ノーベル生理学・医学賞、「免疫」研究に

 2011年のノーベル生理学・医学賞は「免疫」研究の3人に送られた。「免疫」といえば、生体内で病原体やがん細胞を認識して殺滅することにより生体を病気から保護する多種多数の機構である。免疫は最初に病原体に攻撃をしかける「自然免疫」と、自然免疫を突破した病原体に攻撃する「獲得免疫」がある。自然免疫の代表例に「樹状細胞」があり、獲得免疫の代表例には「リンパ球」がある。

 スウェーデンのカロリンスカ研究所が10月3日、2011年のノーベル生理学・医学賞を贈ると発表したのは、死亡していたラルフ・スタインマン・米ロックフェラー大学教授のほか、ブルース・ボイトラー・米スクリプス研究所教授(53)、ジュール・ホフマン・元フランス国立科学アカデミー議長(70)の2人だった。

 授賞理由は、ボイトラー、ホフマン氏が「自然免疫の活性化に関する発見」、スタインマン氏が「樹状細胞と、獲得免疫におけるその役割の発見」だ。賞金は1000万スウェーデン・クローナ(約1億1000万円)で、ボイトラー、ホフマン氏にあわせて半分を、スタインマン氏に半分を贈ると発表した。

Nobelprize_Physiology or Medichin2011

 免疫とは、ウイルスや細菌などが動物の体内に侵入したときに働く防御システムのこと。ボイトラーとホフマンの両氏は、ウイルスなどが侵入したときに最初に働く「自然免疫」を活性化させるたんぱく質を発見した。ホフマン氏は1996年、ショウジョウバエを使った実験で、「トル」というたんぱく質が、病原体を探知するセンサーとして免疫に関わることを発見。ボイトラー氏は1998年、哺乳類のマウスにある「トル様受容体」がトルと同様の働きをすることを見つけた。(2011年10月3日  読売新聞)

 故人がノーベル賞?
 スウェーデンのノーベル財団は10月3日、今年のノーベル生理学・医学賞を同日受けたカナダ人のラルフ・スタインマン米ロックフェラー大教授が授賞発表前の9月30日に膵臓がんのため68歳で死去していた問題を役員会で協議し、「授賞決定は覆さない」との結論を出した。

 今回のノーベル生理学・医学賞の発表は10月3日。ところが、大学側は、受賞発表後、9月30日に68歳でラルフ・スタインマン教授が死去したとの声明を出した。4年前に膵臓がんと診断され、授賞理由になった樹状細胞による免疫療法で闘病していた。

 ノーベル財団によると、死去について同大から連絡が入ったのは授賞発表から3時間後。財団の規則は死者を授賞対象にしないと定める一方、授賞決定後に受賞者が死亡した場合は授賞するとしている。今回は、受賞者を選考するカロリンスカ研究所の委員会が授賞決定時点で「教授は生存している」と見なしていたので、取り消されないことになった。(2011年10月4日  読売新聞)

 残念なのは、審良(あきら)大阪大学教授である。今回のノーベル賞の対象となった「自然免疫」の研究では、大阪大学の審良(あきら)静男教授(58)も、有力候補の一人といわれていた。

 審良大阪大学教授
 審良教授は、ことし、自然免疫についての研究で、カナダの有力な医学賞、ガードナー国際賞を受賞した。この時、一緒に受賞したフランス・ストラスブール大学のジュール・ホフマン教授はノーベル賞に選ばれたが、審良教授は今回は受賞できなかった。自然免疫は、細菌などの病原体が体内に侵入したときに、最初に働く免疫の仕組みだ。

 審良教授は、細胞の表面で病原体の侵入を察知する「TLR」というタンパク質を次々と発見し、その機能を明らかにすることによって、自然免疫の研究の発展に大きな役割を果たした。同じ分野の3人の研究者が受賞者に選ばれたことについて、審良教授は「3人は、免疫学の分野で偉大な業績を挙げた尊敬すべき科学者であり、同時に長年この分野でしのぎを削ってきたライバルでもあります。私自身、公私ともに親しく、先ほど受賞された方々にお祝いのメールをさしあげたところです。今回の受賞によって免疫学という分野の重要性が評価され、皆様の関心が少しでも高まっていただければ、これに勝る喜びはございません」というコメントを出した。

 一方、日本免疫学会の会長などを務めた大阪大学元学長の岸本忠三さんは「審良さんは、自然免疫の分野で質、量ともにいい仕事をした。ただ、TLRの最初の発見やその機能の解明で先を越された。ノーベル賞の受賞は、その分野をいちばん最初に切り開き、新たな概念を示した人の優先度が高いということだろう。受賞から漏れたのは、本当に残念だ」と話している。(NHKnews 2011年10月3日)

 トル様タンパク質(受容体)
 Toll様受容体(トルようじゅようたい、Toll-like receptor:TLRと略す)は動物の細胞表面にある受容体タンパク質で、種々の病原体を感知して自然免疫(獲得免疫と異なり、一般の病原体を排除する非特異的な免疫作用)を作動させる機能がある。脊椎動物では、獲得免疫が働くためにもToll様受容体などを介した自然免疫の作動が必要である。

 TLRまたはTLR類似の遺伝子は、哺乳類やその他の脊椎動物(インターロイキン1受容体も含む)、また昆虫などにもあり、最近では植物にも類似のものが見つかっていて、進化的起源はディフェンシン(細胞の出す抗菌性ペプチド)などと並び非常に古いと思われる。さらにTLRの一部分にだけ相同性を示すタンパク質(RP105など)もある。

 TLRやその他の自然免疫に関わる受容体は、病原体に常に存在し(進化上保存されたもの)、しかも病原体に特異的な(宿主にはない)パターンを認識するものでなければならない。そのためにTLRは、細菌表面のリポ多糖(LPS)、リポタンパク質、べん毛のフラジェリン、ウイルスの二本鎖RNA、細菌やウイルスのDNAに含まれる非メチル化CpGアイランド(宿主のCpG配列はメチル化されているので区別できる)などを認識するようにできている。

 自然免疫は病原体と戦った際、どのような病原体が現われたのか獲得免疫に知らせる能力があり、獲得免疫を支配していると判った。そうした自然免疫の隠れた能力(指揮命令能力)を発見したのが、審良教授である。

 所謂ワクチンとは、獲得免疫の事を指す。よって従来は獲得免疫が研究のメインだった。しかし、審良教授によって自然免疫の重要性が認知され、業界のトレンドを変える程の影響を与えた。(wikipedia)

 自然免疫と獲得免疫 
 免疫とは、ヒトや動物などが持つ、体内に入り込んだ「自分とは異なる異物」(非自己)を排除する、生体の恒常性維持機構の一つである。一般に、薬物や化学物質などの排除には、肝臓の酵素による代謝が働くのに対し、免疫はそれよりも高分子であるタンパク質(ヘビ毒やハチ毒など)や、体内に侵入した病原体を排除するための機構として働くことが多い。特に病原体による感染から身を守るための感染防御機構として重要であり、単に「免疫」と呼ぶ場合には、この感染防御免疫のことを指す場合も多い。

 免疫(感染防御免疫)は、体内に侵入するバクテリアやウイルスなどを妨害する障壁を創造、維持することで生体を防御する機構である。感染源がこの障壁を突破したとしても、自然免疫が感染源に対応する。自然免疫にはある特殊な細胞が備わっており、それらは侵入物が自己を再生産したり宿主に対し重大な被害をもたらす前に発見、排除する。

 自然免疫を突破した感染源に対応するのは獲得免疫である。獲得免疫は一度感染源に接触することで発動し、発動後は感染源を発見し次第選別、強力に攻撃を仕掛けていく。 獲得免疫は抗体や補体などの血中タンパク質による体液性免疫の他に、リンパ球などの細胞による細胞性免疫によって担われている。

 樹状細胞
 樹状細胞(dendritic cell)は、抗原提示細胞として機能する免疫細胞の一種であり、哺乳類の免疫系の一部を担っている。抗原提示細胞とは自分が取り込んだ抗原を、他の免疫系の細胞に伝える役割を持つ。

 皮膚組織をはじめとして、外界に触れる鼻腔や肺、胃、腸管に存在し、その名のとおり周囲に突起を伸ばしている。表皮の樹状細胞はランゲルハンス細胞と呼ばれる。抗原を取り込むと樹状細胞は活性化され、脾臓などのリンパ器官に移動する。リンパ器官では取り込んだ抗原に特異的なT細胞やB細胞を活性化する。樹状細胞は発現している表面抗原分子 (CD, cluster of differentiation) によってさまざまなサブセットに分類される。

 免疫細胞は、私たちの体内に侵入した細菌やウィルス、そして体内で発生したがん細胞から体を守る細胞。白血球ともいう。白血球は学術的にはロコサイトともいう。免疫細胞は60%が顆粒球で25%がリンパ球である。3〜8%が単球である。その他には肥満細胞がある。

 免疫細胞には顆粒球、リンパ球、単球、樹状細胞、肥満細胞など多数の種類がある。 そのうち樹状細胞は、抗原提示細胞のなかまで、体内に侵入してきた細菌や、ウイルス感染細胞などの断片を抗原として自己の細胞表面上に提示し、T細胞を活性化する。抗原提示細胞は細胞表面上に主要組織適合抗原分子(MHC分子)を持ち、これに抗原を載せて提示を行う。樹状細胞が最も強力な抗原提示能力を持つ。

 ラルフ・スタインマン(Ralph M. Steinman 1943年1月14日 - 2011年9月30日)氏は、カナダの免疫学者、細胞生物学者。 カナダ・ケベック州モントリオールのアシュケナジム・ユダヤ人。カナダのマギル大学卒業後ハーバード大学医学部で医学博士号を取得。その後アメリカのロックフェラー大学に所属し、樹状細胞の研究に取り組んだ。「樹状細胞」という用語は、1973年にスタインマンとZanvil A.Cohnによって作られたものである。

参考HP Wikipedia 免疫 樹状細胞 トル様受容体
アイラブサイエンス 日本の優れた免疫研究

がんを狙い撃つ「樹状細胞療法」 (講談社プラスアルファ新書)
クリエーター情報なし
講談社
新しい自然免疫学 -免疫システムの真の主役 (知りたい!サイエンス)
クリエーター情報なし
技術評論社

ブログランキング・にほんブログ村へ 人気ブログランキングへ   ←One Click please