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ソマリアの洞窟魚
アフリカ・ソマリアの地下洞窟に生息する目が退化した魚は、約2日間の体内時計を持っているらしい。人間をはじめ生物はふつう1日(24時間)の周期性を持っているが、2倍近い長さ。イタリアやドイツなどの共同チームが米科学誌プロス・バイオロジーに論文を発表した。
代謝にかかわるホルモンの一種を使った実験で、この魚の細胞が38~47時間の周期性を持っていることを確認。さらにこのに1日1回規則的にエサを与え続けると、1カ月後には、エサがもらえる数時間前になると予知するかのように活発な動きを見せるようになったという。
生物は光を浴びて睡眠などのリズムを整えている。この魚は数百万年前から暗闇で生きてきたとみられ、目は退化して光には全く反応しないが、体内時計は維持しているという。なぜ2日間なのかはわからないが、研究チームは「エサに反応する『腹時計』を持っていたことで過酷な環境で生き延びられたのではないか」と推測する。(asahi.com 2011年9月17日)
長時間起きているとだんだん眠気が強くなり、徹夜が続くと目を開けているのも辛くなることはしばしば経験される。眠らずにいる時間が長いほど、眠ろうとする力が強く働く。これは目が覚めている間に「睡眠物質」が蓄積していくか、あるいは「覚醒物質」が減少していくのではないかと考えられている。その候補物質がすでにいくつか見つかっているが、「これがなければ眠れない」という絶対無二の睡眠物質は見つかっておらず、複数の物質がかかわっている可能性がある。
また、朝日が昇ると自然に目が覚め、夜になると眠くなるのは自然なことのように思える。これは、体の中に時計があり、朝になると目が覚めるように体に指示を与えている。この時計を、体内時計(概日リズム)という。眠気のほか、体温やホルモンの分泌など、さまざまな生理現象が体内時計にコントロールされて昼夜変動を繰り返している。
体内時計は、自分の力でほぼ24時間周期のリズムを刻んでいる。海外旅行に行った時など、疲れていても夜なかなか眠れなかったり、逆に昼間から眠くなって困ることがある。これは、たとえばアメリカにいるにもかかわらず、体内時計がもとの日本時間で動いており、アメリカ時間で動くようになるまでに数日から数週間かかるため、現地の昼夜リズムと体内時計にコントロールされる睡眠覚醒リズムがずれるために起こるから。すなわち、「時差ぼけ」は体内時計が自分でリズムを刻む力をもっているために起こるともいえる。
体内時計の起源
太陽の光をもとにした体内時計(概日リズム)は、何も人だけが持つものではなく、動物、植物、菌類、藻類など、ほとんどの生物に存在している。
なぜこのような体内時計を生物は持っているのだろう?それは進化上最も古い細胞に起源を持つ。昼間の有害な紫外線下でのDNA複製を回避するために、獲得した機能であると考えられている。結果として複製は夜間に行われることとなった。現存するアカパンカビ (Neurospora) は、このような時計制御された複製機構を保持している。
このような体内時計(概日リズム)が発見されたのは、1729年にフランスの科学者ジャン・ジャック・ドルトゥス・ドゥメランによって初めて、科学論文として報告された。彼はオジギソウの葉が、外界からの刺激がない状態でも約24時間周期のパターンで動き続ける、就眠運動をしていることに気づいたのである。
体内時計は細菌などの原始的な生物にも存在する。名古屋大学の近藤教授は、真正細菌のシアノバクテリアの遺伝子(時計遺伝子)が作ったタンパク質を試験管内でリン酸化合物と混ぜるだけで、24時間周期で繰り返す化学反応を発見した。化学反応が体内時計の「振り子」の役割を果たしている可能性もある。
時計遺伝子
哺乳類における時計中枢は視床下部の視交叉上核に存在する。視交叉上核を破壊された動物では、規則正しい睡眠・覚醒リズムが完全になくなる。
哺乳類は光を目で受け取り、この情報を視神経によって、視交叉上核に伝える。
視交叉上核は光の情報を網膜から受け取り、他の情報と統合し、松果体へ送信している。松果体ではこの情報に応答してホルモンであるメラトニン (melatonin) を分泌する。メラトニン分泌は夜間に高く昼間に低くなることで、睡眠・覚醒のリズムをつくり出す。
こうした、光によってメラトニンなど特別なタンパク質を作る遺伝子を時計遺伝子という。時計遺伝子はショウジョウバエやマウスなどでは見つかっていたが、1997年(平成9)10月、東京大医科学研究所ヒトゲノムセンターと神戸大医学部のグループが、初めてヒトで発見。
この時計遺伝子は「ピリオド(周期)」と名付けられた。この遺伝子は人では、17番染色体上に乗っている。ネズミなど哺乳類にもあり、この遺伝子の一部に変異があると体内時計が長くなったり短くなったりするなど、その機能が盛んに研究されている。
朝日の記事は誤り?
朝日の記事は、本論文をひどく誤って紹介しています。論文の本題は、「洞窟魚の体内時計周期が47時間」ということではまったくなく、概日時計を調節する光受容体を同定したという話です。
最もシンプルな脊椎動物モデル生物であるゼブラフィッシュは、脳の時計中枢に加えて、日光によって直接調節される「末梢時計」を持っています。研究者達は、この末梢時計にシグナルを送る「光受容器」を同定するために、数百万年間光のない洞窟の中で進化した盲目の魚(P. andruzzii)の概日リズム、時計中枢、末梢時計をゼブラフィッシュと比較しました。
写真のように、P. andruzziiには、眼もウロコもメラニン色素も退化して認められません。このような生物で、末梢時計の光による制御がどうなっているかを調べたのです。まず、行動を調べたところ、P. andruzziiには概日リズムがありませんでした。この魚が、2日を単位に行動しているように書いている朝日の記事はまったくの誤りです。さらに、P. andruzziiは、ゼブラフィッシュの時計遺伝子と非常に相同性の高い時計遺伝子のセットを全てもっているのですが、ゼブラフィッシュと異なり、時計中枢も末梢時計も光には反応しませんでした。
研究者達は、光に反応しない理由が受容体にあるのではないかと考え、受容体の候補分子、メラノプシンとTMTオプシンをコードする遺伝子を調べたところ、これらの遺伝子に機能喪失変異を見つけました。光に反応しなかったP. andruzziiの細胞にゼブラフィッシュのこれらの遺伝子を導入すると、見事に光に反応したという話です。(takのアメブロ)
参考HP Wikipedia 概日リズム
きちんとわかる時計遺伝子 (産総研ブックス) | |
クリエーター情報なし | |
白日社 |
NHKサイエンスZERO 時計遺伝子の正体 (NHKサイエンスZERO) | |
クリエーター情報なし | |
NHK出版 |
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