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幻のチョウ、日本調査隊が確認
ヒマラヤ山脈にあるブータンの奥地で78年前に発見され、その後、一切の報告がなく「幻のチョウ」と呼ばれてきた大アゲハを、日本の研究者で作る調査隊が現地で確認した。調査にはNHKの取材班も同行し、世界で初めてテレビカメラでこのチョウが空を舞う姿を捉えることに成功した。
このチョウは「ブータンシボリアゲハ」で、大人の手のひらほどの大きさがあり、羽に鮮やかな深紅の模様と3つの尾を持つのが特徴。78年前の1933年にヒマラヤ山脈にあるブータン東部の谷で発見され、その年と翌年に採集された5匹の標本がイギリスの大英自然史博物館に保管されているだけで、その後、一切の報告がなく、世界の研究者の間で「幻のチョウ」と呼ばれてきた。
このチョウによく似た大アゲハを2年前、ブータン政府の森林保護官が見つけたという情報がごく限られた研究者に伝わり、日本蝶類学会が半年間の交渉の末、ブータン政府から特別許可を得て、ことし8月、初めて現地調査を行った。その結果、78年前に発見された場所とほぼ同じ標高2200メートルの山岳地帯の森の中で、ブータンシボリアゲハを確認した。
異例の特別許可
ブータンシボリアゲハ。それは世界中の蝶研究者、愛好家にとっては、その名前を聞いただけで興奮してしまうような幻の存在。78年前にイギリス人の探検家がブータン東部の深い谷で発見し、その年と翌年に採集された5匹の標本が大英自然史博物館に残るだけで、生態を含めてすべてが謎の蝶だ。蝶のようによく目立って人気の高い生き物で、これほどまで謎に包まれた種は世界でも他に類が無く、最後の大物と言われてきた。
その幻の蝶が目撃されたらしい。驚くような情報が日本の研究者に入ってきたのは、去年のことだった。目撃したのはブータン人の森林保護官、場所は発見された場所と同じ谷。断片的な情報ながら、その確度は高いものと研究者は判断した。
年が明けてから、日本蝶類学会はブータン当局と交渉に入った。目撃された場所はブータンの最東部。中国とインドが国境を巡って争っている地域に隣接し、軍事上の理由から外国人の立ち入りを厳しく禁じている。交渉は難航しましたが、ブータン側も調査の重要性を認め、異例の特別許可が下りたのだ。私たちNHK取材班も調査隊に同行を許された。この閉ざされた谷の奥にテレビカメラが入るのは世界初のことである。(NHKかぶんブログ)
日本人蝶研究家
ブータン政府が許可を出したその陰には、ある1人の偉大な日本人蝶研究家の業績があった。五十嵐邁(いがらし・すぐる)さん。大手建設会社の取締役までなった企業戦士の傍ら、趣味の蝶の研究では京都大学から理学博士号を授与されるほどの研究家でした。
五十嵐氏は特にアゲハチョウの仲間の専門で、卵から成虫までのライフサイクルを解明し、克明に記録した。中でも23年をかけて挑んだ、アゲハチョウの「皇帝」と称されるインドのテングアゲハの生態解明は世界を驚かせた。五十嵐氏をよく知る、大英自然史博物館の元昆虫研究部長ベン・ライト博士は、「五十嵐氏の業績は20世紀の蝶の研究の中でも最も優れたものだ」と賞賛する。
ブータン政府は豊かな生態系を代表する蝶を保護していくためには、基礎的な研究が不可欠と考えているものの、国内にそうした専門家が乏しいことから、五十嵐氏をはじめとする日本の研究者の功績を認め、共同調査をすることになったのである。今回の調査隊は大学や研究機関の研究者や、アマチュアの研究者、プロの昆虫カメラマンなど6人。その業績はそれぞれ一流のツワモノ揃い。(NHKかぶんブログ)
悪戦苦闘の旅
8月上旬。調査隊はブータンに入った。いよいよ東の国境地帯へ500キロの旅が始まった。まず、首都ティンプーからブータンを横断する幹線道路は1本だけ。それも道幅は狭く、場所によっては断崖絶壁が延々と続く。高所恐怖症の方はちょっと耐えられないかもしれない。折しも雨期の真っ只中。山々には深い霧が立ち込め、3000メートルの峠をいくつも越えて車は東を目指す。
道中は尾の長いサル、グレーラングールに歓迎されたり、道の真ん中を堂々と歩く巨大な牛に出くわした。首都を出てから一週間。目指す谷の入り口に着く。ここからは歩きだ。ポーターと馬に荷物を運んでもらうキャラバンが始まった。出発した時に良かった天気は途中で崩れ、雨の中をひたすら歩き続ける。足元はぬかるんでどろどろ。牛糞と馬糞と泥が混じって、もう訳の分からなくなった道を黙々と歩いていく。
川沿いを緩やかに登っていく道は、最後で一気に100メートル以上も標高差を稼ぐ急登になる。吸血ヒルがやたら多く、取材班の森山カメラマンは背中をやられてTシャツが真っ赤に染まった。調査隊の原田基弘隊長にいたっては、何と血を吸ってカブトムシくらいに巨大化したヒルが、ベースキャンプで着替えている時にコロンと腰から落ちる始末。
そんな悪戦苦闘の末、ようやく辿り着いた小さな集落の一軒家を借り、一週間の調査がいよいよ始まる。(NHKかぶんブログ)
NHKの番組を見ている私たちには、タシヤンツェ渓谷の美しい濃い緑の森を背景に、色とりどりの蝶の舞う姿が画面に広がり、まるで桃源郷にいるかのような錯覚に陥って、見ているだけで癒されてしまったが、実際の調査隊の苦労は大変なものであった。
生態解明への挑戦
8月12日。本格的な調査を開始する初日の朝は、一晩中降り続いた雨が上がり、青空が覗く。一気に気温が上昇し、森の緑が輝きを増しました。そんな素晴らしい朝のことでした。調査隊の一人が叫ぶ声が響き、一気に緊張が高まった。ベースキャンプのすぐ脇の森に、大きな黒いチョウが現われたのだ。調査隊はその日のうちに「ヒマラヤの貴婦人」ブータンシボリアゲハを確認することができた。
ブータンシボリアゲハの成虫を確認できた調査隊が目指したのがその生態の解明であった。しかし野外で卵や幼虫、蛹を探すのは簡単なことではなかった。すでに生態の解明されているアゲハチョウを、ミカンやカラタチの木から探すのにも多少の熟練は必要。まして今回のターゲットは80年間記録が途絶えた何一つ生態が分かっていない蝶なのだ。
調査2日目以降、ブータンシボリアゲハの姿はほとんど見られなくなっていた。個体数が少なければますます生態の解明は難しくなる。どこかに集まっているポイントがあるはず。隊員はベースキャンプからバラバラに散らばって、ブータンシボリアゲハの姿を追い求めた。そしてついに3日目の午後、調査隊の一人が、ブータンシボリアゲハが群れ飛ぶポイントを見つけたのだ。
4日目、調査隊はそのポイントに入った。確かにそこには多くのブータンシボリアゲハが優雅に舞っていたのだ。(NHKかぶんブログ)
蝶の産卵場所を発見
調査は過酷な環境の中で行われた。一日のうちに目まぐるしく変わる天気。木という木にはびっしりとコケが生え、この場所がいかに空中湿度の高い場所かを物語っていた。急斜面には岩がゴロゴロしていて、迂闊に浮き石に足を乗せると転倒してしまう。さらに足元の藪にも、頭上の枝にも、巨大な吸血ヒルが大量に待ち受けている。
調査隊はそうした中で果敢に生態の解明に挑んだ。隊長の原田さんはもう成虫を採集することはしない。ひたすら、成虫の行動を追いかける。69歳(調査当時、現在は70歳)とはとても思えないスピードで急斜面を登り、藪に飛び込み、木に登ってブータンシボリアゲハの行動を追う。その結果、原田さんは成虫が集まる場所の一角でいくつもの交尾個体を見つけた。
なぜこの場所にオスもメスも集まるのか。この場所で原田さんは「ウマノスズクサ」という重要な発見をする。多くのアゲハチョウの幼虫が好んで食べるつる草である。原田さんはこの草が高い密度で繁った場所を見つけ、ここがブータンシボリアゲハの発生場所に違いないと考えた。(NHKかぶんブログ 2011年10月30日)
調査の結果、ウマノスズクサという日本でもよく見られる、蔓性の植物の葉に卵を産むというのがわかった。ウマノスズクサは日本では、関東以南の日当たりのよいところに、程よく草刈がされた里山や河川敷に生えている。つまり、人の手の加わったところによく生育する。
タシヤンツェ渓谷にも人々は生活しており、冬場に暖をとる、薪づくりのために夏場に木を切る。しかし、切りすぎることはしない。切り開いて、日当たりの良い場所にウマノスズクサはよく繁殖する。幻の蝶、ブータンシボリアゲハは、何と人里の近くに生活する蝶であったのだ。
参考HP Wikipedia NHKスペシャル 秘境ブータン、幻の蝶を追う
NHKかぶんブログ ヒマラヤの貴婦人ブータンシボリアゲハ謁見記(2)
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