強度世界一のマグネシウム 熊本大、合金を開発
 世界一の強度を持つマグネシウム合金の開発に成功したと、熊本大の河村能人教授(金属工学)らが4月20日、大阪市内で発表した。強度は512メガパスカルで、従来のマグネシウム合金では440メガパスカルが最高。世界記録を大幅に更新した。

 航空機に使われるアルミニウム合金の超々ジュラルミンの505メガパスカルよりも高強度で、重さも3分の2しかないため、自動車部品や航空機への応用が期待される。

 河村教授は「マグネシウムは実用金属の中で最も軽く、輸送のための機器の軽量化が可能。環境に優しい社会の実現に貢献できる。資源も豊富で日本発の新材料として確立したい」と話した。

 河村教授らはマグネシウムに配合する元素の種類や割合を検討。ニッケルとイットリウムを加え「長周期積層構造」と呼ばれる特殊な重層構造を備えた合金を開発した。通常の合金製造法で作ることができ、量産化も可能。特許を申請中という。(2010/05/20 共同通信)

Kawamura_Yabe

 また、この合金、世界で最も燃えにくい。最高でも850度である既存のマグネシウム合金の発火温度を大きく上回る1105度を達成。航空機の部品などへの応用が期待される。

 マグネシウムは実用的な金属の中で最も軽く、豊富に存在するという利点がある。だが、比較的低い温度で溶けて発火し始めるため、溶接などの作業に危険が伴うほか、発火を嫌う分野への利用は限られてきた。今回開発された合金は「KUMADAI不燃マグネシウム合金」と名付けられた。 

 マグネシウム合金
 合金(Alloy)というと、金属に他の金属や非金属元素をまぜたものをいう。一般に、純金属に他の元素を添加するとその性質(例えば融点、磁性、機械的強度、耐食性など)は大きく変化する。組成を調節することで、様々な用途に応じた性質を持つ合金が生産・利用されている。有名なのは、ステンレス鋼(鉄合金 Fe-Ni-Cr)、ジュラルミン(アルミ合金 Al-Cu)などがある。

マグネシウム合金は、マグネシウムを主成分とする合金である。エレクトロン、ダウメタルとも呼ばれる。鉄などの「重い」金属が利用されていた多くの分野で、部品をマグネシウムに置き換えて軽量化することにより、省エネルギーや事故防止、使用感や安全性の向上などが可能となった。プラスチックと比べてリサイクルしやすい利点もある。これはアルミニウム合金とも共通する事柄であるため、コストや研究の面である種の競合が起こっている。

 マグネシウムの性質(異方性)により再結晶温度以下での成形(冷間加工など)がほとんど不可能なので、圧入鋳造成形(ダイカスト)、半溶解状態での射出成形(チクソモールディング)、鍛造とプレス加工を合わせた成形(プレスフォージング法)などが用いられている。2005年の資料[1]によると、これらのシェアは60%、35%、5%程度となっている。

 旋盤加工時等のマグネシウム合金の切屑は引火すると高温で燃え、燃焼時に水をかけると爆発する危険性があるために、一般的な消火器では消火できない。切粉はまめに清掃し不燃質の蓋のできる容器に収め、消火用の乾燥砂(簡易消火用具参照)を準備する等、細心の注意を払う必要がある。

 特徴としては、軽量であること、内部損失(内部摩擦)が大きい(振動や衝撃を吸収しやすい)こと、電磁波遮蔽能が高いこと、天然資源が豊富で、リサイクル性にもすぐれていることなどがある。

 マグネシウム合金の添加元素として最も基本的なものはアルミニウムと亜鉛である。この2種を含むマグネシウム合金は、ASTMの定めるAZ(Aはアルミ、Zは亜鉛を表す)から始まる呼称で呼ばれる。通常のマグネシウム合金は燃焼しやすいが、カルシウムを数%添加して燃焼開始温度を200~300℃上昇させた難燃性マグネシウム合金も開発されている。

 アルミニウムを3%、亜鉛を1%添加したAZ31合金は比較的塑性加工しやすいため、主に圧延や押出加工で製品が製造されている。一方、アルミニウムを9%、亜鉛を1%添加したAZ91合金は、鋳造・ダイカスト・チクソモールディングなどの溶融加工法に用いられている。また、耐熱性や機械的性質の向上のため、少量の希土類元素を添加した合金も開発されている。

 結晶構造を変形しやすい体心立方晶にする目的と、さらなる軽量化を狙い、原子量の小さいLiを用いたMg-Li基合金も開発されている。現在 ASTM で規格化されているものは LA141 (Mg-14%Li-1%Al 合金)だけであるが、ラボレベルではLiを37%含有する合金が開発されている。この合金の密度は0.96 Mg/m3であり、水よりも軽い。(Wikipedia)

 太陽光レーザーが拓くマグネシウム社会
 マグネシウムは海に大量に存在し、反応性が高いことから、発電のための燃料として使用する「マグネシウム発電」が計画されている。

 現在のエネルギー通貨は電気。電力網を介して流通し、熱や動力、照明などさまざまな用途に使える。一方、将来、通貨になる可能性があると考えられ、官民で研究開発が進んでいるのが水素。水素は究極のクリーンカー、燃料電池車の燃料としての利用が想定されている。だが、まったく別の物質も次世代のエネルギー通貨になる可能性を秘めている。それは本物の通貨と同じ金属。アルミニウムよりも軽く、銀白色の輝きを放つ金属、マグネシウムだ。
 
  マグネシウムは軽くて強い構造材料として自動車部材やノート型パソコンのボディーなどに使われ始めた。だが、もう1つ、マグネシウムにはあまり知られていない特徴がある。反応性が非常に高いことだ。火を付けると激しく燃える。燃えやすさという点で言えば水素と比較したほうが、その利用のあり方に対する理解がしやすい。多くの場合,水素は700気圧のボンベに詰めて用いる。燃焼に用いたとき700気圧の水素1立方mが発生する熱量は4.3ギガジュール。一方,同体積のマグネシウムが発生する熱は43ギガジュールと水素の10倍だ。
 
 マグネシウムは水と反応させると水素が大量に発生する。普通車の燃料電池車が500km走るには水素6kgが必要とされるが、それには約70kgのマグネシウムがあればよい。体積にして40リットルだ。実用化の暁には,マグネシウムの燃料パックをカセットのように燃料電池の発電機構に装填する方式になると考えられる。
 
 しかし、マグネシウムをエネルギー通貨として利用するには乗り越えるべき非常に高い壁があった。精錬に膨大な量の石炭と触媒が必要なのだ。ところが最近、石炭も触媒も使わない製錬技術が開発された。まず太陽光を集め、それを強力なレーザー光線に変換する。この光を原料物質である酸化マグネシウムに照射すれば、2万℃という超高温により酸素とマグネシウムの結合が解け,純粋なマグネシウムが生み出される。北海道千歳で実験プラントが動き始めた。

 研究開発を行っているのは、東京工業大学統合研究院ソリューション研究機構、矢部孝(やべ・たかし)教授だ。専門はレーザーと物質との相互作用の理論および実験的研究。太陽光励起レーザーによるマグネシウム社会実現を目指すベンチャー「エレクトラ」を設立、代表取締役を務める。もう1つの専門は数値流体力学。物体の衝突や,液体と気体の境界面での波動などシミュレーションが難しい現象をリアルに再現できる「CIP法」を開発,日本機械学会の賞などを受けている。(日経サイエンス 2007年11月号)

参考HP Wikipedia:マグネシウム合金 月刊チャージャー2009年10月号:マグネシウムが地球を救う?

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