ペスト菌、600年前から変化せず
ペスト菌はこの600年間でほとんど変化していないことが、DNA解析で明らかになった。中世ヨーロッパを襲った“黒死病”は、史上最悪のペスト大流行というだけではなかった。現在みられる人間へのペスト感染にも、当時流行した菌が関与しているらしい。
今回の研究成果は、イギリス、ロンドンにある14世紀半ばの黒死病患者の墓地から掘り出した人骨を調査して判明した。墓地の発掘は、ロンドン博物館考古学部門によって行われた。
中世の墓から採取した黒死病の病原菌、エルシニア・ペスティス(Yersinia pestis:ペスト菌)は、カナダ、オンタリオ州にあるマックマスター大学のカーステン・I・ボス(Kirsten I. Bos)氏と、ドイツにあるテュービンゲン大学のフェレナ・J・シューネマン(Verena J. Schuenemann)氏が中心となって、ゲノム配列の解析が進められた。
この結果は、「現在のペスト菌流行の起源が中世にあることを示すものだ」と研究チームは記している。
ペスト菌は土からヒトへ
ペスト菌は、土壌に生息する類縁菌から進化したものであることが知られている。黒死病として流行したペスト菌には、ヒトへの感染を可能にするDNA配列が加わっていた。
ヒトに感染できるようになったことで、ペスト菌は爆発的に広まった。菌をノミが運び、そのノミが取りついたネズミは、貨物船など交易用の乗り物にしばしば潜り込んだ。
ペスト菌が1340年代にヨーロッパに到達すると、5年間でおよそ3000万~5000万人が死亡した。当時のヨーロッパの人口のほぼ半分に当たる数だ。
ペスト菌に感染した人は、リンパ節を冒されて腺ペストを発症し、まれには肺ペストという肺への二次感染を起こす。
ペスト菌は現在もなお、地上性の齧歯動物につくノミを主な媒介として広まっている。感染者は世界で最大3000人にのぼり、主にアメリカ、マダガスカル、中国、インド、および南米で感染例が報告されている。しかし現在では、治療を受ければ患者の85%は助かる。
黒死病のDNA解析については、10月12日付で「Nature」誌オンライン版に掲載された。(Victoria Jaggard for National Geographic News October 13, 2011)
ペスト菌とは?
ペスト菌(Yersinia pestis)は、グラム陰性の通性嫌気性細菌であり、腸内細菌科に属する。両極染色で、外見は安全ピンのような形に見え、ペストの病原体となる。ペストは人類の歴史を通じて最も致死率の高かった伝染病であり、1347年から1353年にかけて流行した際にはヨーロッパの全人口の約2分の1が死滅した(1347年10月、中央アジアからイタリアのメッシーナに上陸、1348年にはアルプス以北のヨーロッパにも到達)。
単独では運動性を持つが、宿主中にいる時には運動性を持たない。ペスト菌は1894年にスイス・フランスの医師で、パスツール研究所の細菌学者でもあったアレクサンダー・イェルサンが香港で発見した。また同時期に、ロベルト・コッホの指導を受けた日本人細菌学者の北里柴三郎がこれとは全く独立に発見した。しかし、ペストとペスト菌を最初に結び付けて考えたのはイェルサンであり、当初ルイ・パスツールにちなんでPasteurella pestisと付けられていたこの菌の学名は1967年に、イェルサンにちなんだYersinia pestisに改められた。
ペスト菌には3種類の亜種が知られ、それぞれが歴史上のペストの大流行の原因となっている。Antiquaは541年から542年にかけて東ローマ帝国から始まった大流行を引き起こし、Medievalisは14世紀のヨーロッパでの大流行の原因とされる。Orientalisは中華人民共和国雲南省で1855年に始まった大流行の原因であり、また現在のペストの大部分はこの菌によるものである。
伝統的に、ペスト菌に対する初期の治療にはストレプトマイシン、クロラムフェニコール、テトラサイクリン、フルオロキノロンなどが用いられてきた。また、ドキシサイクリン、ゲンタマイシンが効果を発揮すると言う結果もある。
ただし、上に挙げた抗生物質の1種または2種にたいして耐性を持つ菌も分離されている。治療は各抗生物質への感受性、耐性を見極めて行うべきである。また抗生物質のみの治療が奏功しない患者もおり、このような場合は循環補助、呼吸補助、腎補助など別の措置が必要になる。(Wikipedia)
参考HP Wikipedia ペスト菌 ・ National Geographic ペスト菌、600年前から変化せず
ペスト大流行―ヨーロッパ中世の崩壊 (岩波新書 黄版 225) | |
クリエーター情報なし | |
岩波書店 |
ペスト (新潮文庫) | |
クリエーター情報なし | |
新潮社 |
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