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 計画的避難区域の再編
 東日本大震災から11か月が経とうとしている。現在、12月16日の東京電力福島第一原発の「事故収束」宣言を受け、原発から半径20キロで線引きした避難区域が見直されている。野田政権は12月18日、2012年4月1日をメドに現在の警戒区域を解除し、年間放射線量に応じて三つの区域に再編する方針を関係自治体に伝えた。放射線量が低い区域は、生活インフラなどが整えば来春にも、住民が戻ることができる。

 現在は原発から半径20キロ圏内を警戒区域とし、20キロ圏外で計画的避難区域を設定。この線引きを今年度中に見直し、地上から高さ1メートルの放射線量を年間で換算して20ミリシーベルト(Sv)未満を「避難指示解除準備区域」、20~50ミリシーベルト未満を「居住制限区域」、50ミリシーベルト以上を「帰還困難区域」に再編する。

 この根拠は、生涯100ミリシーベルトの被曝でがんの死亡率が0.5%増える...という調査結果だ。この0.5という数字は、個人の死亡率が0.5%増えるということではない。がん死亡率が30%の日本では、1000人が100ミリシーベルト被曝した時に、がんで死亡する人が300人から305人に増えることを意味する。

 被曝量が100ミリシーベルト以上であれば、それに比例して死亡率も増えていくが、100ミリシーベルト以下では、相関関係がはっきりしなくなってくる。この基準は国際放射線防護委員会(ICRP)も認めている。政府は、この基準をもとに新しい避難区域が決めようとしているのだ。


 除染はローテク

 避難区域は除染を進めているが、放射性物質はなかなか減らない。放射性物質にはセシウム、ヨウ素、プルトニウム、ストロンチウム、キセノンなどがあるが、土壌に残りやすいのはこのうちセシウムだ。セシウムは土と結びつきやすく、生物の栄養素になるカリウムに似た性質があるため森の生態系にとどまりやすい。これを取り除くのは至難の業だ。

 福島市と川俣町、JA新ふくしまなどでつくる「福島市・川俣町地域農地等除染協議会」は、来年3月までに、市内と町内の全ての田畑を除染する方針を決めた。コメの作付け時期を控え、安全性の確保に努めるのがねらいだ。国に対し、2011年産米の放射性物質検査の結果にかかわらず、全ての水田で作付けを認めるよう求めていく方針も確認した。
 福島市農政部によると、除染の対象となるのは水田2397ヘクタール、畑地1184ヘクタールで、計画的避難区域に指定された川俣町山木屋地区の田畑は除き、市と町の全域となる。作業は今月中に開始し、2011年産米の検査で高い値が検出された地区を優先する。
 具体的には、放射性セシウムの吸着に効果があるとされる「ゼオライト」と呼ばれる薬剤を散布したり、表層土と下層土を入れ替える「反転耕」をしたりする。ローテクで時間がかかるが仕方がない。
 同協議会は昨年12月、農作物の安全確保や、農家の外部被曝防止を目的に設立された。現在は、主に地元特産の果樹の除染に取り組んでいる。全域除染の方針は、今月1日に福島市で開かれた会合で決定した。会合では、JA新ふくしまも、営農意欲の減退や耕作放棄地の拡大を避けるため、市、町と連携して全ての水田で作付けを求めていく考えを強調した。(2012年2月5日 読売新聞)


 都市濃縮の問題

 この土と結びつきやすいセシウムの性質は、思わぬところで放射性物質の「ホットスポット」をつくりだした。福島原発から遠く離れた首都圏各地で、高い放射線量が計測される新たな「ホットスポット」が次々に見つかっている。

 茨城県では、避難の目安、毎時3.8マイクロシーベルトに匹敵する場所が見つかり、住民の間に不安が広がっている。原因は都市そのものにあった。道をアスファルトで覆い、人工河川で排水性を高めたことで、都市特有の、放射性物質の「濃縮」が起きたと考えられている。

 首都圏の家庭から毎日出されるゴミに含まれる放射性物質も「都市濃縮」されている。千葉県柏市では、ごみを100分の1に減らせる最新の焼却施設で、焼却灰から高濃度の放射性物質が検出された。こうした焼却灰の一部は、すでに全国各地の埋め立て処分場に運ばれていた。

 事態の深刻さに気付いた秋田県の自治体では、これまで運ばれてきた200トンを超える焼却灰の返却を指示した。国は、焼却灰をコンクリートで固めて埋め立てるよう方針を示したが、首都圏でこうした施設や技術を持つ自治体はない。行き場のない焼却灰がたまり続けると、ゴミ処理そのものが止まる恐れも出ている。効率を追い求めてきた都市。その結果、新たな放射能の脅威と向き合うことになっている。


 除染をハイテクで

 一方、放射性物質を除去しながら、バイオ燃料をつくる技術が開発され、注目されている。

東京電力福島第1原発事故で放出された放射性物質に汚染された木材などから、放射性物質を除去しつつバイオエタノールを高効率で作る技術を東京農業大の市川勝客員教授らが開発した。福島県では除染作業で生じた廃材や下水汚泥が処理されずたまり続けている。市川さんは「負の遺産をプラスにする一石二鳥の技術。活用してもらうことで復興の一助になれば」と話している。

 市川さんは2009年、木材や稲わらを従来よりも効率良くバイオエタノールに加工する技術「直接合成法」を他大学と共同開発した。乾燥させた原料を粉砕し、800~1000度の高温水蒸気で一酸化炭素と水素にガス化。金属触媒を使って反応させると濃度97%のエタノールになる。

この方法で、原料1トン当たり約500キロのバイオエタノールが生成でき、一般的な製造法の4倍にのぼることから、低コスト化につながると期待されている。

 市川さんは、原発事故由来の放射性セシウムが約800度で揮発する特性に着目。原料をガス化させる過程でセシウムをフィルターに吸着させることで、汚染木材でも加工できるよう改良、実験で99%除去できることを確かめた。今後は福島県南相馬市で実際に汚染された木材を使い、実証実験を予定している。

試算では、約10万トンの木材からバイオエタノール約5万キロリットルを生産でき、すべて汚染木材を使っても、10キロ分のフィルターで放射性セシウムを吸着できるという。

 この方法は木材だけでなく下水汚泥や落ち葉なども原料に活用できる。福島県ではいずれも処理が進まず、一方で広大な森林の樹木も汚染されたまま放置されている状態だ。市川さんは「放射性物質を取り巻く問題を、この技術で解決できる可能性がある」と話している。(毎日新聞 2012年2月1日)


参考 読売新聞 2012年1月29日低線量被曝、生活への影響は?・NHKクローズアップ現代 知られざる“都市濃縮”

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45分でわかる! 放射能汚染の基礎知識。 (MAGAZINE HOUSE45MINUTES SERIES # 12)
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