宇宙で長生きだった線虫
 宇宙での滞在は老化が遅れ、長生きできる可能性のあることが、東京都健康長寿医療センター研究所や宇宙航空研究開発機構(JAXA)などの研究チームによる線虫を使った実験で分かった。

 線虫は体長1ミリメートルほどの細長い糸状の虫。研究チームは数百匹の線虫を、2004年4月打ち上げのソユーズ宇宙船で国際宇宙ステーション(ISS)に運び、実験棟で育ててもらった。宇宙空間での滞在は約11日間で、地上に持ち帰って調べると、加齢に伴って蓄積するタンパク質の量が通常よりも減っていた。

 また、神経伝達や内分泌の働きに関係する11種類の遺伝子の作用が低下していた。このうち特に機能が低下していた7種類の遺伝子(cha-1、glr-1など)を、地上で飼育した線虫で働かないようにしたところ、通常1カ月ほどの線虫の寿命が10~30日ほど延びたという。

 宇宙の微小重力環境がどのように遺伝子の働きに作用したのか、さらに他の宇宙環境の要因による影響など、いくつかの研究課題があるという。

 elegans

 人間にただちに当てはまるわけではないが、人間にも機能やDNA配列が似た遺伝子が存在し、老化の仕組みを探る手がかりになると期待される。7月5日の英科学誌サイエンティフィック・リポーツに発表された。(サイエンスポータル 2012年7月9日)

 線虫の遺伝子数がヒトとほとんど変わらない?
 線虫ゲノムは、およそ1億の塩基配列からなる。そしてコンピュータープログラムにより、現在19,000個の遺伝子がゲノム上で予測されている。驚くべきことにこの数はヒトゲノム上の予測遺伝子数とほぼ同程度だ。このゲノム情報は線虫のみならず、ヒトを理解するうえでも非常に役立つ。

 線虫(nematoda) の一種、C. エレガンスは一個体が約1000個 (ただし生殖系列を除く)の細胞より成る。これらの細胞は、すべて生きたまま顕微鏡下で観察、同定できる。このおかげで、受精から成虫に至るまでの細胞系譜が完全に解明されている。また、電子顕微鏡を用いた再構築により神経回路のネットワークが完全に明らかにされているという際だった特徴がある。このネットワークは非常に複雑であり、その働きの理解は我々にとっての大きな課題となっている。 C. エレガンスにはさらに、遺伝学、逆遺伝学が容易に行えることに加え、全ゲノムの塩基配列が分かっているという研究上の利点がある。

 線虫を遺伝学で用いる利点は、まずその世代が短いことである。わずか4日程度で卵から成虫まで成長する。そして、線虫は雌雄同体(hermaphrodite) と雄(male) という2つの性が存在し、雌雄同体は雄がいなくても、単独で卵を100個体以上、産むことができる。さらに、線虫に対して人為的に薬剤処理を行うことで、遺伝子に傷をつける、すなわち変異を与えることで疾患生物を作製することが技術的に可能である。もちろん、それらの個体も致死(lethal)・不稔(sterile) (=子供を産まない)などでなければ、数日飼育することで、たくさん増やすことも可能だ。

 C. elegansのゲノムが読まれたことは、医療に重要な意味を持つ。ヒトの遺伝病の原因遺伝子を線虫ゲノムから検索すると、 ヒトの遺伝病の原因遺伝子の多くが線虫にも存在することがわかる。 線虫を用いた解析から、これらの遺伝子の機能がわかるようになるかもしれない。

 遺伝子数が同じでも違いは大きい
 ヒトの遺伝子数は約2万2000、線虫(1万9000)とほとんど変わらない。ショウジョウバエが1万3000で、なんと植物のシロイヌナズナは2万5000でヒトより多いという。「遺伝子は、遺伝情報の最小単位として捉えられ、通常は1つのタンパク質(蛋白質)の情報に対応する。」(Wikipedia)

  「米国立ヒトゲノム研究所(NHGRI)のフランシス・コリンズ所長は、「タンパク質をコーディングする遺伝子がこれほど少ない数で間に合っているとは驚きだが、皆こうして存在しているのだから、それで十分のようだ」と述べた。

 コリンズ所長によると、過去の研究者たちがヒト遺伝子の数を多く数えてしまったのは、遺伝子のように見えるが実際は機能していないDNA領域がヒトゲノムに多数あるためだという。新たな技術と詳細な研究によって、生きた遺伝子と死んでいる遺伝子が区別できるようになった。(WIRED VISION)

 遺伝子とは、1つタンパク質を作り出す単位であり、ヒトの遺伝指数2万2000とは、無数の塩基配列のうちタンパク質を作り出している部分のみをカウントしている。ところが、「タンパク質を作り出している」という定義が恣意的で、「100アミノ酸以上の高分子化合物を作っているかどうか」で定義しているため、それ以下の無数のアミノ酸を作っているゲノムは無視されている。

 ヒトの場合、「タンパク質を作り出す遺伝子は全ゲノムの2%に過ぎない」とされているがDNAはタンパク質を作り出しているだけではなく、低分子のアミノ酸を作ったり、アミノ酸を作らなくてもRNAに転写されてタンパク質やアミノ酸合成を制御したりという形で少なくとも70%は実際に機能している。

 どうやら遺伝子の定義がおかしい。タンパク質合成だけでなく、制御機能として活躍しているアミノ酸やRNAを作り出している部分は、「遺伝子」として定義しないと意味がない。 そう定義しなおしたら、ヒトの遺伝子数は線虫やショウジョウバエの数百倍の大きさになるはずだ。

参考HP 遺伝学電子博物館:線虫 サイエンスポータル:宇宙では長寿になる? 東京大学:飯野研究室

はじめに線虫ありき―そして、ゲノム研究が始まった
クリエーター情報なし
青土社
線虫―1000細胞のシンフォニー (ネオ生物学シリーズ―ゲノムから見た新しい生物像)
クリエーター情報なし
共立出版

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