ノーベル賞、有力候補
米調査会社トムソン・ロイターは9月21日、論文引用回数などから、今年のノーベル賞の有力候補者を予想した。医学生理学、物理学、化学、経済学の4賞の13分野24人で、日本からは大野英男・東北大教授を物理学賞候補に挙げている。2002年から昨年までに予想した候補者138人のうち17人が実際に受賞したという。
大野教授は、磁石の性質を持った半導体を開発。ハードディスクなどに使われる磁性材料と半導体の長所を併せた「スピントロニクス」と呼ばれる研究分野を開拓し、大容量で高速のコンピューターメモリー「MRAM」の開発につながった。日本学士院賞などを受賞している。
他のテーマでは、医学生理学賞で慢性骨髄性白血病の薬を開発した米国研究者らを挙げた。ノーベル賞は来月3日の医学生理学賞を皮切りに各賞が発表される。(毎日新聞 2011年9月21日)
スピントロニクス (Spintronics) とは、固体中の電子が持つ電荷とスピンの両方を工学的に利用、応用する分野のこと。 スピンとエレクトロニクス(電子工学)から生まれた造語である。これまでのエレクトロニクスではほとんどの場合電荷の自由度のみが利用されてきたが、この分野においてはそれだけでなくスピンの自由度も利用しこれまでのエレクトロニクスでは実現できなかった機能や性能を持つデバイスが実現されている。この分野における代表的な例としては1988年に発見された巨大磁気抵抗効果があり、現在ハードディスクドライブのヘッドに使われている。
スピンとは何だろうか?スピンとは電子がもつ「自転」の性質のことで、磁石の磁場の発生源となる。電子は、太陽と惑星のように、原子核のまわりを公転する動きが知られている。最近、電子そのものが自転している動きがあることがわかった。しかも、この自転の向きも右回り(アップ)、左回り(ダウン)の2通りがある。
これまでのエレクトロニクスは電子の電荷に基礎をおいていた。つまり「+(もしくは帯電せず)/-」を「0/1」に対応させて情報処理を行っていた。しかし電子にはもう一つ重要な性質、スピンが存在している。スピンにも、「アップ/ダウン」というように二つの状態があるのだが、近年、電子スピンをエレクトロニクスに積極的に取り入れようとする試みが強まってきた。このような新しい分野を、「スピントロニクス」と呼んでいる。
スピンエレクトロニクスとは、「0/1」を表現するのを、単に「+/-」から「アップ/ダウン」に変更するだけではない。スピンの特性をいかして、電荷に基づいた従来のエレクトロニクスでは不可能だったようなデバイスも実現できるようになる。これまでに成功したスピンデバイスにはGMR素子などがあるが、これはハードディスクの記憶容量を飛躍的に増大させた。また、数年後には不揮発性の高速メモリ「MRAM」も実用化されると期待されている。
MRAMとは何か?
フラッシュメモリ、DRAMなど従来のメモリがメモリセル内の電子を用いて記録を行っているのに対し、MRAMは記憶媒体にハードディスクなどと同じ磁性体を用いたメモリ技術である。原子数個程度の厚さの絶縁体薄膜を2層の磁性体薄膜で挟み、両側から加える磁化方向(磁石の磁力線の向き)を変化させることで抵抗値が変化する「TMR効果」を応用している。 MRAMは、アドレスアクセスタイムが10ns台、サイクルタイムが20ns台とDRAMの5倍程度でSRAM並み高速な読み書きが可能である。また、フラッシュメモリの10分の1程度の低消費電力、高集積性が可能などの長所がある。
パソコンやその周辺の製品にはいろいろなメモリが使われている。しかし、今のところこのすべての条件を満たしたメモリは存在しない。パソコンの「メモリ」として使われている「DRAM(Dynamic Random Access Memory)」は書き換え/読み出し速度、集積度などの点で優れているが、「揮発性」メモリで電源を切ってしまうと保持していたデータが失われてしまう。そのため、いつもパソコンを立ち上げるたびに待たされるというわけだ。
デジカメのメモリなどとして使われている「フラッシュメモリ」は「不揮発性」であるが、書き換え/読み出し速度やビット単価の面で優れているとは言えない。しかし、「MRAM(Magnetic RAM)」はメモリに要求されるこれらの条件をすべて満たすことができるかもしれない。MRAMは従来のメモリとはまったく違った原理になっている。これまでのメモリは構造の違いこそあっても、すべて電子の電荷によって情報を保持していたのに対し、MRAMでは電子のスピンで情報を保持するようになっている。
参考HP Wikipedia スピントロニクス サイエンスグラフィック社 スピントロニクス
ナノネットインタビュー スピントロニクスの可能性
スピントロニクス―次世代メモリMRAMの基礎 | |
クリエーター情報なし | |
日刊工業新聞社 |
スピントロニクス理論の基礎 (新物理学シリーズ) | |
クリエーター情報なし | |
培風館 |
��潟�<�潟��