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 生命史上の「大事件」
 地球大気中の酸素は、生命による光合成活動によって生み出されており、宇宙から眺めた時に、地球が他の惑星と異なる生命の星であることを示す最大の特徴である。このような酸素大気は、いつどうやって形成したのだろうか?

 約23億年前、地球の大気中の酸素濃度が急上昇していたことが東京大などのチームの研究でわかった。地球が生命であふれるきっかけとなる生命史上の「大事件」の時期を初めて正確に特定した結果で、11日発行の英科学誌ネイチャー・コミュニケーションズ(電子版)に発表した。

 現在、酸素は大気の21%を占めるが、46億年前の地球誕生時はほとんど存在せず、初期の生命は酸素なしで生きる下等なものだったと考えられている。

Os

 同大大学院の関根康人講師らは、大気中の酸素濃度に応じて地層に含まれるレアメタル「オスミウム」の濃度が変化することに着目。カナダ・オンタリオ州の地層の調査から、酸素濃度上昇の時期を23億年前と割り出した。

 約20~24億年前、大気中の酸素濃度はほとんどゼロの状態から現在の1/100以上のレベルにまで急激に上昇し、生命進化に多大な影響を及ぼした。しかし、この酸素の上昇のタイミングとそのメカニズムは謎であった。

 本研究では、地層中に含まれる白金族元素オスミウムを用い、酸素濃度の上昇が、約23億年前の大氷河期から温暖期への気候回復時に起きたことを明らかにした。このことは、急激な温暖化に伴い、光合成生物が大繁殖することで、酸素大気が形成したことを示している。このことはまた、太陽系外地球型惑星の生命-大気-気候の相互作用の理解にとっても重要である。(asahi.com 2011年10月12日)

 23億年前の大酸化イベント
 地球大気中の酸素は、生命による光合成活動によって生み出されており、宇宙から眺めた時に、地球が他の惑星と異なる生命の星であることを示す最大の特徴である。このような酸素大気は、いつどうやって形成したのだろうか?

 現在、地球大気の21%を占める酸素は、地球史46億年を通じて徐々に増えてきたわけではなく、特定の時期に増加したと考えられている。とくに、今から約20~24 億年前には、それ以前にはほとんど存在していなかった酸素が、現在の1/100以上のレベルにまで急激に上昇した(図1)(1/100というと少なく聞こえるが、それ以前はほとんど酸素が存在していなかったことを考えると、急激な上昇である)。

 この爆発的な酸素濃度の上昇は“大酸化イベント”と呼ばれ、これにより表層環境や生態系は一変した。我々にとって必要不可欠な酸素も、当時繁栄していた原始的な微生物にとっては猛毒である。大酸化イベントの結果、このような酸素があると生きられない微生物は地表から地下に活動の場を移し、酸素を代謝エネルギー源として用いる、ヒトを含むすべての動植物が属する真核生物(注1)が約20億年前に出現するに至った。

 このような大酸化イベントはどのようなメカニズムで生じたのだろうか。この問題は地球科学における長年の謎であった。この時期に光合成生物が大繁殖したのであろうか?もしそうならば、大繁殖を引き起こした引き金は何であろうか?

 大酸化イベントのメカニズムを理解するためには、酸素濃度が上昇し始めた“タイミング”を明らかにすることが重要となる。なぜなら、たとえば“何かの事件(イベント)”を引き金に酸素濃度が上昇した場合、酸素上昇とそのイベントがほぼ同時に地層などの地質記録に保存されていることが期待されるからである。

 地層の物差し“オスミウム”
 しかしながら、このような酸素上昇と地質イベントの同時性を示すことは簡単ではない。過去の研究では超えられなかった大きな壁がここにある。これまでの研究では、地層中にたまたま存在している酸化物や硫化物の分析から、その当時大気に酸素が存在していたのかを判断していた。

 このような従来の指標は常に地層中に存在しているわけではなく、数1000万年~1億年間隔で点在しており、それらの点の記録をつなぎ合わせて大雑把な酸素濃度の変化を推定していた。そのため、もっと短い時間スケールでおきる地質イベントと酸素濃度の変化を照らし合わせることは困難であった(図1)。したがって、大酸化イベントの原因を究明するためには、酸素濃度の変化を地質イベントの前後で連続的に追うことのできる新たな指標が必要となる。

 東京大などのチームではこの問題に対し、白金族元素(注2)の1つであるオスミウムとその同位体(注3)を新たな指標として用い、大酸化イベント中の酸素濃度変化を連続して追尾した。

 大陸の岩石中に含まれるオスミウムは、酸素濃度が高いとイオンとなり水に溶け、河川を通じて海に運ばれ海底の地層中に堆積する。一方、酸素濃度が低いと水には溶けないため、海水中や地層中のオスミウム濃度は低いままである。

 さらに、河川を通じて海に運ばれる陸由来のオスミウムは、その同位体比が海底火山などで海洋に直接供給されるオスミウムのものとは大きく異なるため、地層中に含まれるオスミウムの濃度と同位体比の両方を測定すれば、陸から海にオスミウムが運ばれ始めたタイミング、すなわち酸素濃度が上昇したタイミングが特定できる。

 23億年前の地層“オスミウム”濃度上昇
 我々は、約22~24.5億年前の地層が分布するカナダ・オンタリオ州の地質調査を実施し、堆積物試料の分析を行った(図2)。その結果、大規模氷河期があったことを示す約23億年前の氷河性堆積物と、その直上の温室気候を示す炭酸塩岩の境界の地層から、オスミウムの濃度と同位体比が上昇するシグナルを発見した(図3)。このことは、地球が大氷河期から抜け出し、温暖化が生じる気候回復と同時に、大気中の酸素濃度の急上昇が起きていたことを示している。

 大酸化イベントの全貌は、次のようなものである。約23億年前、地球は表面の大部分が氷で覆われる大氷河期にあった。やがて大氷河期が終わると、急激な温暖化によって、大陸の化学風化作用が劇的に増大する。その結果、大陸から大量の栄養塩(リン)が海洋に供給され、光合成生物の大繁殖を引き起こし、大量の酸素の放出が引き起こされる(図4)。

 この時代には、全球凍結(注4)を含む破滅的な氷河期が繰り返し起きていたことが知られている。この酸素の上昇により、大気中に存在していたメタンなどの強力な温室効果をもつ還元的なガスは酸化され、それらの濃度が低下する。すると、温室効果が低下した地球は温暖期の後、再び大氷河期に陥り、またその気候回復期に酸素が放出される。このような激しい寒冷化-温暖化のサイクルと、そのたびに起きる光合成活動の活発化に伴う酸素濃度の上昇は、大気中に酸素が満ちるまで起き続けたのであろう。(東京大)

 オスミウム(Os)とは?
 青灰色の金属(遷移金属)で、比重は22.57、融点は3045 °C(2700 °Cという実験値もあり)。沸点は5000 °Cを越える。常温、常圧で安定な結晶構造は六方最密充填構造 (HCP)。比重は全元素中最も大きい(イリジウムは2番目)。

 酸化数は+1〜+8価まで取り得る(+4価が最も安定)。白金族中では最も酸化され易い。高温でハロゲンと反応するが、王水にはあまり溶けない。レアメタル(希少金属)である。

 粉末は空気中に放置または加熱すると猛毒の酸化オスミウム(VIII)を容易に生じる。

 1803年、イギリスのテナント (Smithson Tennant, 1761-1815) によって粗白金の王水溶解残留物から、イリジウムと共に発見された。加熱すると生じる四酸化オスミウムが特有の匂いを放つことからギリシャ語の οσμη (osmè、におい)にちなんで命名された。

 白金やイリジウムとの合金は硬く耐食性に優れていて、特に天然に産するイリジウムとの合金は、どちらの含有率が高いかによってオスミリジウムやイリドスミンと呼ばれる。万年筆のペン先に用いられ、日本では北海道に多く産する。また、酸化オスミウムと有機物が反応(還元)しオスミウム単体(黒色)を生成する性質を利用し指紋検出に用いられることがある。

 オスミウムの化合物としては、酸化オスミウム(IV) (OsO2)や猛毒の酸化オスミウム(VIII) (OsO4)がある。 (Wikipedia)

参考HP 東京大学プレスリリース 酸素大気形成のタイミングとメカニズム解明

NHKスペシャル地球大進化 46億年・人類への旅 第2集 全球凍結 大型生物誕生の謎 [DVD]
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NHKソフトウェア
地球環境46億年の大変動史(DOJIN選書 24)
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