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 2次元トポロジカル絶縁体
 東京大学大学院理学系研究科の平原徹助教と長谷川修司教授、分子科学研究所の木村真一准教授は、ドイツユーリッヒ研究所と共同で、二次元トポロジカル絶縁体であると理論的に予言されていたバイレイヤー(2原子層)ビスマス(Bi・Bi2Te3)の実験的作成に世界で初めて成功した。

 近年、金属・半導体・絶縁体・超伝導体といった従来の固体の分類の枠に収まらないトポロジカル絶縁体という物質が注目を集めている。

 普通の絶縁体は電圧をかけても電流が生じないが、トポロジカル絶縁体では物質の中身は絶縁体状態であるにもかかわらず、その表面や端では普通とは異なる特殊な金属状態が実現して、そこだけ電流が流れるといわれる。この端の電子は質量を持たず、スピン(電子の自転)をそろえて動き回るという特殊な性質を持つ。

Topological

 また通常の物質とは異なり、トポロジカル絶縁体の端の伝導電子は、非磁性の欠陥や不純物によって邪魔されることなく(エネルギーを損失することなく)動き回ることができるという非常に魅力的な性質を持っている。そのため、トポロジカル絶縁体を利用して、超低消費電力スピンデバイスや、次世代の量子コンピューターの開発に大きな期待が寄せられている。

 一方、物質を原子(ナノ)レベルで制御する研究も進んでいる。しかし物質を1、2原子層(バイレイヤー)に二次元化することは、例えば2010年のノーベル物理学賞対象となった炭素1層のグラフェンなど実際に作成するのは不可能ではないが、簡単にできることではなかった。

 本研究ではこのバイレイヤーBiの実験的作成に成功し、そのトポロジカルな電子の状態を実験的に明らかにした。今回の発見により原子1、2層の厚さのナノデバイスや低消費電力スピンデバイス、次世代の量子コンピューター開発の研究が大きく進展するものと期待できる。(東京大プレスリーリース)

 トポロジカル
 トポロジカル絶縁体・超伝導体の“トポロジカル”とは何か。例えばコーヒーカップの形を連続して変形させていくと、ドーナツの形をつくることができる。逆にドーナツの形をコーヒーカップの形にすることもできる。このように連続な変形によって不変な性質を扱う幾何学を“トポロジー(位相幾何学)”と呼び、コーヒーカップとドーナツの形は“トポロジカルに同じだ”という。

 一方、コーヒーカップの形を二つの穴が開いたドーナツの形にするには、穴を開けるという別の操作が必要となり、連続して変形することができない。つまり、コーヒーカップと二つ穴のドーナッツは、“トポロジカルに異なる”図形である。

 トポロジーは“やわらかい幾何学”とも呼ばれ、幾何学の中では新しい分野である。トポロジーでは連続的に変形できる図形はすべて同一視される。

 この性質を物理学においては、ある対象が多少の状況の変化(→連続変換に対応)しても、何らかの量(→穴の数に対応)を保存するときに、その対象にトポロジカルという用語を使う。例えば、トポロジカル絶縁体では、物質に多少の(磁性をもたない)不純物が混じっても、この表面に電流が流れる性質が変化しない。

 これまでトポロジーは物理学にあまり用いられていなかった。しかしここ数年の研究で、ある種の物質では、電子状態がすでに知られている絶縁体や超伝導体とは異なり、トポロジカル数を持つ“トポロジカル絶縁体”や“トポロジカル超伝導体”となることが分かっている。

 トポロジカル絶縁体
 位相幾何(トポロジー)を物質の電子状態の解析に取り入れることで、これまで知られていた絶縁体とは本質的に異なる新しい絶縁体物質として2005年に提唱された。

 トポロジカル絶縁体とは、一言でいえば、バルク(内部)にはエネルギーギャップを持つ絶縁体なのに、その“エッジ”(2次元系なら端、3次元系なら表面)にギャップレスの金属状態が生じている物質のこと。

 絶縁体でも電子が通り抜ける、トンネル効果や、半導体が強磁場中で起こす、量子ホール効果があるが、トポロジカル絶縁体の場合は、磁場などなくてもこのような特殊な状態が存在しているので、金属でも絶縁体でもない「新しい種類の固体物質」を実現しているのが「トポロジカル絶縁体」と言うことができる。

 さらに、伝わる電子のスピンが上向きか下向きかで分かれており、これまでの物質にはないスピンの応答や制御ができる事で、新しい量子現象やスピントロニクス素子開発ができる分野として、国内外で精力的な研究が行われている。

 3次元トポロジカル絶縁体と2次元トポロジカル絶縁体の二種類があり、それぞれ端状態は2次元・1次元となる。とりわけ2次元トポロジカル絶縁体の端状態は1次元の伝導路を持つために非磁性の不純物散乱の影響をほとんど受けないことが知られている。

 スピントロニクスへの応用
 スピンとは、磁石のもとになる、電子が持つ自転に由来した内部自由度のこと。自転軸の方向に対して、上向き(アップ)と下向き(ダウン)の2種類の状態がある。2次元トポロジカル絶縁体の端では、上向きスピンを持った電子は右に、下向きスピンを持った電子が左にといったように、スピンの方向の異なる電子が互いに逆方向に、しかも端に沿って一方向に流れる。3次元トポロジカル絶縁体においては必ずしも一方向に運動するとは限らない。

 これまでのエレクトロニクスではほとんどの場合電子の電荷のみが利用されてきたが、この分野においてはそれだけでなくスピンも利用しこれまでのエレクトロニクスでは実現できなかった機能や性能を持つデバイスが実現されている。代表的な例としては1988年に発見された巨大磁気抵抗効果があり、現在ハードディスクドライブのヘッドに使われている。

 今回の研究では、2次元と3次元のトポロジカル絶縁体が共存しているという新奇な状態を持つ物質が見つかった。これを利用して原子1、2層という究極に薄いナノデバイスや次世代の省エネ技術であるスピントロニクスデバイス、超高速処理を行う量子コンピューターの実現の可能性がさらに一歩進むと期待される。

参考HP 東京大学プレスリリース 新しい2次元トポロジカル絶縁体の発見!
理化学研究所
トポロジカル絶縁体・超伝導体と質量0の粒子

入門電子スピンサイエンス&スピンテクノロジー
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日経サイエンス 2006年 07月号 [雑誌]
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