自動車排ガスの三元触媒
ガソリンを燃料とする自動車の排ガス中に含まれる有害物質は、主に炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)、窒素酸化物(NOx)であるが、それを貴金属(ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、プラチナ(Pt)等)を使用した触媒装置により同時に除去する。これを三元触媒という。
三元触媒では、炭化水素は水と二酸化炭素に、一酸化炭素は二酸化炭素に、窒素酸化物は窒素に、それぞれ酸化もしくは還元される。しかし、これらの貴金属は高価で、これまで中国などからの輸入に依存するレアメタルを使っていたが、中国の輸出制限問題があり、代替技術が研究されていた。
今回、自動車の排ガスを浄化する触媒を、安価な銅の酸化物を使って作り、一定の窒素酸化物(NOx)を浄化できることを、大阪大工学研究科や日本原子力研究開発機構、ダイハツ工業などが発見し、2月7日発表した。
自動車では排ガスのNOxを99%浄化する必要があるが、酸化銅を使った実験では6~7割を浄化できたという。銅の単価はロジウムの1万分の1程度。笠井教授は「レアメタルの消費量削減につなげたい」と話している。(2012年2月10日 読売新聞)
ロジウム(Rh)に替わる金属触媒
自動車排出ガスに含まれる一酸化窒素(NO)の浄化に関して、貴金属の中でも特に高い活性を示すことが知られているRhとNOとの相互作用を評価し、他の貴金属との違いを明確にし、NOの還元反応を促進する要因を調査した結果、Rhは他の貴金属に比べてNOの解離吸着構造が安定で、かつ解離吸着プロセスの活性化障壁が小さくNOが解離しやすいことが分かり、これらの特性が、NOの還元反応を促進する要因の一つであることを見出した。
そこで大阪大学では理論解析を行い、様々な遷移金属表面(ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、鉄(Fe)、銅(Cu)等)及びその酸化物表面を対象として、NOの解離吸着に関する研究を行った。その結果、Ni、Co、Feは酸素が存在する環境下では金属表面が容易に酸化され、表面に吸着した酸素原子がNOの解離吸着を阻害することが分かった。
一方、Cuは他の遷移金属に比べ金属表面が露出しやすいこと、また露出したCuの金属表面はNOの還元反応が進むものの、Rhと比較すると活性が劣ることが分かった。さらにNOの解離吸着が進みにくい原因が、Cuの金属表面の電子状態にあることを見出した。
そこで、我々はCuの金属表面の電子状態をRhに近づけることを狙い、Cuの酸化物である銅酸化物(Cu2O)の電子状態と触媒活性を検討した。その結果、あえてCuを酸化させ、さらに表面の酸素原子を取り除いた構造をデザインしたところ、NOの解離吸着を促進できることを見出した。
以上の理論的知見をもとに、NOXの浄化に関する、Cu2Oを使った、新規触媒設計の指針を見出したことは、貴金属使用量の低減につながると期待される。また、これらの知見に基づき、実用化に向けての大きな進展が図れるものと考えている。今回の研究成果は、 最先端の基盤技術 「ナノテクノロジー」に関する世界最大の展示会「 nano tech 2012 第11回 国際ナノテクノロジー総合展・技術会議」(2月15日)での発表を予定している。(関連特許:国内22件,国外1件出願中)(Spring8 2012年02月01日)
そもそも触媒とは?
触媒(catalyser)とは、特定の化学反応の反応速度を速める物質で、自身は反応の前後で変化しないものをいう。また、反応によって消費されても、反応の完了と同時に再生し、変化していないように見えるものも触媒とされる。
今日では反応の種類に応じてたくさんの種類の触媒が開発されている。特に化学工業や有機化学では欠くことができない。また、生物にとっては酵素が重要な触媒としてはたらいている。
固体触媒には大きく分けると金属触媒と金属化合物触媒がある。しかし、一つの触媒が単独で使われることはほとんどない。たとえば、金属触媒は通常、触媒活性、耐久性、触媒の効率的利用などのため、触媒活性のないアルミナ(Al2O3)やシリカ(SiO2)などの上に分散して用いる。土台となるアルミナなどのことを担体(support)といい、担体上に触媒をつけることを「担持する」という。
触媒は単に活性が高いだけではなく、特定の反応だけを触媒する機能(選択性という)が高いことが求められる。その他いろいろな触媒機能を向上させるために、様々な物質が添加される。これらの添加物を助触媒という。
多くの場合、反応は不均一系触媒の表面で進行する。したがって、触媒の効率を良くするためには、表面積を大きくすることが重要となる。このため、高価な金属(白金、パラジウムなど)を触媒として用いる場合は、1–100 nm 程度の微粒子にして活性炭やシリカゲルなど(担体という)の表面に分散させ(担持し)て使用する。
金属錯体触媒を表面に固定化する場合には、担体の表面官能基をアンカーにして化学結合させる場合が多い。担体は単に活性成分を微粒子化(高表面積化)するだけでなく、触媒活性にも多大な影響を与える場合がある。そのため、適切な担体との組み合わせが必要である。
具体例として、自動車には排気ガスに含まれる HC(炭化水素)、CO、NOxを分解・浄化するために白金、パラジウム、ロジウムもしくはイリジウムを主成分とする三元触媒が不均一系触媒として使用されている。
有名な触媒反応
新しい触媒が開発されると、社会的にも非常に大きな影響を与えることがある。
ハーバー・ボッシュ法: 史上初めて人工的に窒素をアンモニアへと変換した反応。二重促進鉄触媒を用いる。1918年ノーベル化学賞。
チーグラー・ナッタ触媒: ポリエチレンなど、優れた特性を持つ高分子の生産を可能とした。チタン錯体を触媒とする。1963年ノーベル化学賞。
メタセシス反応: 有機合成で極めて多用される、2つのオレフィンの結合を組み替える反応。ルテニウムを中心とするグラブス触媒が用いられる。2005年ノーベル化学賞。
クロスカップリング反応: 炭素-炭素結合を作るうえで欠かせない反応。辻二郎によるパラジウムを用いた炭素-炭素結合形成反応の発見を契機に、多くの日本人化学者が関与した。鈴木・宮浦カップリング、右田・小杉・スティルカップリング、根岸カップリングなど、パラジウム錯体の用例が多い。2010年ノーベル化学賞。
不斉反応: 対掌体の一方のみを選択的に得る。金属錯体を中心に、数々の触媒が開発されている。2001年ノーベル化学賞。
燃料電池 : 水素やメタノールを燃料として発電する装置。固体高分子型燃料電池 (PEFC) は室温付近の温和な条件で機能するが、2006年現在では、電極触媒として高価かつ資源量の少ない白金やCO耐性のある白金ルテニウム合金を使用しないと高い電力を取り出すことができず、普及には貴金属使用量の劇的な削減が必要である。
参考HP Wikipedia 触媒 Spring8 酸化銅を用いた自動車廃棄ガス触媒
トコトンやさしい触媒の本 (B&Tブックス―今日からモノ知りシリーズ) | |
クリエーター情報なし | |
日刊工業新聞社 |
有機金属と触媒―工業プロセスへの展開 | |
クリエーター情報なし | |
化学同人 |
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