レバーが“悪性貧血”に効く理由
1934年のノーベル生理学・医学賞は、「貧血に対する肝臓医療法の発見」に贈られた。受賞したのは、米国の医師ジョージ・H・ウィップル、ジョージ・リチャーズ・マイノット、ウィリアム・P・マーフィの3人である。
1924年、マーフィーは犬を貧血の状態にし、様々な物を与えて改善効果を測定した。そして彼は、レバーを大量に与えると貧血の症状が改善されることを発見した。ウィップルとマイノットは治癒を起こした物質としてビタミンB12を単離した。
貧血にはレバーがよいという。若いときは貧血気味で、苦手でも無理矢理レバーを食べた。レバーの何が貧血によいのだろう?
レバーに鉄分が多く含まれていることは有名。赤血球の成分であるヘモグロビンをつくるのには、鉄分を必要とする。だから、血液を多くつくるためにレバーを取るとよいというわけだ。鉄分を多く含んだ食べ物としては、他にほうれん草や、大豆と大豆を原料にした豆腐、焼きのり、ひじきなどの海草、シジミなどの貝類がある。
意外に知られていないことだが、同じ鉄分でも、腸管吸収率に違いがある。食物鉄には「ヘム鉄」と「非ヘム鉄」がある。食肉に含まれるのはヘム鉄、海草や野菜、大豆に含まれるのは非ヘム鉄。腸管での吸収率をみると、ヘム鉄の25%に対して、非ヘム鉄は5%。同じ量を摂ったとしても、吸収効率は食肉のほうがはるかに良い。
さらに、レバーにはビタミンB12も豊富に含まれてる。この成分は、かつて原因不明の死の病と恐れられた「悪性貧血」がレバーを食べる事で治ったことで、レバーが貧血改善の食材として注目された理由のひとつになっている。まさか、レバーと貧血の関係が、ノーベル賞に関係していたことは知らなかった。
ジョージ・H・ウィップル
ジョージ・H・ウィップル(George Hoyt Whipple、1878年~1976年)はアメリカ合衆国の内科医で医学者で医学教育者。ウィップルは、貧血に対する肝臓療法の発見の業績により、ジョージ・リチャーズ・マイノット、ウィリアム・P・マーフィとともに1934年度のノーベル生理学・医学賞を受賞した。
ウィップルはニューハンプシャー州アシュランドで、アシュレイ・クーパー・ウィップルとフランセス・アン・ホイトの子として内科医の家系に生まれた。彼はフィリップス・アカデミーおよびイェール大学で教育を受け、1900年に学士号を取った。その後ジョンズ・ホプキンス大学医学部に通い、1905年に医学博士号を取得した。卒業後は、パナマ運河建設中の1907年から1908年にかけてパナマのアンコン病院に移るまで、ホプキンスで病理学者として働いた。ボルチモアに帰ってからは、1914年までジョンズ・ホプキンス大学の病理学研究室の助手、講師を引き継いだ。
1914年、ウィップルはカリフォルニア大学医学部の実験医学の教授になり、1920年から21年にかけては医学部の学部長を務めた。医学教育研究の草分けのエイブラハム・フレクスナーとロチェスター大学の学長だったラッシュ・リーズの勧めで、1921年、彼は建設途中だったロチェスター大学医学部の学部長になった。ウィップルは1954年まで学部長職を務め、死ぬまでここに在籍した。大学関係者の多くがウィップルは素晴らしい教育者であるとみなしていたが、彼は1976年に97歳で亡くなった。
ウィップルの主な研究は貧血と、肝臓の生理学・病理学であった。貧血の犬にレバーを食べさせると症状が改善されることを発見し、彼はノーベル賞を受賞した。この発見は、マイノットとマーフィーによる肝臓療法の開発につながった。当時は、悪性貧血は常に致命的なものだった。
1934年のノーベル生理学・医学賞授賞式で、I・ホルムグレンは次のように語った。「3人の受賞者の中で、受賞対象となった研究を最初に始めたのはウィップルだった。ウィップルの実験は極めて上手く計画され、正確な結果を出した。その結果、彼らの結果は絶対的な信頼性を持つに至った。ウィップルの得た結論により、マイノットとマーフィーはそれを人間の悪性貧血に応用することを思いついた。」
また彼は、彼が「腸性脂肪異栄養症」と呼んでいた未知の病気が、小腸の腸壁に異常な脂肪が蓄積することによって起こることを初めて明らかにした。さらに1907年には、細菌によってこの病気が発症することも、論文の中で正確に明らかにした。この病気は現在、ウィップル病(Whipple's disease)と呼ばれている。
ジョージ・リチャーズ・マイノット
ジョージ・リチャーズ・マイノット(George Richards Minot、1885年~1950年)はマサチューセッツ州ボストン生まれのアメリカ人医師、医学研究者。悪性貧血の治療法に関する研究で、ジョージ・H・ウィップル、ウィリアム・P・マーフィとともに1934年度のノーベル生理学・医学賞を受賞した。
ジョージ・マイノットは、1912年にハーバード大学医学部を卒業した。1914年からジョンズ・ホプキンス大学医学部助教授を務めたのち、1915年にハーバード大学医学部助教授に戻って研究を続けた。ウィップルとマイノットは、悪性貧血の治療には、肝臓に多く含まれるビタミンB12が有効であることをつきとめた。
ウィリアム・P・マーフィ
ウィリアム・P・マーフィ(William Parry Murphy、1892年~1987年)はウィスコンシン州ストートン生まれのアメリカ人の内科医。大球性貧血の治療法の考案により、ジョージ・H・ウィップル、ジョージ・リチャーズ・マイノットとともに1934年度のノーベル生理学・医学賞を受賞した。
マーフィーは1919年9月10日にパール・ハリエット・アダムスと結婚し、医師の長男ウィリアム・P・マーフィ・ジュニアと長女プリシラ・アダムスを授かった。
悪性貧血とは何か?
悪性貧血とはビタミンB12が欠乏して起こる貧血である。鉄欠乏性貧血が鉄の欠乏によって起こるのと同様に、ビタミンB12もまた赤血球を造るのに必要な物質だ。昔は原因が不明で治療法がなかったため、死に至る病気として恐れられていた貧血。今では原因が解明されているので、悪性貧血と診断が確定すれば、ビタミンB12の注射で治す事ができる。同じ種類の貧血に葉酸が不足して起こるものがある。
ビタミンB12や葉酸は、細胞の核内にあるDNAを合成するのに必要なもので、ビタミンB12や葉酸が欠乏すると、赤血球の産生の際に細胞の分裂・増殖がうまく進まず途中で死滅してしまう。そして骨髄中には赤血球になれなかった前段階の赤芽球(巨赤芽球)がたくさんたまっていく。よってこの貧血の事を巨赤芽球性貧血ともいう。ビタミンB12は赤芽球生成のほか、上皮細胞、胃粘膜、神経細胞の成長にも関係しており、悪性貧血では舌の痛み(舌炎)、萎縮性胃炎や知覚障害も生じる。
ビタミンB12欠乏の原因は、ビタミンB12がうまく吸収されない事で起こる。ビタミンB12の吸収には胃にある糖タンパクの一種の内因子が必要で、内因子自体が欠乏したり、腸内細菌や寄生虫でビタミンB12が消費されつくすことで起こる。また胃を手術で全部とった場合は内因子が分泌されないので、手術後数年(3~7年)経ってから悪性貧血が起こる。
悪性貧血の治療
悪性貧血を治療するには、まずビタミンB12欠乏か葉酸欠乏かを調べる必要がある。これは血液検査で調べる事ができるほか、骨髄を調べて巨赤芽球があれば確定される。悪性貧血は基本的に鉄欠乏性貧血と考え方が同じで、不足しているビタミンB12か葉酸を補給すれば治る。
ただしいくら大量のビタミンB12を摂取したとしても、胃に存在するビタミンB12の吸収を助ける内因子がなければ吸収はされない。そのため内因子が欠乏している患者にはビタミンB12の錠剤を投与しても効果はなく、吸収に内因子を必要としない筋肉注射という方法をとる。
通常、ビタミンB12を1日あたり500~1000μg注射し、これを1週間続け、以後2~3ヶ月に1回投与する事で悪性貧血は完全に治る。ただし、胃に内因子がない場合はビタミンB12の注射を一生続ける必要がある。
回腸末端には内因子受容体が存在し、ビタミンB12は内因子と複合体を形成することで吸収されやすくなる。そのため、内因子が欠乏するとビタミンB12の吸収が低下し、DNAの合成が障害されて無効造血となる。無効造血となるのは赤血球のみならず白血球なども同様であるため、汎血球減少をきたすこともある。
悪性貧血以外のビタミンB12欠乏症の診断は、巨赤芽球性貧血の診断の有無によって判定されることになる。巨赤芽球性貧血は、ビタミンB12の吸収に必要な内因子が低下するためにDNAの合成が障害され、正常な赤芽球が産生されず異常な巨赤芽球が産生されるために起こる悪性貧血である。例えば、巨赤芽球生貧血を引き起こし悪性貧血と誤診されるビタミンB12欠乏症は、ビタミンB12を宿主と競争して吸収する寄生虫であるサナダムシの寄生のような例しか考えられない。
同様のビタミンB12の吸収障害は、胃全摘手術かルーY系腸縫合のような胃バイパス手術の特殊な外科手術の場合に起こりうる。このような場合には、胃が極めて少量の食事しか保持できないか、残された胃が機能しないかのいずれかの結果となる。それゆえ胃粘膜がもはや機能しなくなり内因子が生成できなくなる。 ビタミンB12を吸収を促進する胃内因子が分泌されないため、悪性貧血が結果として引き起こされるのである。胃バイパス手術や胃切除の患者は、悪性貧血の予防の観点からビタミンB12の注射や鉄剤の経口投与が行われる。
参考HP Wikipedia ジョージ・H・ウイップル 悪性貧血 Nobelprize.org
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