世界最高の分解能“アルマ望遠鏡”
 アルマ望遠鏡は、南米のチリ共和国北部にある、アタカマ砂漠の標高約5000メートルの高原に建設された電波望遠鏡である。パラボラアンテナ66台を組み合わせる干渉計方式の巨大電波望遠鏡で、直径12メートルのアンテナを50台組み合わせるアンテナ群と、直径12メートルのアンテナ4台と直径7メートルアンテナ12台からなる「アタカマコンパクトアレイ (ACA)」で構成されている。

 アンテナは全て移動可能で、それらの間隔を最大18.5キロメートルまで広げることで、直径18.5キロメートルの電波望遠鏡に相当する空間分解能(視力)を得ることができ、ミリ波・サブミリ波領域では世界最高の感度と分解能を備えた望遠鏡になる。アルマ望遠鏡の分解能は、すばる望遠鏡やハッブル宇宙望遠鏡の約10倍にもなる。

 2011年9月からは、初期科学観測が開始されており、全世界から公募された観測研究のなかで、最初の成果があがった。みなみのうお座の一等星「フォーマルハウト」を取り囲む環の観測だ。

Fomalhaut

 フォーマルハウトは、地球からわずか25光年の距離にある星で、この星のまわりには塵でできた環があることがこれまでの観測から知られていた。2008年、ハッブル宇宙望遠鏡による過去の画像を比較・分析した結果、フォーマルハウトbという惑星を視覚的に発見した。眼で発見された太陽系外惑星としては史上初のものである。

 今回、アルマ望遠鏡はこの環を、電波望遠鏡としては過去最高の解像度で観測し、はっきりとした環の存在と、その結果推定される惑星の大きさを導きだした。研究グループは、環の内側と外側に位置するふたつの惑星の重力によってこの環の形が保たれていると考えている。

 アルマ最初の科学観測“フォーマルハウトの環”
 アルマ望遠鏡はフォーマルハウトの環を、電波望遠鏡としては過去最高の解像度で観測し、環の内側と外側の境界が非常にはっきりしていることを発見した。研究グループは、アルマ望遠鏡による観測画像とコンピュータシミュレーションとを比較し、環の内側と外側に位置するふたつの惑星の重力によってこの環の形が保たれていると結論づけた。

 これらの惑星そのものはアルマ望遠鏡による観測画像には写っていないが、環に加わっているであろう重力の大きさからその質量を見積もることができる。その結果、火星の質量よりも大きく地球の質量の3倍よりも小さいという。これは、研究者がこれまで考えていたこの惑星の質量よりもずっと小さいものだった。

 2008年にハッブル宇宙望遠鏡によって撮影されたフォーマルハウトの画像には、環の内側に惑星らしき天体が写っていた。その惑星は、太陽系で2番目に大きな惑星である土星よりも大きいだろうと考えられていたが、その後行われた赤外線の観測ではこの惑星を見つけることができなかった。

 赤外線観測でこの惑星が見えなかったことで、ハッブル宇宙望遠鏡による惑星の「発見」に疑いを持つ研究者も現れた。また、ハッブル宇宙望遠鏡の画像に写し出されているフォーマルハウトの環は非常に小さい塵でできたものだが、このように小さい塵は星が放つ光の圧力によって外側に押し広げられるため、環の構造もはっきりしなかった。

 アルマ望遠鏡を使った観測では、ハッブル宇宙望遠鏡が観測する可視光よりも波長の長い電波をキャッチすることで、より大きな(直径1mm程度)塵の分布を明らかにすることができた。この程度の大きさの塵になると光の圧力では簡単には移動しないため、環が本来持っている構造を調べることができる。こうして、内側と外側の境界が非常にはっきりした環の姿が、アルマ望遠鏡の観測で初めて撮影された。

 今回の観測で、この環はこれまで考えられていたよりもずっと細く薄いことがわかった。環の幅は太陽~地球の距離(約1億5000万km)のおよそ16倍で、厚みはその約7分の1。環の半径は、太陽~地球の距離のおよそ140倍もある。これは太陽~冥王星の距離の約3.5倍という巨大さだ。この環に近い軌道を持つ2つの惑星は、中心星であるフォーマルハウトからはるか遠くにあり、これまでに発見された普通の星を回る惑星としては最も冷たい惑星といえる。

 未だ建設半ばであるアルマ望遠鏡は、完成時の4分の1以下のアンテナ数にして、これまでの電波観測では見ることのできなかった環の構造をはっきりと描き出すことに成功した。(2012.4.18 国立天文台)

 フォーマルハウトの環が消えない理由
 ヨーロッパの赤外線天文衛星「ハーシェル」によるフォーマルハウトの観測研究についても、アルマ望遠鏡の成果とほぼ時を同じくして発表された。

 Bram Ackeさん(ベルギーのルーヴェン・カトリック大学)らによる観測では、数千分の1mm程度の固体微粒子が発する赤外線がとらえられている。従来のハッブル宇宙望遠鏡の可視光観測から粒子はもっと大きいと思われていたが、赤外線は反射光ではなく粒子そのものから発せられる熱を見るので、こちらの方がより正確な大きさと言える。

 これらの粒子が、彗星が放出する塵のようなふわふわした物の集合体とすれば反射量と温度の両方において観測結果と一致するが、このぐらいの大きさの粒子は、中心星であるフォーマルハウトからの光によってすぐに環の外側に吹き飛ばされてしまう。そこでAckeさんらは、環の中で天体が次々に衝突することで細かな粒子が供給されつづけている、という解を見出した。

 この仮定では、10kmサイズの彗星が1日あたり2つ衝突するか、1kmサイズの彗星が2000個衝突して粉々に砕け散るということになり、この発生割合を実現するには、環の中に数千億~数十兆個もの彗星が存在するということになる。これは、私たちの太陽系のはるか外側を取り囲む「オールトの雲」に存在するとされる数とほぼ同じだ。オールトの雲は、太陽がフォーマルハウトと同じくらいの年齢の時に周囲の円盤から飛び出した物質で形成され、長周期彗星(200年以上の公転周期を持つもの)や非周期彗星(太陽に接近するのが1度きりのもの)の故郷と考えられている。(ESA)

フォーマルハウトとは?
フォーマルハウト (Fomalhaut) は、みなみのうお座にある、視等級1.16等の恒星である。バイエル符号はみなみのうお座アルファ星、フラムスティード番号はみなみのうお座24番星。学名はα Piscis Austrini(略称はα PsA)。太陽を除けば、地球から見て17番目(アンタレスが暗くなったときは16番目)に明るい星である。地球からは約25.1光年離れており、比較的近距離にある恒星である。 また、2008年に惑星が1個確認されている。

 フォーマルハウト (Fomalhaut) という名前は、アラビア語で「鯨の口」という意味である。秋に北半球で夜空を眺めると、空高くに夏の星座の名残として、夏の大三角を構成するベガ、デネブ、アルタイルの3つの1等星があるものの、南の空低くには明るい星が少なく、フォーマルハウトだけがポツンと光っているように見える。ここから、日本では、フォーマルハウトは、「秋の一つ星」や「南の一つ星」と呼ばれる。日本より緯度が高いヨーロッパ北部では、フォーマルハウトが南の地平線低く見えるため、日本におけるカノープスのように、南国への憧れを誘う星とされている。
 
 フォーマルハウトは、誕生してから2億年しか経っていない、大変若い恒星だと考えられている(太陽は約46億年)。表面温度は8,500ケルビンであり、5,800ケルビンの太陽より高い。質量は太陽の2.3倍、直径はおよそ1.7倍、明るさは15倍である。絶対等級は1.74等。フォーマルハウトは巨大なドーナツ状の塵の円盤に囲まれていて、フォーマルハウトから133AU - 158AUの距離に広がっている。これは惑星が形成された後に残ったものではないかと考えられており、太陽系のエッジワース・カイパーベルトに相当するとみられる。この円盤は、相当量の赤外線を放射している。

 さらにこの塵円盤の分布の解析から、1998年には惑星の存在が推測され、フォーマルハウトbと仮称された。そして2008年、ハッブル宇宙望遠鏡によって2004年及び2006年に撮影された画像を比較・分析した結果、フォーマルハウトbを視覚的に発見した。可視光による太陽系外惑星の直接観測としては史上初である。

 しかし、その後の赤外線の観測では、フォーマルハウトbは発見されず、フォーマルハウトbの存在を懐疑的に見る意見もあった。惑星に見える点は、小惑星や彗星の衝突によって発生した「塵の雲」という主張である。

 それとは別に、2012年のアルマ望遠鏡の観測により、塵の円盤の詳細な画像が得られ、塵の円盤の幅は16AU、厚さは2.3AUであることが分かり、これまでよりも細くて薄い環であることが分かった。また、塵の環のコンピューターシミュレーションにより、環のすぐ内側と外側に、火星質量より大きく、地球質量の3倍以下の地球型惑星が「羊飼い惑星」として重力的に環をまとめているとされた。(Wikipedia)

参考HP 国立天文台: アルマ望遠鏡が明らかにした、太陽系外惑星のはたらき ヨーロッパ宇宙機関: Herschel spots comet massacre around nearby star Wikipedia:フォーマルハウト

ALMA電波望遠鏡 (ちくまプリマー新書)
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星空の不思議136のQ&A―国立天文台渡部潤一博士が答えます (ニュートンムック Newton別冊)
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