厚さ1千分の2ミリ!最軽量の太陽電池開発
 世界で最も薄く軽い太陽電池の開発に東京大やオーストリア・ヨハネスケプラー大のチームが成功した。シールのように貼って携帯するなどの応用が期待できるという。英科学誌ネイチャー・コミュニケーションズに4月4日に発表した。

 同チームは、厚さ1.4マイクロ・メートル(1マイクロ・メートルは1000分の1ミリ)のプラスチックフィルムに、発電や電極の役割を果たす半導体と金属の薄膜を載せ、従来の12分の1程度の厚さしかない約2マイクロ・メートル(毛髪の太さの数十分の1)の太陽電池を作製した。発電量1ワットあたりの重さも0.1グラムで最軽量だ。

 新太陽電池は柔らかく、しわしわにしたり、巻き付けたりして、その後平らに戻しても性能は落ちない。太陽光を電気に変換する効率は4.2%で、関谷毅東大准教授は「今後、実用化の目安となる10%まで上げたい」としている。(2012年4月5日 読売新聞)

Solar cell

 有機半導体を用いた太陽電池は、印刷手法など液体プロセスによって高分子フィルムの上に容易に製造できるため、大面積・低コスト・軽量性を同時に実現できると期待されている。しかし、ガラス基板上と同程度の高エネルギー変換効率を有する有機太陽電池を柔軟性に富む薄膜の高分子フィルム上に液体プロセスを用いて作製することは困難であり、その解決策が求められていた。

 どうやって究極の薄さを、達成できたか?
 研究グループは、世界で最薄かつ最軽量な柔らかい有機太陽電池の実現に成功した。この超薄型の有機太陽電池は、高分子フィルム上に作製されている。曲げ半径35 ミクロンに折り曲げても、エネルギー変換効率4.2%を維持しつつ機械的にも壊れない。実際に人間の髪の毛(半径は100ミクロン程度)に巻きつけることもできる。

 有機太陽電池1g あたりの発電量は10W に相当し、この値はあらゆる太陽電池と比較しても最軽量、最薄、最柔軟な太陽電池。さらに、この薄型有機太陽電池を応用して、300%伸縮させても電気的・機械的な特性が劣化しない伸縮自在な太陽電池を実現した。

 この有機太陽電池を実現するための決め手は、有機溶剤にp 型半導体とn型半導体をブレンドして溶解したインクを用いて、厚さ1.4 マイクロメートルという極薄の高分子フィルムに、有機半導体薄膜を均一に形成するプロセス技術。さらに、あらかじめ伸ばしておいたゴム基板上にこの薄膜太陽電池を張り付けてから、もとの大きさまでゴム基材を緩和させるという手法で、300%引っ張っても壊れない伸縮自在な太陽電池に応用した。

 太陽電池の超軽量化・超薄型化に達成されたことにより、今後、太陽電池の携帯用情報通信機器への応用が促進されると期待される。また、このような軽量・薄型の有機太陽電池をコンパクトに詰め込み、宇宙に打ち上げてから大きく広げて使う電力供給源、身に着けても重さを感じさせないヘルスケアや医療用デバイス用の電力供給源など新たな用途が拡大するものと期待される。

 本研究は、独立行政法人科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業(ERATO)の研究領域「染谷生体調和エレクトロニクス」(研究総括:染谷隆夫 東京大学 教授、バイオ印刷グループリーダー関谷毅 東京大学 准教授)、ヨハネスケプラー大学リンツ校(Martin Kaltenbrunner 博士、SiegfriedBauer 教授、Niyazi Serdar Sariciftci 教授)との共同研究として行われた。(東京大プレス)

 太陽電池はどうして光を電流に変えることができるのだろう?
 太陽電池(Solar cell)は、光起電力効果を利用し、光エネルギーを直接電力に変換する電力機器である。一般的な電池のように電力を蓄える化学電池ではなく、光を即時に電力に変換して出力する発電機である。タイプとしては、シリコン太陽電池の他、様々な化合物半導体などを素材にしたものが実用化されている。

 光起電力効果は光で電気を起こす仕組みであり、半導体のpn接合など、整流作用を持つ半導体の界面で発生するものがよく利用される。 1954年、ベル研究所のダリル・シャピン(Daryl Chapin)、カルビン・フラー(Calvin Fuller)、ゲラルド・ピアーソン(Gerald Pearson)によって世界で初めて、pn接合を用いた太陽電池が発表された。変換効率は6%であった。これが現在の太陽電池の原型となった。

 pn接合(pn junction)とは、半導体中でp型の領域とn型の領域が接している部分を言う。整流性、エレクトロルミネセンス、光起電力効果などの現象を示すほか、接合部には電子や正孔の不足する空乏層が発生する。これらの性質がダイオードやトランジスタを始めとする各種の半導体素子で様々な形で応用されている。またショットキー接合の示す整流性も、pn接合と原理的に良く似る。

 太陽電池の重要な性能の一つに、光のエネルギーを電気エネルギーに変換する「変換効率」がある。現在、導入されている太陽電池の約86%を占めるシリコン結晶の太陽電池では、最高25%程度の変換効率を有している。

 世界最高の変換効率36.9%達成
 2011年11月、シャープ株式会社と新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が、36.9%という世界最高の変換効率を持つ太陽電池を開発した。

 この太陽電池は、光を吸収する層を3層積み重ねることで高いエネルギー変換効率を可能にするタイプ。「化合物3接合型太陽電池」と呼ばれ、シャープが2000年から開発を進めている。

 シリコンの支持基板上にインジウム・ガリウム・ヒ素層、ガリウム・ヒ素層、インジウム・ガリウム・リン層を重ねた構造をしており、2009年に35.8%という変換効率を実現している。今回、各太陽電池層を直列につなぐ接合部の抵抗を低減させることで、さらに効率を向上させることに成功した。

 この成果は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のプロジェクト「革新的太陽光発電技術研究開発」の一環として得られた。このプロジェクトは、変換効率40%以上で、発電コストが1キロワット時当たり7円という汎用電力料金並みの太陽電池を、2050年までに実用化することを目指している。

 プロジェクト目標である40%超の変換効率達成のため、今後、更なる効率向上を進めるとともに、実用化へ向けたコスト低減などの技術開発を進めていく。集光型太陽電池を始め、狭い面積でも十分な発電量が得られる太陽電池としての実用化へ向け開発を進めていく予定だ。(サイエンスポータル 2011年11月7日)

 有機薄膜太陽電池の変換効率
 太陽電池には大きく分けて3つのタイプがある。シリコン系と化合物系そして有機系である。シリコン系はシリコン半導体を使ったもの、化合物系は化合物半導体を使ったもの、有機系は色素を使って太陽光を電気エネルギーに変換する。エネルギー効率はシリコン系で最大40%、化合物系で25.1%、有機系で10.4%と小さくなる。

 製造が簡単で材料も安価なものは有機系である。有機系のうち色素増感型は色はカラフルで、エネルギー効率も高いが、電解液を使うため、液の蒸発や操作性に問題がある。有機被膜型は薄く柔らかいため、柔軟性や寿命の上で有利であるが、エネルギー効率が低いなどの問題がある。

 2011年6月、分子科学研究所と米ロチェスター大学の研究グループが、これまで、厚くすると発電効率の悪くなった有機薄膜太陽電池の膜を、逆に厚くしても発電効率がよくなる作製法を開発した。

 分子科学研究所の嘉治寿彦・助教らと米ロチェスター大学のタン教授らは、2種類の有機材料に加え、透明電極基板に付着しないような液体分子を蒸発させる新しい方法で、4倍厚い薄膜を作ることに成功した。この手法でさまざまな組み合わせの有機薄膜を作り、電流を計測したところ、これまでより3倍から40倍、ものによっては3,000倍以上という劇的な向上が見られた。

 この開発した手法は、従来の真空蒸着法よりも結晶性の良い混合膜を簡単に作製することができるため、より変換効率のよい低分子型有機薄膜太陽電池を実現することができる、と研究グループは言っている。(サイエンスポータル 2011年6月16日)

参考HP 東京大学工学部 世界最薄かつ最軽量の有機太陽電池の実現に成功!

知っておきたい太陽電池の基礎知識 シリコンの次にくるのは化合物太陽電池?有機太陽電池でみんなが買える価格に? (サイエンス・アイ新書)
クリエーター情報なし
ソフトバンククリエイティブ
色素増感太陽電池 (CMCテクニカルライブラリー)
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シーエムシー

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