南極の氷の下に複数の湖
 2012年2月、南極の氷床の下にあるボストーク湖の調査を目指すロシア北極南極科学調査研究所(サンクトペテルブルク)は8日、同国調査隊が氷床を深さ約3800メートルまで掘削し、1989年の掘削開始以来初めてドリルが同湖に達したと発表した。

 ロシアの北極南極科学調査研究所の発表によると、ドリルの先端は、モスクワ時間2月5日午後8時25分に氷床面から3769.3メートル下にある湖の表面に到達した。調査の手が氷底湖に実際に及んだのは世界初のことだった。

 今年は、このときに開けた掘削穴に湖水が上昇、その氷の回収に今季は力を入れるという。ロシアチームは2012年12月に挑戦を再開し、2013年2月初旬まで滞在する。果たして南極の氷底湖に微生物が存在するのだろうか?

 氷底湖の調査はボストーク湖だけではない。現在、ロシア以外に、イギリスやアメリカの研究チームが、最近まで存在すら知られていなかった3つの氷底湖でそれぞれ作業を進めている。彼らが競うのは、極の厚い氷の下で封印され、原始的な状態を保ってきた湖で生命体を発見し、素性を明らかにするという学術的に重要な使命だ。


Subglacial lake

 現在最も注目を集めているのはイギリスチーム。目指すは、西南極氷床の下、およそ3200メートルにあるエルスワース湖。 2012年12月12日に開始された掘削作業は、現在約61メートルで中断している。

 アメリカチームはウィランズ湖に向けて掘削作業を行っている。氷床下水系「ウィランズ氷流」の一部で、作業地点から約1120キロ先でロス海に流れ込む。専門家らは、微生物が生息する可能性が最も高いのはウィランズ湖と見ている。2013年1月に熱水掘削を開始した。


 ウィランズ湖
 2013年1月28日、50名からなる米国の調査チームは、氷河の下に横たわる50立方キロのウィランズ湖に到着した。そして掘削孔が閉じ始めるまで、24時間沈まない太陽の下で2日間サンプルの引き上げを行った。掘削に1日、サンプル回収に2日かかったことになる。

 調査チームは、南極の氷床の下800メートルもの深くに眠る湖で、すでに微生物を確認した。この発見は、木星や土星の衛星のように氷で覆われた天体に何が存在するのかという疑問へ光明を投じる可能性がある。米国内で徹底した研究を行うため、ウィランズ湖の水や湖底の堆積物とともに、生命体を収めた多数の培養器が持ち帰られる。

 調査チームの一員ブレント・クリストナー(Brent Christner)氏は、ウィランズ湖で数週間の調査を終え、米マクマード南極基地に戻ってインタビューに答えた。同氏によれば新たに見つかった生命体は、地表の生物との繋がりをほとんど持たず、多くは「岩を食べて」生きているようだという。

 そして今回の発見は、木星や土星の衛星のような天体において、炭素不足のなかで生命がどのように生きていくのかを明らかにするかもしれない。「ウィランズ湖の生命体が触れている環境は、氷の天体がそうなっているだろうと思われる環境にそっくりだ」とクリストナー氏は語る。

 同氏によれば「今回の発見は地球の極限生命について多くのことが分かる」という。そして同様の生命体が、地球外でどうやって生きているのかも教えてくれる。(Marc Kaufman for National Geographic News February 6, 2013)


 氷の中の暮らし
 まず取り組むことは、ウィランズ湖で今回発見した微生物が掘削の際に持ち込まれたものではないと確認することだ。ケロシンを使った掘削による汚染を回避するため、熱水ドリルを用いたとクリストナー氏は説明した。

 同氏によれば、微生物のDNAを確認するために通常用いられる染料を水に投入したところ、確実に微生物が存在することを示す緑色の輝きがはっきりと現われたという。

 ウィランズ氷河底湖調査プログラムWISSARDの主任生物学者でモンタナ州立大学のジョン・プリスク(John Priscu)氏は、掘削現場で行った作業によって、微小細胞が実在し生きていることを確認したと語った。

 「ウィランズ氷河の下にある氷底湖には微生物集団が存在し、それらがマイナス0.5度の暗く冷たい環境下で成長していると言って問題ないと思う」とプリスク氏はメールで説明した。

 そして米国内におけるDNA調査によって「それらがどんな生物か判明し、別の実験とも組み合わせればどのように生きているのか分かるだろう」という。


 氷床に隠された湖
 南極の氷床下深くに横たわる大規模な湖や川を掘削するプロジェクトは、米国以外にも2つの調査チームが進めている。

 より深いエルスワース湖の掘削を目指す英国チームは、機材の不調により昨年12月に帰還を強いられた。しかしロシアチームでは、ボストーク湖からの湖水コア回収作業が進行中だ。

 昨年2月、ボストーク湖では南極氷床下4キロメートルの深さからコアが引き上げられ大きな話題を呼んだ。この湖は南極氷底湖の中でも最も深く最も大きい部類に属する。ボストーク湖とエルスワース湖はどちらもウィランズ湖よりも冷たい氷の下に存在しているが、出入りする地下水流はウィランズ湖ほど深くないと考えられている。

 南極氷底湖の存在が確認されたのは比較的最近のことで、その大きさが把握できたのはほんの数年前だ。2007年に、スクリップス海洋研究所の氷河学者でウィランズ湖の主調査員であるヘレン・フリッカー(Helen Fricker)氏が初めてウィランズ湖に言及した。

 フリッカー氏らは衛星データを用いて、ウィランズ氷河の表面が2003年から2006年までの間、定期的に上下していることを発見し、その下には湖がある可能性が高いと結論した。

 地球の淡水の約90%が南極大陸に存在するため、地球温暖化の時代にあって南極氷床の動きが持つ重要性は非常に大きくなっている。南極の氷底湖自体は温暖化の影響を受けないとはいえ、氷床との関わり合いを探ることは、今後の南極氷床の振る舞いを予測する上で重要だ。

 たとえば、氷床のどの部分が周辺の海に向かってより速く動くのか解明することは、WISSARDプロジェクトの重要な目的の一つとなっている。アメリカ科学財団は西南極大陸氷床の生物学、氷河、氷の移動について解明すべくプロジェクトを進めており、WISSARDはその一環だ。(Marc Kaufman for National Geographic News February 6, 2013)


 氷底湖とは何か?
 氷底湖(subglacial lake)は、氷河の下、一般的には氷冠か氷床の下にある湖である。その数は多い。2010年の時点で分かっている氷底湖の内、一番大きいのは南極にあるボストーク湖である。

 南極については、2009年、124の氷底湖をのせた地図が出版された。124のうちほとんどはNASAの人工衛星、ICESatによって新しく発見されたものである。内陸の湖は安定している傾向がある一方で、海岸近くの湖の多くはかなり変わる。いくつかの湖は何百キロメートルもの長さの運河のような構造で繋がっている。

 氷河の下にある水は潤滑剤として働き、氷が海へ流れる速さを加速し、ひいては海面上昇も引き起こす。

 南極以外の氷底湖としては、木星の衛星「エウロパ」に氷底湖があるとされている。一年中溶けない氷で覆われているのが氷底湖というわけではなく、溶けることもある氷に覆われていても氷底湖である。氷河の基準は流れているかどうかであり、氷は厚さが約30メートル以上にならないと流れない。従って、全面結氷した湖が氷底湖になることはまずない。

 地熱による加熱と氷表面における熱損失のバランスが取れているため、氷の下の水は液体の状態を保つ。氷の圧力が水の融点を0°C以下としている。氷底湖の天井はちょうど水の圧力融解点と温度勾配が交わるところと考えられる。故に、ボストーク湖では湖の上の氷は周りの氷床よりもずっと厚い。(Wikipedia)


 我が国の南極の氷床コア
 南極の氷掘削については、我が国も負けてはいない。ドームふじ基地は、南極における日本の氷床深層コア掘削拠点だ。同基地の年平均気温は-58°C,標高は3810mで、南極でも最も自然環境が厳しい基地のひとつである。

 1995年から1996年にかけて、深さ2504m、時間にして過去34万年にもおよぶ氷床コアが国立極地研究所を中心とした日本の雪氷グループによって掘削された。この氷床コアは、ロシアのボストーク基地で掘られたコアに次いで世界で2番目に遠い過去まで遡れる、たいへん貴重な研究試料だ。東北大学理学部では、このコアの空気成分の分析を行った。

 ドームふじ氷床コアからは、過去34万年にわたる気温と大気中の二酸化炭素(CO2)濃度の変動などがわかった。海水面は大陸上にある氷の量で決まり、最も海面が下がった時期には、南極氷床2個分に匹敵する膨大な量の氷が、アメリカ大陸やヨーロッパを中心とした陸地を覆っていた。気温と海水面変動とが調和的に変動していることから、南極内陸の気候がグローバルな気候と調和的に変動していたことも確認された。

 過去34万年の間には、温暖かつ海水面が現在と同じくらいの「間氷期」が現在を含めて4回あり、それ以外の時期の大部分は寒冷な「氷期」だったことが分かる。CO2濃度は南極の気温と密接に関係していて、間氷期に高く氷期に低いことから、気候変動によって温室効果気体の循環が大きく変化していたことが分かる。

 さらに、氷期から間氷期に向かって気温が急上昇するとき、CO2濃度も同期して上昇している。これは、氷期-間氷期の移行初期の温暖化がCO2濃度を上昇させ、その温室効果によってさらに温暖化が進み、それがCO2濃度をさらに上昇させるといった、気候とCO2の間の正のフィードバック、あるいはCO2による気候変動の増幅作用が、過去に働いていたことを示唆している。(東北大学・大気海洋変動観測研究センター)


参考HP Wikipedia:氷河湖 National Geogeraphic news:南極の氷底湖で初の生物発見か


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