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青色発光ダイオードとは?
2009年、液晶テレビのバックライトが白色LEDに変わった。この白色は青色LEDが開発されて可能になった。この青色LEDに黄色の蛍光体を組み合わせたり、あるいは赤と緑のRG蛍光体を組み合わせたりして白色をつくり出している。
また、ブルーレイディスクの仕組みはどうなっっているのだろう?2002年の2月、大容量光ディスクの新規格ブルーレイディスク(Blu-ray Disc)が発表された。DVDやCDと同じ直径ながら片面で最大27GBと、DVDの5倍近くの容量が可能だ。
CDやDVD、「Blu-ray Disc」も基本的なストレージ原理はたいして変わらない。大容量にするためには、ディスクにピット(小孔)を書きこんだり読んだりする光が小さいほどよいが、「Blu-ray Disc」でそれを可能にしているのが波長405nmの「青紫色レーザー」だ。
しかし、風変わりな研究スタイルや逸話、昔の勤め先である日亜化学との特許裁判など、サイドストーリーばかりが有名になってしまった一方で、その実現がどれだけ困難だったかを知る機会はあまりない。
そこでここでは、20世紀中には不可能だと言われていた半導体レーザー&LEDによる「青色」がどのようにして可能になっていったかにスポットを当て、具体的に見ていくことにする。
青色発光ダイオードの歴史
青色発光ダイオードは1993年に日亜化学と中村修二氏によって実用化され、いまでは交通信号や液晶テレビ、屋外大型スクリーンなどの表示装置や最新のDVDレコーダーなどになくてはならない半導体素子となっている。
発光ダイオードは低電力で駆動することができる光源なので、ディスプレイへの応用が期待されていた。しかし1980年代中頃までに、光の三原色、赤、緑、青に必要な純赤色は実用化されていたものの、青色は実用的な高い輝度を出す製品は無かったのである。また、黄緑色は早くから実用化されていたが、純緑色は青色と同じくGaN系半導体材料が用いられるため、純緑色LEDの実用化は青色LEDの登場以降である。
これらのことから、発光ダイオードによるRGBディスプレイの実現は難しかった。青色発光ダイオードの実現のため、セレン化亜鉛(ZnSe)系化合物や炭化珪素(SiC)を用いての研究が古くから行われていて、ZnSe系による青緑~緑色発光ダイオードの開発に至り、SiCの青色発光ダイオードは弱い発光強度ながら市販もされていた。
しかし、その後GaN系化合物による発光ダイオードが急速に普及したため、現在ではこれらの材料系の技術は白色発光素子や基板などの用途に転用されている。
窒化ガリウムを用いた高輝度の青色発光ダイオード開発に関しては日亜化学工業の中村修二氏が有名だが、基礎技術の大部分(単結晶窒化ガリウム(GaN)やp型結晶、n型結晶の作製技術やpn接合のGaN LED)は、赤崎勇(名古屋大学→現・名城大学教授)、天野浩(名城大学教授)等により実現された。
また、青色発光ダイオードの発光層に用いられているInGaNはNTTの松岡隆志(現・東北大学教授)などによって実現されており、それらの基礎技術を使って製品化したのが日亜化学工業である。
本命だった「セレン化亜鉛」
青色レーザーの実現の可能性が高いと考えられていたのは、Ⅱ-Ⅵ系のセレン化亜鉛だった。
科学者や技術者は、常に物理・化学法則の制約の元で思考錯誤するとは言うけれど、青色LED&レーザーの開発の歴史を考えるときほど、このことを思わずにはいられない。
半導体の種類と光の関係について考えるとき、目安となるものがある。それは半導体のバンドギャップエネルギーだ。実際はこれほど単純でないにしろ、伝導帯の電子が価電子帯に落ちたときに発せられる光のエネルギー(つまり光の色)は、そのときのバンドギャップの大きさと関係がある。
計算によれば、青色を得るために必要なバンドギャップエネルギーは3eV程度だとされている。ところが、90年代までに完成していたレーザーはGaAs系のもので、実現できた色は赤外から赤色可視までだった。そのバンドギャップは1.4eV程度だった。一般にバンドギャップというのは、半導体の種類に固有のものであるため、GaAs系のレーザーでは青色を得ることはできないことになる。
そこでまずはバンドギャップのことを頭にいれて、青色の候補となりそうな半導体を探さなくてはいけなかった。もちろん、バンドギャップが青色に一致するからといって、技術的にレーザーを実現できる保証はどこにもないが、まずはバンドギャップあっての青色LED&レーザーだった。
そこで浮上してきた候補は、II-VI半導体化合物である「ZnSe(セレン化亜鉛)」と、III-Vの「GaN(窒化ガリウム)」だった。
選択肢が二つできたわけだが、どちらを選ぶか?普通に考えるなら、自然の課す制約が緩やかに思われるものをえらぶものだろう。青色LED&レーザーの開発が始まったときには、すでに様々な理論予測によってZnSeのほうが有望だと考えられていた。
ZnSeを使って、1991年に米3M社が開発した青色レーザーは、77K(-196℃)という限られた条件下ながらも、半導体レーザーではじめて「青」(λ=450nm)を可能にした。さらに93年には、ソニーが室温でレーザー発振可能な青緑色レーザーの開発に成功している。ただし、その後改良が加えられたが、商品化できない理由があった。それは寿命の長さで、ZnSeを使ったレーザーでは、せいぜい数百時間しか光ることが出来なかった。
ZnSeレーザーの寿命が短い理由は、ひずみの蓄積に原因がある。ZnSeを使った半導体レーザーは、いくつもの層が積み重なった「多重量子井戸(MQW;Multiple Quantum Well)」とよばれる構造をとっているが、GaAs基板とn型ZnSe層との間で格子定数の違いから生じるひずみが層を重ねるごとに広がり、活性層(井戸層)の部分で致命的なひずみになってしまうためだとされている。
大穴狙い「窒化ガリウム」
ZnSeレーザーについての話はこの当たりまでにして、次は「大穴」と考えられていた窒化ガリウム(GaN)について見ることにしよう。
選択肢の残りの一つの窒化ガリウムのほうはどうなのだろう?実はこちらのほうは研究が行われる前からすでに見捨てられた状態にあったのだ。実際にGaNで青色LED&レーザーを開発した中村氏に言わせれば、ZnSeとGaNの研究の割合は「99対1以下」だったという。
これほどGaNが不評だった理由は、「格子定数」のミスマッチにあった。格子定数というのは単結晶を構成する原子どうしの距離について示したものである。
今まで前提のように話してきたが、半導体でよく登場するPN接合というのは原子レベルでピッタリと合っていないといけない。実は半導体産業というのは私たちが想像する以上に数字に神経質なところがある。
例えば、シリコンは半導体の主役で、ここから様々なデバイスが作られるが、はじめに用意されるシリコンの純度は通称「イレブンナイン」、つまり99.999999999%という超高純度なのだ。
もちろん格子定数の一致についてはそれほど厳しいものではないが、理論からは接合する面の格子定数の違いが0.01%以下(実際はもう少し大きくてもよいのだろう)だと理想的とされていた。格子定数が大きく異なる層のうえに別の層を成長させると、サイズの違う卵のケースを重ねたときのように、ひずみや断層が出来てしまう。こうなると電気抵抗が桁違いに大きくなり、ジュール発熱で燃えてしまうのだ。
上にGaNやその他の半導体の格子定数とバンドギャップの図が示してある。図から分かるようにGaNをレーザーチップとして使った場合、よい基板が見つからない。その一方でZnSeは、すでに半導体レーザーでスタンダードだったGaAsとほぼよい格子定数の一致を見ることができる。当初は、わざわざGaNを使ってレーザーをつくりたいとは思えない状況だった。
中村修二氏の挑戦
かつて蛍光灯の蛍光体などを専門としていた小企業、日亜化学に長い間勤めていた中村氏は、ネームブランドのある大手企業を相手に苦労してきた経緯があった。そのため、できる限り大手が着手しているZnSeレーザーの開発で競合したくないという考えがあったようだ。
中村氏は、ガリウム(Ga)化合物の専門家であり、多少の自信もあったのは確かだろう。しかし、GaNを選ぶのは無謀な賭けだと、世間では考えられていた。
GaNに最も近い格子定数をもつ半導体はサファイア(Al2O3)とシリコンカーバイド(SiC)であるが、GaNと比べてそれぞれ15%、5%程度の違いがある。0.01%が理想だとするとどっちもどっちだが、大量生産のことを考えると安価なサファイアの方をとるべきだろう。中村氏はこちらをとった。
さて、このままサファイアを基板としてGaNを成長させても、当然きれいな結晶薄膜はできるはずがない。半導体の結晶薄膜をつくるにはよく「CVD(Chemical Vapor Depotion)」と呼ばれる、真空に近い状態で基板にガスを吹き付けるという手法がとられるが、中村氏はこの装置を改造して、「ツーフローMOCVD(Metal Organic CVD)」という珍しい手法をとった。一つの吐き出し口からアンモニアと有機金属ガリウムのガスを吹きつけるという一般的なMOCVDに加え、さらに基板の上を別の吐き出し口からのガスで抑えつけてやるというものだった。結果的には、これが青色LED&レーザー実現の最大のブレイクスルーとなった。
1998年に日亜化学の技術を使ってソニーなどが開発した次世代メディア向けの青紫レーザー(390-410nm)。ちなみにかつてはZnSeレーザーを研究していたソニーだが、1993年以降のGaN側のブレイクスルーにより、1994年にGaNレーザーの開発に鞍替えしている。
現在では、中村氏の勤めていた日亜化学の他にも違ったアプローチで青色レーザー&LEDを完成させている企業もいくつかある。例えば松下の方法は、SHG(Second Harmonic Generation)青色レーザーと呼ばれ、例えば850nmと赤外光を半分の425nmの青色光にするといったことを可能にできる。半導体レーザーはこれまで赤から緑あたりまでの色が可能となっていた。そして20世紀末には青紫まで完成し、これによってLEDはすべての色を再現できるようになった。(サイエンス・グラフィック)
参考HP サイエンスグラフィック ナノエレクトロニクス・青紫色レーザー究極の「青」
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