脳には糖分が必要なはずだが?
 脳科学では、「脳はブドウ糖だけをエネルギー源にしている。糖質さえとっていれば、脳は働く」といわれてきた。「勉強の前に甘い砂糖を入れたコーヒーを飲んだり、チョコレートを食べればよい」というのも聞いたことがある。

 しかし、どうも甘いものばかり取っていてもかえって、脳の働きが鈍くなるという研究結果が今回発表された。これを防ぐには、抗酸化力のある、ω3脂肪酸をいっしょに取るとよいそうだ。抗酸化力が記憶をつかさどる脳神経細胞のシナプスを保護しているという。

 さらに2011年1月、東北大学の川島隆太教授と大塚製薬の共同研究の結果、「糖質だけではなくバランスよく栄養をとったほうが、集中力、疲労感、空腹感のすべてにおいてよい結果が得られる」ことがわったと発表している。

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 なぜ、糖質摂取だけでは脳がうまく活性化しないのだろうか?川島教授は、大学生を対象にある調査を行った。水だけ、砂糖水だけ、栄養バランスのよい流動食の3通りを各々朝食として摂取してもらい、3時間後に、集中力と緊張感を要する短期記憶テスト「Nバック課題」を実施。そのときの脳の働きを測定、写真を撮影したところ、「砂糖水」よりも「栄養バランスのよい流動食」を摂取したほうが、脳のいろんな領域が働くことがわかった。

 なぜ、このような差が出たのだろう?現在わかっている知識と栄養学とを併せて考察した結果、いろいろな栄養素が「ブドウ糖代謝」を亢進し、脳の働きを活性化させると考えられた。

 皆さん、糖分だけでなく、ビタミン・ミネラル・食物繊維などを添加したり、ω3脂肪酸などもあわせた栄養バランスのとれた食事をするよう心がけましょう。

 甘い物を食べ過ぎると頭が鈍くなる
 甘い物を食べているとウエストが緩んでくることは誰でも知っている。ところが、頭も緩んでくるらしいことが、最新の研究からわかった。

 実験に使われたマウスは、甘い飲み物で記憶が混乱し、学習が妨げられた。研究を率いたカリフォルニア大学ロサンゼルス校の神経科学者フェルナンド・ゴメス・ピニーリャ(Fernando Gomez-Pinilla)氏は、甘い食べ物が人間に及ぼす影響も「非常に心配だ」と話す。
 
 ゴメス・ピニーリャ氏の研究チームは、まず5日間ラットを訓練して、迷路を通り抜けられるようにした。その間、ラットには水と標準的な餌だけを与えた。その後6週間は、水の代わりに15%の果糖溶液を与えた。
 
「たいていの炭酸飲料には12%程度の糖分が入っている。つまり、水の代わりに砂糖を加えた炭酸飲料を飲んだと考えてもらえばいい」とゴメス・ピニーリャ氏は説明する。

 その6週間の間に、半数のラットには、果糖溶液と共にオメガ3脂肪酸の豊富な亜麻仁油と魚油も合わせて与えた。これまでの研究から、オメガ3脂肪酸には抗酸化作用があり、シナプスと呼ばれる脳神経の化学的接続部分を保護するらしいことがわかっている。
 
 果糖溶液を6週間与えた後、すべてのラットで迷路の通り抜けが遅くなった。しかし、オメガ3脂肪酸を合わせて与えたラットは、与えなかったラットよりもわずかに速かった。
 
 実験に使ったラットの脳を切断して調べたところ、高濃度の果糖を摂ったせいで、学習のカギを握るシナプスの可塑性が抑えられていたことがわかった。また、ラットでも人間でも記憶の形成に働くことが知られている海馬と呼ばれる脳領域で、糖分を調整するタンパク質のインシュリンの働きが妨害されていたこともわかった。
 
「こうした食べ物が脳に与える影響がどれほど大きいかを知って衝撃を受けた。人間でも、食べる物が気分や認知に影響を及ぼす可能性が非常に心配だ」とゴメス・ピニーリャ氏は話す。
 
 何ごともほどほどが大切
 ソフトドリンクや調味料、その他さまざまな加工食品には、普通の砂糖よりも安価な、果糖の豊富なコーンシロップが使われることが多い。米農務省によると、平均的な米国人は年に27キロ以上のコーンシロップを摂取する。やはり果糖を含むサトウキビやビートの消費量も、それよりやや少ない程度だ。
 
「果糖が体に悪いと言うのではない。栄養素を1つだけ取り上げて考えてはいけない。問題は、摂りすぎることだ」とゴメス・ピニーリャ氏は言う。「食事全体を、そして、オメガ3脂肪酸を摂ることを考えてもらいたい」。オメガ3脂肪酸は、サーモンやマグロ、クルミ、オリーブ油などに含まれている。
 
 研究チームの次の課題は、「体に良くない食事の長期的影響を元に戻せるかどうかを確認することだ」と、ミネソタ州ロチェスターにあるメイヨー・クリニックのジル・バーンズ(Jill Barnes)氏は話す。バーンズ氏は今回の研究に参加していない。
 
 今後は、食事が加齢や発達に及ぼす影響についても研究していく必要がある。「例えば、発達段階にある若い動物や人間に、長期にわたって糖分が多く、オメガ3脂肪酸の少ない食事を与え続けるとどうなるか」とバーンズ氏は問いかける。
 
 その他、ストレスのかかっている脳にさらにストレスを加えるような「食事が、PTSDなどの疾患にどう影響するかも研究テーマとなる。適切な食事を取っていない人では、PTSDの悪影響も大きいかもしれない」とゴメス・ピニーリャ氏は話している。
 
 糖分の多い食事についての研究は、「Journal of Physiology」誌の5月15日号に掲載された。(Charles Q. Choi for National Geographic News May 23, 2012)

 「脳の活性化には、栄養バランスが重要」
 大塚製薬株式会社は、東北大学加齢医学研究所・川島隆太教授との共同研究において、朝食として栄養調整食品を摂取し、暗算や簡単な記憶テスト(以下、知的作業)を行った場合、前頭前野内側面における脳活動が糖質のみの摂取と比べて高まることを脳科学的な見地から確認した。

 本研究成果は、脳機能に関する学会「16th Annual Meeting of the Organization for Human Brain Mapping」にて、川島教授らにより発表された。

 前頭前野は能動的な注意、意欲に関わる領域であり、本領域の活動低下は慢性疲労との関係があるといわれている。今回の研究成果について川島教授は、「栄養バランスの良い朝食を食べないと脳が効率よく働かないことを客観的に示唆する内容であり、大変興味深い結果」とコメントした。

 これまでに、疲労を予防し、集中力や知的作業効率を高めるには朝食摂取が重要であること、さらに糖質だけではなく栄養バランスの良い朝食が大切であることはよくいわれる。しかし、脳内部でどのような違いが生じるかについてはこれまで不明だった。本研究は、この部分を明らかにすべく「fMRI」という脳活動を画像化する手法を用いて次の検討を実施した。

 健常成人6名を対象に、朝食摂取前に知的作業および集中度などの自覚症状を測定した。その後、朝食として被験物(栄養調整食品:五大栄養素を含む400kcalの飲料、糖液:400kcalの糖質のみを含む飲料、水のいずれか)を摂取し、朝食前と同様のテストを経時的に行った。なお、知的作業時にはfMRIを用いて脳活動を測定した。

 fMRIによる測定を行い、高い脳活動を示した領域が明るく表示されるよう画像化した。その結果、栄養調整食品を摂取した場合は、糖液や水摂取と比べて、摂取180分後に前頭前野内側面の脳活動が有意に高くなっていることが確認された。

 朝食として五大栄養素を含む栄養調整食品を摂取した場合、糖質のみの摂取と比べて、前頭前野内側面で脳活動が高まることが客観的指標によって確認された。これにより、脳の活性化には、糖質だけではなく、バランスのとれた栄養素の摂取が重要である可能性が、脳科学的見地から示唆される。(大塚製薬プレス 2011年1月18日)

参考HP National Geographic news:甘いものを食べすぎると頭が鈍くなる 大塚製薬プレスリリース:脳の活性化には、栄養バランスが重要

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