ウナギ高騰、完全養殖はいつ?
 ウナギが我々庶民には手の届かないものになってしまった。最近まで回転寿司で、楽しみなネタの一つだったウナギが、近頃は見ることもなくなった。ウナギの稚魚(シラスウナギ)が3年連続で不漁になり、活ウナギの価格もどんどん上昇。稚魚は今年1キロあたり約240~250万円もの高値が付き、昨年の3倍近くに上がった。今後は、マダガスカル産の養殖ウナギを輸入する計画もあるという。

 シラスウナギの不漁の原因は何なのだろう? 業界の人によると「ウナギの乱獲や、エルニーニョによる河川・海洋環境の変化などがあげられるが、実は、ハッキリとは分かっていない」という。

 2006年には、ニホンウナギの産卵場所がグアム島やマリアナ諸島の西側沖のマリアナ海嶺のスルガ海山付近ということが判明した。2009年には世界初の受精卵の採取に成功し、研究が進んでいる。2003年には、水産総合研究センターが、世界初の完全養殖に成功。しかし、完全養殖といっても数が少なく、コストもかかる。あくまでも試験段階というレベルの話。まだまだ、稚魚であるシラスウナギは天然に頼らざるを得ないのが現状だ。

 そんな中で、長年の謎であった。ウナギの幼生「レプトセファルス」の餌が「マリンスノー」であることを、東京大学とJAMSTECの研究チームが解明した。今後のウナギの完全養殖に向けた取り組みに役立つ情報である。将来は、国産のおいしいウナギを、いつでも手頃な値段で食べれるようになるかもしれない。


Leptocephalus

 ウナギの幼生は何を食べているのか?
 ウナギは日本人にとって長らく親しんできた食べ物である。しかし最近になって我が国のウナギの漁獲量は大幅に減少しており、環境省はニホンウナギを絶滅危惧種に指定する方針を固めるなど、ウナギを取り巻く環境は大きく変化しつつある。その一方で、食資源動物としてのウナギを安定的に確保するため、約50年間にもわたってウナギの完全養殖技術を確立する試みが続けられている。

 実験的には卵から育てた人工シラスウナギも得られるようになったが、これを産業化するにはまだコストや飼育技術に課題があり、大量かつ安定に生産するための研究が急がれている。特にウナギレプトセファルスの餌の開発は、完全養殖技術の確立に欠かせない鍵になると考えられており、そのことからも天然環境におけるウナギレプトセファルスの食性を理解することが緊急の課題とされていた。

 東京大学海洋研究所(現、東京大学大気海洋研究所)は、1970年代からウナギの産卵場調査を実施しており、研究船「白鳳丸」(現、JAMSTEC所属の学術研究船「白鳳丸」)を用いて、西部北太平洋で研究航海を続け、2009年5月、西マリアナ海嶺の南部海山域で、天然ウナギ卵31粒の発見・採取に成功し、同海域を産卵場と特定した。

 このような背景のもと、ウナギレプトセファルスの食性を解明するために東京大学大気海洋研究所の塚本教授とJAMSTECの大河内プログラムディレクターが協力して、JAMSTECで2009年に生物の食物連鎖の中での位置を特定するため開発した「アミノ酸の窒素安定同位体比を用いた栄養段階推定法」を応用した。


 アミノ酸の窒素安定同位対比を用いた栄養段階推定法
 まず、「アミノ酸の窒素安定同位体比を用いた栄養段階推定法」が実際にウナギレプトセファルスでも応用可能であることを確認するために、いらご研究所で実際に養殖されている人工のウナギレプトセファルスとその餌について分析した。その結果、この手法が、予想通りこの系についても成り立つことが明らかになった。

 次いで、実際に海洋で得られたウナギレプトセファルスを分析した。その結果、これらの試料の栄養段階が2.4(±0.13、個体数9)であることを見出した。

 これはどういうことかというと、アミノ酸の窒素安定同位体比を用いた栄養段階推定法による栄養段階は、植物プランクトンなどの光合成生物が1.0、これら植物プランクトンのみを食べる植食者(動物プランクトン)が2.0、さらに栄養段階が2.0の植食者だけを食べる魚が3.0というように、捕食関係で上位にある生物ほど数値が高くなるので、動物プランクトンと同等ということだ。

 これまでのウナギレプトセファルスの食性に関する体表栄養吸収説を除く3説の内、オタマボヤのハウス説やゼラチン質動物プランクトン説では、理論上ウナギレプトセファルスの栄養段階は3以上の値になるはずのため、今回の結果は、これらの説では考えにくいことを示している。

 つまり、2.4という低い栄養段階は植物プランクトンを専食する動物プランクトンの栄養段階に近く、植物プランクトンや動物プランクトンの遺骸が主体であるマリンスノー(栄養段階:1.0-1.5)をエサとすることで初めて説明が可能になるというわけだ。

 今回の研究により、ウナギレプトセファルスが、マリンスノーをエサとしていることが明らかになった。研究グループは今後、ウナギの産卵場海域における海洋環境、特に、マリンスノーについて生物学的、生化学的分析を進め、ウナギレプトセファルスの成長にとって必須栄養成分の解明、ひいてはウナギの完全養殖の早期実現への貢献に努めていくとしている。


 これまでの4つの説
 
体表栄養吸収説: ウナギレプトセファルスの消化管の組織学的研究から、消化管が機能的でないとして、ウナギレプトセファルスは一般の仔魚とは異なり経口的に餌を捕らず、その大きな体表から直接海の中の微量な栄養分を吸収するとしたユニークな学説。1986年にPfeilerが提唱。しかし現在では、ウナギレプトセファルスの消化管も一般の仔魚の消化管と同様の微細構造をもち、栄養を消化管壁から吸収することが組織学的に確かめられており、この説は否定された。

 マリンスノー説: 海洋表層で増殖した植物プランクトンや動物プランクトンは死後、細菌による分解を受けながら、小さな粒子となって凝集・拡散をくり返しつつ海底に向かって沈降していく。これら死骸の沈降がちょうど「海の雪」のように見えることからこの名がついた。Otakeらは1993年に走査型電子顕微鏡による観察から、沿岸で採れたマアナゴのレプトセファルスの消化管の中からマリンスノーを発見し、この説を提唱。2011年にウナギレプトセファルスの個体全体の安定同位体分析によって栄養段階がかなり低いことがMiyazakiらにより報告されたが、マリンスノー説を決定づけるまでには至っていなかった。

 オタマボヤのハウス説: オタマボヤは尾索動物(ホヤの仲間)に属する動物プランクトンで、世界中の海に分布する。体全体をすっぽり覆うように、ハウス(包巣)と呼ばれるゼラチン質の袋状構造物を作り、これを使って海洋中の微小な有機物を濾し採って食べる。このハウスはすぐに詰まってしまうので、一日に10回も古くなったハウスを脱ぎ捨て、新しいハウスを分泌する。したがって、海洋中にはオタマボヤのハウスが多数浮遊していると言われている。Mochioka & Iwamizuは1996年に走査型電子顕微鏡と光学顕微鏡による観察からマアナゴなど様々な種類のレプトセファルスの腸の中にオタマボヤのハウスを発見し、この説を提唱。同時に動物プランクトンの糞粒も発見しており、これらもまたウナギレプトセファルスの餌ではないかと示唆した。また2009年には産卵場において得られた摂餌開始期のニホンウナギのレプトセファルスから、オタマボヤのハウスを多数発見している。

 ゼラチン質動物プランクトン説: Riemannらは2007年にヨーロッパウナギの小型レプトセファルスの消化管の内容物について遺伝子解析を行い、ウナギレプトセファルスの餌として、微小なクラゲなどの、ゼラチン質の動物プランクトンが有力であるとの説を提唱した。国内でも同様な手法でニホンウナギの消化管内容物が調べられたことがあるが、特定の餌となる生物は出てこなかった。


 “マリンスノー”とは何か?
 マリンスノー(英: Marine snow)は、肉眼で観察可能な海中懸濁物のことである。海中の様子を撮影した映像、写真等で雪のように見える白い粒子がマリンスノーである。マリンスノーは海中を沈んでいき、やがて海底に降り注ぎ堆積する。地上に降る雪とは異なり、マリンスノーは様々な形、大きさをしたものが同時に存在する。球状、彗星状、糸状、平板状など様々な形をしたものがあって、大きいものは10cmを超すものもある。これらのマリンスノーは世界中の海洋で見ることができる。

 1950年代、北海道大学の研究者達は潜水球「くろしお号」に乗り込み、海中の調査を行っていた。その際、海中の懸濁物がライトの光に照らされ、雪のように白く見えたことから、彼らはマリンスノー(海に降る雪)と名付けた。現在では世界中でこの言葉が使われている。

 マリンスノーの正体はプランクトンの排出物、死骸、またはそれらが分解されたもの、もしくは物理的に作られた粒子である。言い換えると肉眼的大きさで水中を漂うデトリタスである。

 よってプランクトンなどが少なく透明度の高い熱帯の海中よりもプランクトンが多く魚などがたくさん棲息する温帯や寒帯の海中の方が多く見ることができる。また、駿河湾や相模湾など、沿岸部で急激に深くなっている海域では、川や都市から流れてくる有機物によってプランクトンが多く発生し、そのため沢山のマリンスノーを見ることができる。

 マリンスノーは1日に数十mから数百mの速さで沈んでいき、やがて深海に生息する生物の餌となる。深海は太陽の光も届かないため、浅い海に比べて生息する生物の数が極端に少なくなるので、深海に生息する生物にとっては貴重な栄養源となる。

 また、マリンスノーの主な成分は炭素である。海洋全体を浮遊しているということを考えると、それらは膨大な量の炭素を保有していると考えられるので、地球における炭素循環において無視できない。(Wikipedia)


参考HP Wikipedia:マリンスノー JAMSTEC:ウナギの幼生の食性を解明


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