ミドリムシ原料のプラスチック

 ミドリムシ(ユーグレナ)はわずか体長約0.1ミリ、水田などどこにでもすむ。緑色の動物という、その姿が話題になるが、注目すべきはその光合成能力である。CO2の吸収能力は、熱帯雨林の数十倍にも達する。

 ミドリムシは、食べてもすごい。豊富なビタミンやミネラル、アミノ酸、そしてDHA、EPAなど、人間が生活するのに必要なカロリー以外の栄養が全てがそろう成分を持つ。さらに、ミドリムシなどの藻類は、細胞内に脂質が多く、細胞を壊して化学処理すれば良質なバイオディーゼル燃料にもなる。

 さらに、バイオ燃料の原料となる油脂分を抽出した後の残渣を利用した飼料も高い栄養価を備えており、養殖魚への飼料としても、長年研究されており、不飽和脂肪酸であるDHAを含有していて、マダイやヒラメの稚魚、仔魚に与えることで、生存能力、活力を向上させるというデータが論文から得られている。

 そして、今回、ミドリムシからの抽出成分を主原料とした「微細藻バイオプラスチック」が開発された。従来のバイオプラスチックや石油樹脂などに劣らない耐熱性と熱可塑性をもつという。開発したのは、産業総合研究所、NEC、宮崎大学の研究チーム。どのようなプラスチックなのだろうか?


Euglena

 発表によると、このプラスチックは、ミドリムシが細胞内に大量に産生する多糖類「パラミロン」に、同じくミドリムシ由来の油脂成分(ワックスエステル)から得られる長鎖脂肪酸、およびカシューナッツの殻由来の油脂成分「変性カルダノール」を付加して合成した。植物成分率は約70%と高い。

 各種物性を測定したところ、衝撃強度については改善の余地があるが、熱可塑性については、従来のバイオプラスチックの「ポリ乳酸」や「ナイロン11」、可塑剤を添加した酢酸セルロース、石油由来のABS樹脂と同等レベルだった。耐熱性(加熱による変形のしにくさ;ガラス転移温度)については、これらのプラスチックよりも優れていることが分かった。(サイエンスポータル 2013年1月9日)


 化石燃料・陸上植物には限界あり 

 地球温暖化に対する危機感が増す昨今、石油由来製品を代替する植物由来資源の活用に注目が集まっている。プラスチックは全世界で年間約2.3億トン(国内では約1,300万トン)も生産されるが、ほとんどのプラスチックは石油由来のモノマーを高温・高圧条件下で反応させて作られるため、プラスチック生産過程で発生する温暖化ガスの量や製造に要するエネルギーは膨大なものとなる。

 また、石油由来製品を代替する植物由来資源は、将来予想される数千万トンレベルの需要に対して陸上植物の利活用だけでは供給が賄えないリスクがある。さらにその素材は食糧と競合しない非食用であることが望まれている。しかし藻類プラスチックの生産に限らず、微生物や生体触媒を利用した生産技術では、製造エネルギーに対し節約できるエネルギーの収支を上げていくことが大きな課題となっている。

 この研究開発は、独立行政法人 科学技術振興機構の委託事業「先端的低炭素化技術開発:ALCA(平成23~28年度)」の研究テーマ「非食用の多糖類を利用したバイオプラスチックの研究開発」(代表:NECスマートエネルギー研究所 位地 正年 主席研究員)の一環として行われてきた。

 この研究は、安定供給が可能なセルロースなどの非食用植物資源由来の多糖類を利用して、高い温暖化ガス削減効果を実現する革新的なバイオプラスチックの開発を目的としている。

 今回、多糖類原料として、陸上植物だけでの供給リスクを回避し、多糖類の分子構造の多様化によるバイオプラスチックの機能性向上を目指して、ミドリムシが産生する多糖類(パラミロン)を主骨格とする微細藻バイオプラスチックの開発に取り組んだ。

 一般に水中で光合成する微細藻類は、陸上植物よりも太陽エネルギー利用効率が高く、特にミドリムシは高濃度の二酸化炭素を直接利用でき、高い光利用効率の実現が可能である。このようなことからバイオプラスチック原料の供給源として選択した。さらにミドリムシは、食品工場などの安全な廃液を用いた培養が可能であるため、結果的にプラスチック製造にかかるエネルギーの削減につながりうると期待されている。(産総研)


 ミドリムシの多糖類に長鎖脂肪酸を付加

 今回開発した微細藻バイオプラスチックは、ミドリムシがその細胞内に大量に産生する多糖類(パラミロン)に、ミドリムシの細胞内でパラミロンが分解されて生成するワックスエステルから合成される長鎖脂肪酸、あるいはカシューナッツ殻から抽出される油脂(カルダノール)から合成される変性カルダノールを付加させて合成した。図1に各化合物の構造式と製造工程を示す。

 主原料である多糖類はβ-1,3-グルカンであり、グルコースが数多く連なってできた天然高分子である。また、樹木などを構成するセルロース(β-1,4-グルカン)も同じくグルコースが連結した高分子であるが、両者のグルコース間の結合様式が異なるため、セルロースはシート構造をとるのに対し、今回用いたβ-1,3-グルカンは一重または三重らせん構造をとり、立体構造に大きな違いがある(図2)。

 作成した微細藻バイオプラスチックについて各種物性測定を行ったところ、衝撃強度などについては改善の余地があるものの、熱可塑性については、従来のバイオプラスチック(ポリ乳酸やナイロン11)や可塑剤を添加した酢酸セルロース、石油由来のABS樹脂と同等レベルであった。また耐熱性については、これらのプラスチックよりも優れていることがわかった(図3)。なおカルダノキシ酢酸とワックスエステル由来の長鎖脂肪酸それぞれを導入して調製したプラスチックには大きな物性の差は見られない。

 今後は微細藻バイオプラスチックの物性と構造の詳細な関係を明らかにし、さらに高い耐熱性や強度などの優れた実用特性を目指し、分子設計を推し進めていく予定である。またミドリムシの効率的な培養方法やパラミロンの抽出方法など、微細藻バイオプラスチック製造に不可欠な技術についても研究を行う。(産総研)


 ミドリムシとは何か?

 ミドリムシとは、ミドリムシ植物門 ミドリムシ綱 ミドリムシ目 に属する鞭毛虫の一種である。属名は euglena(eu 美しい + glena 眼点)。名称としてミドリムシの代わりに「ユーグレナ」を用いる場合も多く、ユーグレナ植物と呼ぶ事もある。古くはユーグレムシの名称が使われたこともある。

 淡水ではごく普通に見られる生物である。止水、特に浅いたまり水に多く、春から夏にかけて水田ではごく頻繁に発生する。水温が上がるなどして生育に適さない環境条件になると、細胞が丸くなってシスト様の状態となり、水面が緑色の粉を吹いたように見える。

 ミドリムシは0.1mm以下の単細胞生物で、おおよそ紡錘形である。二本の鞭毛を持つが、一本は非常に短く細胞前端の陥入部の中に収まっている為、しばしば単鞭毛であると誤記述される。もう一方の長鞭毛を進行方向へ伸ばし、その先端をくねらせるように動かしてゆっくりと進む。細胞自体は全体に伸び縮みしたり、くねったりという独特のユーグレナ運動(すじりもじり運動)を行う。この運動は、細胞外皮であるペリクルの構造により実現されている。ペリクルは螺旋状に走る多数の帯状部で構成されており、一般的な光学顕微鏡観察においても各々の接着部分が線条として観察される。細胞の遊泳速度もさほど速くないので、初歩的な顕微鏡観察の題材に向く。

 鞭毛の付け根には、ユーグレナという名の由来でもある真っ赤な眼点があるが、これは感光点ではない。感光点は眼点に近接した鞭毛基部の膨らみに局在する光活性化アデニル酸シクラーゼ(PAC)の準結晶様構造体である。真っ赤な眼点の役目は、特定方向からの光線の進入を遮り、感光点の光認識に方向性を持たせる事である。

 細胞内には楕円形の葉緑体がある。葉緑体は三重膜構造となっており、二次共生した緑藻に由来する(→細胞内共生説参照)。従って緑藻同様、光合成色素としてクロロフィルa、bを持つ。ミドリムシでありながらオレンジ色や赤色を呈する種もあるが、これは細胞内に蓄積されたカロテノイドやキサントフィルによるものである。細胞内には貯蔵物質としてパラミロンというβ-1,3-グルカンの顆粒も見られる。(Wikipedia)


参考HP 科学技術振興機構:ミドリムシを主原料とするバイオプラスチック アイラブサイエンス:ミドリムシは救世主?食料、バイオ燃料、飼料に


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