放鳥のトキ 初めてひな誕生を確認
新潟県佐渡市で野生復帰を目指して自然に放された国の特別天然記念物のトキについて、環境省は4月22日夜、「ひなが誕生した」と発表した。自然界でひなの誕生が確認されたのは、佐渡に野生のトキが生息していた昭和51年以来、36年ぶりで、放鳥されたトキでは初めて。

環境省によると、このひなは佐渡市で去年の春に放鳥された3歳のオスと2歳のメスのトキのつがいから誕生した。このつがいは3月中旬から4個の卵を産んだとみられていたが、観察のため設置されたカメラが今月11日ごろから故障して撮影できなくなり22日、あらためてカメラを設置して映像を確認したところ、午後6時45分ごろ、巣の近くにひなの姿が映っているのが確認された。

これを受けて環境省は「ひなが誕生した」と発表した。20年にわたって、地元でトキの飼育や訓練などを行ってきた佐渡トキ保護センターの金子良則獣医師によると、産まれたひなの映像を確認したところ、ひなの体長はおよそ20センチで、ふ化から一週間程度経っているとみられるということである。また、飼育で生まれたトキと同じように元気で、仕草も正常だということだ。

Nipponia nippon

国内のトキは平成15年に絶滅したが、中国から譲り受けたトキで人工繁殖が行われ、平成20らは佐渡市で野生復帰を目指した放鳥が始まってこれまでに78羽が自然に放されていた。環境省は引き続き注意深く観察を続けることにしている。

巣立ちまでには課題も
しかし、無事に育って巣立つには、自然界ならではの越えなければならない課題が残されている。環境省によると、ひなは順調に育っていけば、ふ化してから40日ほどで親鳥と同じくらいの大きさになり巣立つとみられている。

しかし、テンといった小動物やカラスなどトキの天敵がひなを襲ったりしないかや、親鳥がひなを育てるためにドジョウやカエルなどのエサを十分に捕ってくることができるのかなどの課題が残されている。

今後、こうした自然界ならではの課題も乗り越えていかなければいけないだけに、自然界での繁殖が定着し、トキの野生復帰が実現するまでにはまだ時間がかかる見通しだ。

環境省のトキ野生復帰専門家会合の委員を務めていた鳥の生態に詳しい新潟大学の永田尚志准教授は「ひなが誕生しなければ、野生復帰は始まらないのでとても大事な現象ではあるが、ふ化のあと、無事にひなが育って巣立ちするまでにも次々と課題が立ちはだかっている。ふ化はひとつの通過点に過ぎず、今後も長い目で見守ってもらいたい」と話していた。

佐渡市内では、このほかにも卵を温めているとみられるトキのつがいが合わせて10組いて、このうちの1組はすでに卵がふ化する可能性がある時期に入っています。環境省は、今後もふ化が続くことに期待を寄せる一方で、自然界での繁殖が定着して野生復帰が実現するかどうか注意深く観察を続けることにしている。(NHKnews 4月22日)

襲ってまで抱卵するトビ、トキに教えた?
今回、めでたくヒナが誕生したが、まだまだ巣立ちまで多くの問題がある。また、これまでにも多くの問題が起きていた。今月4日には、“爆弾低気圧”の強風の影響で、つがい1組が抱卵を止めたほか、9日にはカラスに卵を奪われるトラブルも。現在、佐渡には45羽のトキを放鳥。10組の営巣が確認されており、産卵から孵化まで約30日間かかるが、さらなるひなの誕生の期待もある。

4月20日には、営巣していたトキが、トビに一時巣を奪われる「珍事」が起き、関係者らは驚きと戸惑いの表情を見せた。環境省佐渡自然保護官事務所によると、このトキのペア(3歳雄、2歳雌)は4月12日に抱卵を開始し、孵化ふか予定日は5月上旬。トビが卵を温めていた約1時間半、トキ2羽は近くを飛び回り、時折、巣を奪い返そうと攻撃していたという。トビが巣を離れてから約50分後、ペアは再び抱卵に戻ったという。

トキが抱卵に戻った後も、トビが何度かトキを攻撃する様子も確認されており、今後も油断できない状況が続くとみられる。巣から観察場所までは約300メートルで、卵は確認できていないが、トビが捨てたり傷つけたりする動きはなかったという。

トキの卵を他の鳥が温める例は知られていないという。新潟大の永田尚志准教授(鳥類生態学)は、トキとトビの巣の材料や大きさが似ていることに触れ「近くで繁殖に失敗したトビの抱卵行動が収まらず、本能的に抱いたものと見られるが、まさか襲ってまで抱卵するとは」と驚きを隠せない様子。

トキの餌場作りに励むNPO法人「トキの島」代表の中島明夫さん(48)は「人だけでなく他の鳥もトキに関心があるようだ。やきもきして自分が抱卵の仕方を教えるつもりだったのかな」と苦笑した。(2012年4月21日 読売新聞)

日本のトキは、2003年に絶滅
トキには「ニッポニア・ニッポン」という学名があり、名前の由来は1826年までさかのぼる。当時、オランダ東インド会社の医師として日本を訪れたシーボルトは、そこで目にしたさまざまな動植物をヨーロッパに紹介した。その際、トキの標本もオランダのライデン博物館に送った。そして、この標本をもとに博物館のテミンク館長が論文を書いた際、トキを日本産の鳥として、「アイビス・ニッポン」と名付けた。

さらにその後、トキは館長の名前にちなみ、「ニッポニア・テミンク」と呼ばれたあと、最終的には、1871年にイギリス・大英博物館のグレイにより、「ニッポニア・ニッポン」と名付けられた。これを受けて日本でも、1922年(大正11年)に日本鳥学会がトキの学名を「ニッポニア・ニッポン」と定め、トキは「日本を代表する鳥」と言われるようになった。(NHK)

かつては日本の北海道南部から九州まで、ロシア極東(アムール川・ウスリー川流域)、朝鮮半島、台湾、中国(北は吉林省、南は福建省、西は甘粛省まで)と東アジアの広い範囲にわたって生息しており、18世紀・19世紀前半まではごくありふれた鳥であった。日本では東北地方や日本海側に多く、太平洋側や九州ではあまり見られなかったようである。

しかし、いずれの国でも乱獲や開発によって19世紀から20世紀にかけて激減し、朝鮮半島では1978年の板門店、ロシアでは1981年のウスリー川を最後に観察されておらず、日本でも2003年に最後の日本産トキ「キン」が死亡したことにより、生き残っているのは中国産の子孫のみとなった。

野生では中国(陝西省など)に997羽(2010年12月現在)が生息しているほか、日本の佐渡島において2008年秋から2011年秋までに人工繁殖のトキ計78羽が放鳥されている。飼育下では中国に620羽(2010年12月現在)、日本に162羽(2011年12月11日現在)、韓国に13羽(2011年7月現在)がおり人工繁殖が進められている。

現在中国に生息している、またかつて日本に生息していたトキは留鳥(ただし、日本海側や北日本から、冬は太平洋側へと移動する漂鳥もいた)であるが、ロシアや中国北部、朝鮮半島など寒冷地に生息していたトキは渡りを行っていた。また、日本にいた個体も一部は渡りを行っていた可能性が指摘されている。(Wikipedia)

トキ人工繁殖の試み(1998年)
1998年、中国の国家主席であった江沢民が中国産トキのつがいを日本に贈呈することを表明し、翌1999年1月30日にオス個体『ヨウヨウ(友友)』メス個体『ヤンヤン(洋洋)』が日本に寄贈された。2羽は新潟県新穂村(現佐渡市)の佐渡トキ保護センターで飼育されることとなり、人工繁殖が順調に進められた。

日本に「譲渡」されたのはこの『ヨウヨウ』と『ヤンヤン』が初めてで、2011年現在でもこの2羽のみである。『ヨウヨウ』と『ヤンヤン』のほかに3羽が日本に送られているが、いずれも中国から借りているもので、その個体と日本の個体との間に生まれた子供は、半数を中国に返還することになっている。1999年5月21日には、『ヨウヨウ』と『ヤンヤン』に間にオスのヒナが誕生し『ユウユウ(優優)』と名付けられた。これが日本初の人工繁殖例である。

2000年、日本における人工繁殖の成功を受け『ユウユウ』のペアリング相手としてメス個体『メイメイ(美美)』を中国から借り受けた。また、『ヨウヨウ』『ヤンヤン』のつがいからは、2000年に2羽、2001年に3羽のヒナが誕生している。2002年からは『ヨウヨウ』と『ヤンヤン』、『ユウユウ』と『メイメイ』のつがいを中心に人工繁殖が続けられ、この年から2003年にはさらにその子孫のペアで人工繁殖が行われていた他、2004年には自然育雛にも成功している。以後、つがいが増えたこともあり、順調に人工飼育数は増加している。

飼育数の増加に伴い鳥インフルエンザなどの感染症が発生した場合に一度にすべてが死亡することを避けるため、環境省によりトキの分散飼育が計画され、これに対して新潟県長岡市、島根県出雲市、石川県が受け入れ先として立候補、それぞれトキ亜科の近隣種を導入して飼育・繁殖の訓練を行った。2007年12月に4羽(2つがい)が多摩動物公園に移送され非公開の下で分散飼育が開始された。その後も、2010年1月にいしかわ動物園で、2011年1月に出雲市トキ分散飼育センターで、2011年10月に長岡市トキ分散飼育センターで、それぞれ分散飼育が開始された。

こうしたトキの飼育や繁殖は野生のトキを日本に復活させることを最終目標としており、2007年6月末から「順化ケージ」での野生復帰訓練が始められ、第1回として2008年9月25日に、佐渡市小佐渡山地の西麓地域にて10羽が試験放鳥された。この放鳥により1981年の全鳥捕獲以来、27年ぶりに日本の空にトキが舞ったことになる。放鳥されたトキには個体識別番号(飼育下の個体番号とは別のもの)が付されており、翼のアニマルマーカー(羽の一部に色をつけたもの)や、脚のカラーリング、金属脚環などで個体を識別できるようになっている。うち6羽にはGPS発信器も付けられた。(Wikipedia)

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