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エベレスト級経験で抗酸化酵素6倍
プロスキーヤー、三浦雄一郎さん(79)の次男で、元五輪モーグル選手の三浦豪太さん(42)ら順天堂大などのグループが、米医学誌に論文を発表した。テーマは「登山と抗酸化酵素の関係」
エベレスト級の山への登山経験がある人の血液には登ったことがない人に比べ、低酸素による体へのダメージを抑える酵素が約6倍も多い――そんな測定結果であった。抗酸化酵素は体にダメージを与える活性酸素を抑える大事なはたらきをする酵素。体内には、抗酸化酵素としてカタラーゼやスーパーオキシドディスムターゼ、ペルオキシダーゼなど、活性酸素を無害化する酵素がある。
酸素が薄い8千メートル級の山に登ると、老化につながると考えられる活性酸素が発生しやすくなり、体に負担がかかることがわかっている。活性酸素は癌や生活習慣病、老化等、さまざまな病気の原因であるといわれている。しかし、酸素が薄い状態が続くと「高地馴化(慣れ)」と呼ばれる現象が起きる。70歳を過ぎてエベレストに2回登頂した雄一郎さんも登頂時には高度をゆっくり上げて体を慣らしていく。
高山病の原因は?
高山病(altitude sickness)は、低酸素状態に置かれたときに発生する症候群。高山では空気が地上と比べて薄いため、概ね2400m以上の高山に登り酸欠状態に陥った場合に、さまざまな症状が現れる。 主な症状は、頭痛、吐気、眠気(めまい)である。低酸素状態において数時間で発症し、一般には1日後 - 数日後には自然消失する。しかし、重症の場合は高地脳浮腫や高地肺水腫を起こし、死に至ることもある。
高山病の原因は、吸入酸素分圧の低下による酸素欠乏症(低酸素血症)が原因。人体は酸素の濃度18%未満である環境におかれた場合に酸素欠乏症が生ずる。一般の空気中の酸素濃度は約21%であり、発症は個人差がある。
酸素の不足に対して、最も敏感に反応を示すのは、脳の大脳皮質であり、機能低下からはじまり、機能喪失、脳の細胞の破壊につながり、非常に危険である。ちなみに脳の酸素消費量は、全身の約25%に及ぶ。
人間は主に肺胞でガス交換をしている。肺胞毛細血管から肺胞腔に出てくるガスの酸素濃度は個人差もあるがおよそ16%であり、これが空気中の21%の酸素と濃度勾配に従って交換される。一回でも酸素16%以下の空気を吸うと肺胞毛細血管中の酸素が逆に肺胞腔へ濃度勾配に従って引っ張り出されてしまう(即ち、極論例として酸素10%の空気は、呼吸にとっては「10%酸素がある」のではなく「酸素を6%奪われる」空気ということ)。
更には血中酸素が低下すると延髄の呼吸中枢が呼吸反射を起こして反射的に呼吸が起こり、呼吸をするとさらに血中酸素が空気中に引っ張られると言う悪循環が起こる。従って酸素濃度の低い空気は一呼吸するだけでも死に至る事があり大変危険である。また死亡前に救出されても、脳に障害が残る危険性がある。(Wikipedia)
高地トレーニングの効果
高山では酸素濃度が低いために、高山病が起きる。そのため、少しずつ体を慣らしながら登山することが重要だ。高地で行うトレーニングでも、徐々に高地に慣れることで体に耐久力がつくことはよく知られている。
海抜0mの平地では気圧は1,013 hpaで、酸素濃度は20.92%、酸素の分圧は212 hpa。それに対し、2,200mの高地では、気圧は776 hpa、酸素濃度は16.0%、酸素の分圧は162 hpaと低酸素になる。
低酸素環境では、骨髄の増血作用を促すエリスロポイエチンの分泌が増加し、その結果として赤血球・ヘモグロビン・ヘマトクリット値の増加する。また、筋肉への酸素の供給が制限されるため、平地に比べて相対的に運動強度が高くなる。その結果、平地と同じトレーニングを行なっても、筋肉への酸素の運搬能力や、有酸素性エネルギーの産生能力がより高まる。また、乳酸系の代謝が抑制されるため、無酸素運動下での血中乳酸濃度を低く保つ能力が向上することも報告されている。多くのトップアスリートはこの適応現象を期待して、高地トレーニングを行っている。さらに、最大酸素摂取量が増え、酸素の運搬能力が高まることも知られている。
最もトレーニング効果の期待できる高度は、標高1,600〜1,800mといわれている。それ以上の標高では体調を崩しやすいとのことだが、現実にはこの高さを超えるレベルでもトレーニングが行われていて、パフォーマンス向上につながっている場合もある。
トレーニング場所の標高が上がれば、酸素運搬能力の向上は期待できるが、筋肉への負荷が十分にかけられない段階で、心肺機能が一杯となり、総合的にはトレーニングの効果が上がらない可能性もある。また低酸素環境では疲れが溜まりやすく、オーバーワークになることもしばしばあり、トレーニング負荷の加減が難しいとされる。
高地トレーニングの期間は、3〜6週間が一般的だが、3〜4日の短期間のトレーニングの繰り返しでも同等の効果があるともいわれる。
問題点としては、高地への適応能力は個人差が大きく、個々の選手に適したトレーニング内容(強度)の設定が必要となる。そのため、コーチ・選手ともに十分な経験が必要。低酸素環境はそれだけで心身へのストレスが大きく、よりきめ細かい体調の管理(医学的サポート)が必要で、特にオーバートレーニングには要注意。
ヘムオキシゲナーゼ(HO-1)とは何か?
高地で体を馴らすことで、体内では赤血球・ヘモグロビンなどが増えていることがわかった。赤血球が増えることで、酸素不足は解消されそうだが他にどんなことが起きているのだろう?
抗酸化酵素、ヘムオキシゲナーゼ(heme oxygenase:HO)は、ヘム(heme)を、ビリベルジン(biriverdin)と、一酸化炭素(CO)と、遊離鉄(Fe)に分解する酵素である。ヘモグロビンは、ヘムとグロビンから成る。ヘムの鉄原子が酸素分子と結合することで、ヘモグロビンは酸素を運搬している。
ヘム分解により産生れる、ビリベルジンとビリルビンには、強力な抗酸化作用があり、酸化ストレスなどによる細胞傷害を抑制する。また、一酸化炭素は、末梢循環の還流圧を調節する。 ビリルビン(黄色)は、ビリベルジン(緑色)に酸化されることで、多価不飽和脂肪酸の酸化(連鎖的脂質過酸化反応)を抑制する。
体内の鉄の約70%は、ヘモグロビンとして存在する。ヘム蛋白(hemin)は、強い細胞障害を引き起こし、血管内皮細胞を障害する活性酸素を発生する。そこで、ヘムオキシゲナーゼ(HO)は、ヘム蛋白を分解し、血管内皮細胞障害を防ぐ。
HOには、HO-1とHO-2の二つのアイソフォームが存在する。HO-1は、肝臓、脾臓、マクロファージに存在し、高熱、ヘム蛋白、酸化リポ蛋白、サイトカイン、エンドトキシン、などで誘導される。HO-1は、酸化ストレスから、生体を防御していると考えられる。HO-2は、肝臓、脳、睾丸に構成型として存在し、生体のCO産生に関与している。
COは、特に、肝臓のHO-1、HO-2によって産生され、毛細血管を拡張し、肝臓内の血管内皮細胞の恒常性維持と血流保持に関与している。妊娠中には、HO-1活性が亢進し、産生されるCOは、NO(一酸化窒素)と同様に、子宮収縮を抑制するという。
今回の論文で、高山では赤血球やヘモグロビンの増加が見られるが、これを分解するヘムオキシゲナーゼ(HO-1)の量も増えるということがわかった。
参考HP 脂質と血栓の医学 ヘムオキシゲナーゼ(HO-1) ボウルダーマラソンツアー2009 高地トレーニングとは
高地トレーニングと競技パフォーマンス (KSスポーツ医科学書) | |
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