成5年に結成され、国などに実現を働き掛けている。シンポジウム開催や「日本の森にオオカミの群れを放て」(吉家世洋著、星雲社刊)などを通じて啓発にも力を注いできた。

 計画によれば、ハイイロオオカミの群れを中国モンゴル自治区などから移入して森に放す。ニホンオオカミはハイイロオオカミの亜種。ブラックバスなどの外来種とは異なり、日本の生態系に悪影響を及ぼす心配がない。丸山教授は「人間が絶滅させた種の復活は責務。コウノトリの放鳥と似たような手法」と話す。また犬に比べて狩りが上手で、サルやイノシシをも捕らえる。抑制効果が期待できるという。

 米国での復活例
 米国では、既に11年前からイエローストーン国立公園などで復活事業が進められている。カナダから移した群れが増え、森を荒らしていた大型シカであるエルクが減って、植生が回復傾向にあるそうだ。

 同協会は当面の導入候補地として尾瀬を含む日光国立公園を挙げている。理由は、シカの数が多く貴重な植物の食害が深刻、公園内での狩猟が禁止されている上、自然が既に詳しく調べられている―など。

 オオカミが人や家畜に危害を及ぼす恐れはないのか?丸山教授は「健康なオオカミが人を襲うことはない。逆に接触を避けるため人的被害は皆無に近い」と語る。放牧された羊、馬や放し飼いの犬を襲った事例はあるものの、日本では外国のような広範囲の放牧は行われておらず「ほとんど心配ない」としている。

 恐怖心は、「赤ずきん」「3匹の子豚」など、欧州の童話の中で“悪役”とされてきた影響が大きいようだ。日本では、敵視されることは少なく、むしろ「神の使い」としてあがめられてきた。

 今すぐの導入を主張するつもりはないが、長期的な検討課題にしてはどうか。影響予測のための調査やオオカミによる被害が出た際の対応・補償など、解決すべき問題は多く、時間をかけた議論が必要だ。何よりも国民の理解が大切になろう。米国での導入の際は、啓発などにより70%近い住民の賛成があったという。日本人は100年以上もオオカミを知らない。まずは生態や情報に目と耳を向けていきたい。(2006/6/28)(福島民報論説より)



絶滅した日本のオオカミ―その歴史と生態学
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北海道大学出版会
ハイイロオオカミの尿がサル・イノシシ・シカなどを遠ざける!【ウルフピー(WOLFPEE) 340g】
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