暗黒物質の正体は何か?
具体的に何が、宇宙の質量の大半を占めている「暗黒物質」だろう?これには複数の候補が挙がっている。
素粒子からは、ニュートリノ、ニュートラリーノ、アミシオン、ミラーマターなどがあるが、ニュートリノ以外は存在が確認できていない。このような粒子をWIMP(ウィンプ)と呼んでいる。WIMP(weakly interacting massive particle)は、弱く相互作用する重い粒子で、特に関心を集めている。それは、WIMPが素粒子物理学の標準モデルを拡張する新しい理論から自然に出てくる存在だからだ。
暗黒物質の観測事実からいくつかのその性質が推測される。(1)電荷を持たず、(2)非常に重く、(3)安定である、こと。このような物質は、現在われわれが知っている素粒子では説明ができない。新しい理論に基づく、未発見の素粒子が必要となる。
われわれの身の回りにもダークマターは1リットル当たり約1個ほど存在すると考えられている。しかし、いまだ実験的に直接捕えられていない。ダークマターの直接観測は、現在の宇宙物理の最も大きな課題の一つである。直接観測に成功すれば、その正体を解明する手がかりが得られる。そして、ダークマターの正体が分かれば、宇宙創成メカニズムの理解が大きく進展すると考えられる。
暗黒物質の候補としては、ブラックホール、白色矮星・中性子星・惑星などの天体も考えられている。小規模なブラックホールは超新星爆発のときに生じる。質量が太陽の数億倍もあるような大規模なブラックホールは銀河中心で観測されているが、まだ成因はよく分かっていない。恒星規模のブラックホールが銀河系内にいくつくらい存在するのか、その質量分布がどのような物か、等も未だ明らかではないため、これは暗黒物質の候補となる。また、原子核大の極微小ブラックホールも多量に存在しているかも知れない。さらに、宇宙誕生後3分頃に生成されたブラックホールについては、バリオン存在量(物質)の制限から逃れることができる。
比較的小質量の恒星が燃え尽きると白色矮星・中性子星になる。こうした星が自分で出す光が小さい場合、暗黒物質の候補となりうる。 褐色矮星 恒星誕生の際、核融合が起こるほどのガス質量がなかった場合、明るく輝かないために観測は困難となる。近年、観測精度の向上によって褐色矮星が観測されるようになった。また、観測できる多数の恒星がそれぞれ観測できない惑星を持っている可能性があり、これも暗黒物質の候補になる。
暗黒物質、1分に1個が人体に衝突?
暗黒物質が、数種類の素粒子だとすると、平均的な人間の体にはおよそ1分に1個、暗黒物質の粒子が衝突しているという計算結果が発表された。
暗黒物質とは、宇宙に存在すると考えられている目に見えない物質。銀河や銀河団への重力の影響が観測されることから、その存在が推定されている。科学者の推定によると、この謎めいた物質が宇宙全体の物質の80%近くを占めるという。
現在まで、暗黒物質を構成する粒子は特定されていない。最も有力とされる候補は、WIMP(ウィンプ)と呼ばれる仮説的な粒子のグループだ。WIMPとは、“物質との電磁気的な相互作用がほとんど無い重い粒子(weakly interacting massive particles)”の頭文字。
名前が示すとおり、この仮説的な粒子は、バリオンと呼ばれる通常の物質に対して、ごく弱い影響しか及ぼさない。人間の体も含め、宇宙のほとんどの物質を素通りしてしまうのが普通だ。
ところが一定の質量を持つWIMPは、ときおり原子核と衝突することがある。そして、その衝突はこれまで考えられていたよりも頻繁に起こっている可能性が出てきた。
ミシガン大学のミシガン理論物理学センター(MCTP)教授、キャサリン・フリーズ(Katherine Freese)氏は、「この研究を始める前は、WIMPが人間の体内の原子核にぶつかる率は、一生に1度くらいだと思っていた。ところが1分に1回の可能性の方が高いことがわかった」と話す。
WIMPと通常物質の衝突
WIMP理論によれば、WIMPはほかの物質と同じように、宇宙の誕生時に生まれた。通常の物質とはあまり相互作用しないが、WIMP同士が衝突すると、両方とも消滅してすべての質量がエネルギーに変わる。
今回の研究論文の著者の1人で、スウェーデンにあるストックホルム大学オスカル・クライン・センターの研究員、クリストファー・サビッジ(Christopher Savage)氏は、「宇宙が(膨張して)冷えるにつれ、(WIMPは)非常に広範囲に広がって、もはや消滅しなくなり、ただそこにあるだけになった」と話す。
理論モデルによると、現在、地球とその住民たちを毎秒何十億というWIMPが通り抜けているという。
ゲルマニウム結晶など特定の物質にWIMPが衝突すると見込まれる確率と、その衝突から発生するはずのエネルギーの量に基づいてWIMPを検出しようとする実験が、いくつか考案されている。
今回の研究でも、フリーズ氏とサビッジ氏はこのような計算方法を用い、何種類かのWIMPの質量と数を調べ、その粒子が、人体に多く含まれる原子の核とどのくらいの頻度で相互作用するかを試算した。
「計算方法はわかっていたけれども、人間の体といった具体物について実際に計算したことはなかった」とサビッジ氏は言う。計算の結果、酸素と水素は比較的WIMPと衝突しやすいことがわかった。人体は大量の水(H2O)を含んでいるため、WIMPと相互作用をする可能性が高い。
今回の研究によると、60GeV(600億電子ボルト、GeV=ギガ電子ボルト。1GeVは陽子1個の質量に閉じ込められているエネルギーにほぼ等しい)の質量を持つWIMPは、体重70キロの人の体に含まれる原子核に、年に約10個ぶつかるという。
質量が10~20GeVのWIMPだと、平均的な人体の原子核に、年に10万個単位で衝突すると推定される。
暗黒物質は危険か
言うまでもなく、相互作用が弱いということは、WIMPがぶつかっても人体に大きな危険はないということだ。
しかしWIMP同士がぶつかると、消滅して非常に大きなエネルギー反応が生じる。「それぞれが陽子の100倍の質量を持つWIMP同士がぶつかると、陽子の質量の200倍のエネルギーが生じる。これはかなりのエネルギーだ」とフリーズ氏は言う。
「WIMPが人体内で消滅すると、人体に良くない突然変異の原因になりかねない。しかし、そんなことが起こる確率は極めて低い」とフリーズ氏は付け加えた。
暗黒物質の衝突についての研究は、科学サイト「arXiv.org」に4月9日に掲載された。「Physical Research Letters」誌にも掲載される予定だ。(Jason Major for National Geographic News April 25, 2012)
参考HP アストロアーツ 暗黒物質は太陽系の近くにないかもしれない National Geographic news 暗黒物質1分に1個が人体に衝突?
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