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X線レーザーで200万度
X線レーザーは、X線のレーザーである。X線は波長が短く、1pm - 10nm程度しかない電磁波である。波長がおよそ10pmよりも短い電磁波であるγ線(ガンマ線)はX線の一部である。
レーザーというと、DVDなどで使われるレーザーが身近にあるが、これらは、可視光や紫外光の波長領域、つまり波長が数100ナノメートルの光を出すレーザーである。これに対し、X線レーザーの波長は、0.1ナノメートル以下である。この波長は原子の大きさ程度に相当するため、原子や電子の分布といった、今まで見ることができなかった非常に小さな世界を映し出すことができる。
今回、史上最強のX線レーザーによって、アルミ片を摂氏200万℃まで加熱する実験が成功した。地球上で最も高温度に達した物質が生まれたという。これ以上の高温は、太陽や核爆発の中心部などにしか存在しない。しかし、宇宙レベルの超高温は研究チームにとって副産物にすぎなかった。
本来の目的は、広大な宇宙空間に広がるプラズマを研究する手法を完成させることである。プラズマは電離した陽イオンとそれとほぼ同数の電子から成る気体。他の気体とは異なり、電気を通し、磁場に応答する。
「真空中に拡散する希薄プラズマは検出が難しいが、古くから研究されてきた」とアメリカ、カリフォルニア州サンマテオにあるSLAC国立加速器研究所での実験に参加した物理学者リチャード・リー氏は言う。
「そこで、今回の実験では“高温・高密度物質(Hot Dense Matter)”など高密度のプラズマを対象にした」と同氏は説明する。「実験で得られたデータを基に、コンピューターモデルを改善する。希薄プラズマと高密度プラズマの中間スペクトルにおける振る舞いの解明につながるだろう」。
X線照射により物質が火山のように噴出
高温・高密度物質を生成するために、チームはSLACの自由電子レーザー装置「LCLS(線型加速器コヒーレント光源)」を使用した。
LCLSは、世界で最も強力なX線パルスを高速で発振できる。血液細胞の直径の3分の1ほどの小さな点にレーザーパルスを照射することが可能だ。
パルスを照射すると、試料の上部は加熱されず、内部から外に向かって均一に気化する。「ターゲットは火山のように一気に噴き上がる」とリー氏は話す。
この非常に強力なレーザーパルスを切手サイズのアルミ箔に高速かつ均一に照射して、プラズマ状態に変換。この実験を何度も繰り返し、まだ十分に解明されていないプラズマの振る舞いに関するデータを大量に収集した。
チームは現在、これらのデータを基に高密度プラズマと希薄プラズマの中間に存在する種類について予測を立てている。おそらく“温かい高密度の物質”だという。研究が進めば、太陽内部や木星のような巨大ガス惑星の核内で起きているプロセスの解明に役立つとされる。
また、核融合発電にも役立つ可能性がある。核融合発電は、2個の軽い原子核の融合によって放出されるエネルギーを取り出す技術で、クリーンなエネルギー源として実現が待ち望まれている。
例えば、カリフォルニア州リバモアにある国立点火施設(NIF)では、レーザーを使用してターゲットをプラズマ化し、核融合を引き起こそうとしている。
しかし、核融合の点火には、レーザーの調整方法をまず編み出す必要がある。核融合反応を実際に行った場合、“温かい高密度の物質”が出現する可能性があり、それを制御しなければならないからだ。
今回のSLACの実験によって、NIFの装置改善に必要なデータが得られるかもしれない。
また、強すぎるX線レーザーは物体を破壊してしまうが、エネルギー上限を設定できるようになる可能性もある。貴重な人工遺物などを破壊することなく、奥深くまで詳しく調査できると期待されている。
「今回の実験ではX線レーザーでターゲットを破壊した。しかし、非破壊で透視する用途の方が要望が多いだろう。つまり、X線を使用して物体を燃やさずに透視できるスーパーマンのような能力だ」。(Dave Mosher for National Geographic News January 30, 2012)
レーザーとは何か?
ふつうの光は、例えば太陽だと7色の虹の光以外に紫外線、赤外線などさまざまな電磁波の集まりでできている。これに対してレーザーは単色で、強力で、まっすぐ進む光である。
レーザーには4つの特徴がある。1つはただ1つの波長の色でできていること。つまり単色である。2番目の特徴は指向性が高いこと。まっすぐ進むことである。ふつうの光は広がるのに対し、レーザーはまっすぐ進む。3番目の特徴はその色の位相が一致することだ。光の波の高いところが干渉しあい、一致すれば強くなる。反対に位相がずれると弱くなる。
レーザーのもうひとつ重要な特徴は、ナノ秒~フェムト秒程度の、時間幅の短いパルス光を得ることが可能な点である。光の位相を変える装置を使って、光を特定の周期で点滅するパルス光に変えることができる。特殊な装置ではアト秒の時間幅も実現されている。
1895年にレントゲンによって発見されたX線は、病院での診断でおなじみだが、可視光に比べとても波長が短い光で、原子や分子のレベルで物質の微細構造を観察するのに利用されてきた。 SPring-8(Super Photon Ring - 8 GeV)は世界で最も強いX線光源ですが、それでも原子や分子の瞬間的な動きを観察するためには強度が足りない。
非常に強い光を出す光源としてレーザーがある。X線レーザーができれば、原子や分子の瞬間的な動きを観察することができる。レーザーは位相の揃ったコヒーレントな光(光波の山と山、谷と谷が揃うこと)を発生し、様々な光技術に応用されているが、従来のレーザー技術の延長で波長の短いX線レーザーを作ることは不可能だった。
X線自由電子レーザー(XFEL)の誕生
放射光やレーザーの発明は、新たな科学技術を切り拓き、産業の発展に寄与してきた。X線はオングストロームレベルの短い波長を持つため、原子を見分ける高い空間分解能を有するという特性がある。一方、1960年代に可視光領域で実用化されたレーザーは、位相のそろったコヒーレントな光であり、きれいで(高干渉性)、指向性に優れ、輝度が高く、発光時間が短い(短パルス)などの特性がある。これら2つの特性を併せ持つX線レーザーは、その実現が長らく待望されていた。
1980年代、「X線自由電子レーザー(XFEL)」という、高度な加速器技術に基づく方式を用いることで、コヒーレントな光の波長をX線領域まで到達できる可能性があるということが理論的に提唱された。1990年代から本格的な技術的検討と要素技術開発が行われ、2000年代にはアメリカ・欧州・日本の3カ所で施設の建設が進められた。
欧米の施設LCLSが全長約3km~4kmであるのに対して、日本のXFEL装置は全長約700mと半分以下というコンパクトな設計が特徴だ。 これを実現するために、 電子銃、線型電子加速器、アンジュレータという主要3要素に日本独自の技術を採用している。2005年にはコンセプト検証のためのプロトタイプ機SCSS試験加速器を建設し、真空紫外光(波長600Å、最大出力30μJ/pls)のレーザー発振に成功した。
2006年度には、「国家基幹技術」としてXFEL施設の建設プロジェクトを開始し、2011年3月に施設を完成、愛称を「SACLA」と名付けた。
SACLAは、第3期科学技術基本計画において国家基幹技術の1つとして選定され、日本の最先端テクノロジーを結集して2006年度より5年間にわたって整備が行われてきた。2011年2月末からビーム運転を開始し、調整を進めた結果、運転開始からわずか3カ月という短期間で波長1.2ÅのX線レーザーの発振に成功した。
この波長は、2009年4月に世界で最初にX線レーザーを発生させた米国のXFEL施設Linac Coherent Light Source (LCLS) の1.5Åという記録を抜いて、世界最短波長となった。
参考HP National Geographic X線照射でアルミを200万度に加熱 理化学研究所X線自由電子レーザー SACLA
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