新材料:液体→固体→液体→固体…光で自在
 産業技術総合研究所は4月6日、室温で紫外線を当てると液化し、可視光を当てると固まる新材料を開発したと発表した。この過程を何度でも繰り返すことができる。加熱せずに光だけで液体、固体に変わる材料は世界初という。独科学誌「アドバンスト・マテリアルズ」電子版に掲載された。

 新材料は粉末状で、有機質の糖アルコールと石油化合物の黄色の色素を組み合わせた液晶性物質。実験では、長さ3センチ、幅1.2センチの石英ガラス板2枚を使い、一部を重ねて接着面に新材料を挟んだ。緑色の可視光を当てると固化して接着し、1平方センチの接着面で約5キロの引っぱり力に耐えた。

 強い紫外線を当てると液化して簡単にはがれ、再び可視光を当てて接着させると最初と同じ強度になった。セ氏0度から60度までの環境で利用でき、何度でも使える「光制御接着剤」が開発できるという。(毎日新聞 2012年04月06日)

Photochromic

 このように、光によって物質が可逆的に変わる現象をフォトクロミズム (photochromism)という。多くの場合、光によって分子が異性化することによって生じる。 また、フォトクロミズムを起こす物質をフォトクロミック物質という。フォトクロミック物質は、DVD、ブルーレイなどの光ディスク記憶材料として研究・使用されている。アゾベンゼン・スピロピラン・ジアリールエテンが有名である。

 研究したのは、独立行政法人、産業技術総合研究所(以下「産総研」)ナノシステム研究部門、スマートマテリアルグループ、吉田 勝研究グループ長と秋山 陽久主任研究員。

 温度一定の室温状態で、光を照射するだけで液化と固化を繰り返し起こす材料を開発した。この材料は、糖アルコール骨格と複数のアゾベンゼン基を組み合わせた液晶性物質を用いたもので、加熱や冷却をしなくても、波長制御した光を照射するだけで液化と固化を繰り返す新しい光反応性材料である。

 一般的な室温環境では、光の作用だけで選択的かつ可逆的に単一物質の固体-液体転移が起こる初めての例である。この材料を利用することで、再利用・再作業ができる光制御接着剤など、従来はなかった高機能材料の実現が期待される。(産総研プレス)

 室温で光による「液化-固化」を繰り返す材料
 情報機器や家電、輸送機器などには、多種多様な有機系材料が広く使われており、高機能化・軽量化など一層の性能向上が期待されている。これらの有機系材料は、その成型時に液体状態から固体へと加工するのが一般的である。通常、このような操作では、原料を加熱して融かす方法が用いられるが、溶剤に溶かした後の乾燥による固化や、液体の原料を化学結合させて固化する方法も利用されている。

 一方で、持続発展可能な社会を構築する上で重要な「省資源・省エネルギー化」のためには、液体-固体や固体-液体の相転移のような基本的な物性変化を、可逆的かつ精密に制御する技術が強く望まれている。しかし、これまで加熱や冷却を行わずに、室温で光照射だけで液化-固化の変化を繰り返すことができる単一物質の例はなかった。

 産総研では光反応性の有機系材料の研究を活発に行ってきた。これまで、室温において結晶状態から光照射によって溶融し、加熱することで元の固体に戻る材料を作り出している(2010年12月2日 産総研プレス発表)。

 今回、通常の室温条件で、液化-固化の可逆的な物理変化を光だけで制御することを目的に研究を進め、容易に入手できる糖類を基本骨格とし、光反応性のアゾベンゼン基を分子内に多数導入した多分岐型の化合物では、可逆的な光液化と光固化が可能であることを見出した。

 この物質は、紫外光を照射することで液化し、可視光を照射することで再度固化した。この間、熱を必要とせず、室温で液化-固化の変化を繰り返した。光刺激によって再利用・再作業ができる接着剤など、新たな光機能材料への応用に期待できる。

 新素材はどうやって得られたか?
 今回用いた材料は、多分岐型の化合物である。もともとは同一分子内に複数の光反応性部位をもつ液晶性材料として産総研が開発し(2009年8月論文発表)、現在は光で書き換えする色劣化のないカラー表示・記録材料のための添加剤として利用されている。

 材料の光反応性の部位にはアゾベンゼン基を用いている。アゾベンゼンは、光で棒状構造と折れ曲がり構造の間で可逆的に変化(異性化)を起こす(図1)ことが知られているが、結晶状態では、結晶性が高く、構造変化に必要な自由体積空間が少ないため、この異性化反応を示す例は稀である。さらにこの材料は、複数のアゾベンゼン部位の末端部分を、中央で密に繋ぎ合わせた構造ももっている(図2左)。合成直後は粉末(固体)として得られるが、熱処理を行うと加熱状態で液晶状態をとることが知られている。

 この液晶性の発現は、分子中央の密につながれた部分によって、結晶化しやすいアゾベンゼン部位同士の均一な分子配列を阻害するためと考えられる。また、液晶温度以下の室温では、同様の均一分子配列阻害効果によって、結晶状態に比べて、いくぶん結晶性に劣る液晶ガラス固体、もしくは不均一な結晶様固体状態をとっていると考えられ、固体状態でもある程度の自由体積空間、すなわち光反応性を保持していることが期待された。

 実際に光反応性を調べた結果、固体状態でも良好な異性化反応性を保持していることがわかった。具体的には、黄色粉末である原料に紫外光(LED光源:中心波長365 nm、光量 40 mW cm-2)を照射すると、異性化反応の進行に伴ってオレンジ色へと色変化が起こるとともに徐々に液化し、最終的には完全に液化した。続いて、この液体に可視光(LED光源:中心波長510 nm、光量 20 mW cm-2)を照射すると、アゾベンゼン部位が異性化して分子全体として元の棒状構造に戻ることに伴い、再び初期の黄色に戻りながら固化が起こった。この光液化と光固化の反応は何度でも繰り返し行うことができる。

 合成には、容易に入手できる糖アルコールを光反応材料の基本骨格として利用し、これに複数の光反応性のアゾベンゼンをエステル結合させる方法を用いている。これは、非常に簡便に合成でき、原料の入手も容易なため、大量合成にも適している。糖アルコールとしては、複数の水酸基をもつトレイトール、D-マンニトール、キシリトールダイマーなどを用いた。比較のために、水酸基の数が少ないメタノールとエチレングリコールの誘導体も合成した。これにより、アゾベンゼンの置換基数がそれぞれ1、2、4、6、8個の化合物を合成し比較検討したが、1、2置換体は光反応を起こさず、光液化するのは置換基数が4以上の場合であった。

 この新しい光反応材料はさまざまな用途が期待できるが、その応用例の1つとして、繰り返し脱着できる光反応接着剤が考えられる(図3)。実際の接着力の光による変化を、試験的に調べた結果を示す(図4)。液化させた材料をガラス板2枚で挟み込み、固化させた後におもりを支えるという簡易な方法で、引っ張りせん断強度を測定したところ、その値は50 N cm-2であった(膜厚は、およそ6 µm)。その後、ガラス板越しに紫外光を照射して光液化させて測定したところ、その値は0.3 N cm-2以下になったことから、接着力は光で大きく低下し、ほぼなくなることがわかった。次に、この光溶融した液体に可視光を照射して再度固化させた後に、引っ張りせん断強度を測定したところ、初期値の50 N cm-2であって、光固化によって接着性能を回復したことが確認できた。(産総研プレス)

 DVD,ブルーレイの記憶原理
 CDやDVD、ブルーレイの記録原理はどうなっているのだろう?かつて、エジソンがレコード盤に音の信号を刻み込んで、これを再生することでレコードが聴ける仕組みを作った。信号はデジタルに変わったが、記録の原理は変わっていない。

 レコードでは、物理的に溝を彫っていったが、DVD、ブルーレイなどでは、レザー光線で熱を加えて溝をつくる。ディスクの表面には、特殊な合金(銀・インジウム・アンチモン・テルル合金)がはってあり、これに加える熱と冷却時間によって、原子が不規則に散らばった状態「アモルファス」と、規則正しく並んだ結晶状態「クリスタル」に変化する相変化現象を利用している。 アモルファスは光の反射率が低いのでピットの役割を果たし、 クリスタルは反射率が高いのでランドの役割を果たす。 再びレーザー光で熱すれば何度でも相変化させることができるので書き換え可能になった。

 また、CD、DVDでは赤色レーザーが使われているが、ブルーレイでは、青色レーザーが使われる。レーザーの波長を短くすることで、記録される溝を細くすることができ、それだけ記憶量が増えた。ところが、今回、もっと記憶量を増やすことができる物質ができた。どんな物質だろう?

2011年1月、わずかな光で色が変わる「光センサー分子」を奈良先端科学技術大学院大の河合壮(つよし)教授らが開発し、1月7日に発表している。この分子で録画用ディスクを作ると、地上デジタル放送が6時間録画できる現在のブルーレイの100倍以上の記録が可能で、書き込みに必要な電力も100分の1以下に抑えられるという。

 光センサー分子は、光が当たると色や形が変わる。河合教授らは人間の目の中にあるセンサー分子に注目。どんな形が、光と反応しやすいか探った。その成果を生かし、ほぼ100%光と反応する分子を作ることができた。

 これまでのブルーレイなどはレーザーの熱で分子を変化させて記録する。そのため、大きな電力が必要で、記録に時間もかかった。今回の分子は、熱でなく光に反応するのでほとんど無駄がなく、電力は100分の1以下、読み書きの速さも10倍以上になるという。また、この光センサー分子は理論的には100層にも重ねて使うことができる。光でくっつく接着剤や高密度な半導体の製造などにも応用できるという。(asahi.com 2011年1月8日)

参考HP 産総研 室温で光による、液化~固化を繰り返す材料 アイラブサイエンス ブルーレイの100倍記憶可能なフォトクロミック分子

クロミック材料の開発 (CMC books)
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