かむことで注意力と判断速度がアップ
 最近は歯が悪くなって、おいしい食事もしっかり噛むことができなくなってきた。歯は大切だと思う。

 歯は噛むだけでなく さまざまな健康効果も報告されている。覚醒効果やリラックス効果、肥満、ぼけ、視力低下、姿勢悪化、虫歯、ガンなどを予防し、内臓の働きを助け、大脳の働きを活発にし、精神を安定させる効果もある。そして、よく噛むことであごの筋肉を使うため、あごが引き締まり顔がすっきりするともいわれる。

 今回、しっかり噛むことが、注意力を増し、判断するスピードも速めることが、放射線医学総合研究所の平野好幸客員協力研究員と神奈川歯科大学の小野塚実・元教授らの共同研究で分かった。脳活動の変化を「fMRI(機能的磁気共鳴画像法)」で画像化して調べたもので、かむ動作が認知機能に影響を与える仕組みの解明につながるという。

 研究チームは、20-34歳の17人にガムをかんでもらい、その後、数秒から十数秒の間隔でスクリーンに映る矢印の左右を当てる検査「注意ネットワーク賦活テスト」をした。同テストは「もうすぐ映る」という合図の有無や、矢印の左右の判別を難しく(妨害)する別の矢印の有無により、注意に関する脳内ネットワークがどう変わるかをみる検査で、その時の脳活動の変化をfMRIで画像化し、かむ動作を伴わない場合とで比較した。


 その結果、かむ動作を伴う場合は、妨害の有無と合図の有無の全ての組み合わせで、応答速度の平均値が下がった(応答速度が速まった)。特に「合図あり・妨害なし」と「合図なし・妨害あり」の場合に、かむ動作による反応効果が有意に大きかった。またfMRIの結果から、テスト中には大脳の前頭前葉の内側にある「前帯状回」や「左前頭前皮質」(左上前頭回と左中前頭回)などの、注意に関わる脳部位の活動を増強させることも分かった。

これらのことから、かむ動作によって注意ネットワークが活性化されることで、判断速度が向上し、注意力が高まっていることが示された。かむ動作の与える影響をfMRIで画像化に成功したのは、世界で初めてのことだという。(サイエンスポータル 2013年2月21日)


 かむことの効果をfMRIで画像化に成功
 近年、ものをかむ動作はこれらの認知機能の成績の改善をもたらすということが明らかとなってきました。しかし、そのメカニズムは、初期の局所脳血流やグルコース運搬の増加の仮説から、近年のかむ運動による交感神経系や網様体賦活系による覚醒レベル(刺激に対する応答性のレベル)の上昇、気分や不安水準の変化による覚醒レベルの上昇といった仮説まで、いろいろと提唱されているが、依然として不明のままである。

 そこで、本研究では、多くの統一された研究報告がある「かむ動作が注意の向上と認知課題の実行速度を増加する」という現象について、そのメカニズムを解明するために脳活動部位の変化を調べた。

 同研究グループはかむことが脳にもたらす影響を解明するために、17名の被験者に、かむ動作の前後で、合図や妨害を受けながら目の前の矢印の方向を答える「注意ネットワーク賦活テスト」を行い、その際の脳活動の変化を、脳の血流量などを画像化するfMRIを用いて、それぞれ1回ずつ、計測した。

 その結果、かむ動作は注意ネットワーク賦活テストの回答時間を短縮させるとともに、前帯状回と左前頭前皮質などの注意に関わる領域の活動を増強させることがわかった。これは、かむ動作により注意力が高まり、判断速度が向上していることを示唆するものである。このようにかむ動作が注意ネットワーク賦活テスト中に与える影響をfMRIで画像化に成功したのは世界でも初めて。本成果によって、かむ動作が認知機能に影響を与えるしくみを解明することが期待される。また、頭頸部のがんにおいて、かむ機能を温存できる重粒子線がん治療などの非侵襲的な治療の大切さを示す成果でもある。

 本研究成果は平成25年1月29日に米科学誌Brain and Cognitionオンライン版に掲載された。(2013年 1月31日 放射線医学総合研究所)


 かむことは認知症にもよい
 小野塚さんらはこれまで、65歳以上の高齢者1000人以上を対象に、かむことと記憶の関係について調べてきた。64枚一組の写真を覚えてもらい、一部を差し替えたもう一組の写真を見て「同じものを見たかどうか」を答えてもらうテストで、約2割の人はガムを2分間かんだ後に記憶してもらったときのほうが、かまずに記憶したときより正答率が15%以上アップした。

 東北大などが仙台市内の70歳以上の高齢者約1200人を対象に実施した調査では、健康な人は平均14.9本の歯が残っていたのに対し、認知症の疑いのある人は9.4本だった。脳をMRI(磁気共鳴画像化装置)で調べると、歯が少ない人ほど、記憶に関係する海馬付近の容積が減少していた。小野塚さんは「歯を使ってかむという行為自体に、認知機能にプラスの効果があるのではないか」と見る。

 泰羅雅登・東京医科歯科大教授(神経生理学)によると、よくかむからといって、アルツハイマー病や脳血管疾患など認知症の原因を予防できるという根拠はないものの、脳に刺激を与え続ける一つの方法にはなりうるという。

 咀嚼は脳を覚醒  脳からあごを動かす筋肉に信号を伝える「三叉(さんさ)神経」は、歯ごたえなど歯や口の粘膜の感覚を脳に伝えるルートでもある。三叉神経は、覚醒(頭がさえた状態)をコントロールする「脳幹」と呼ばれる部分につながっているため、何かをかんで脳幹に刺激が伝わると脳の覚醒につながるという。泰羅さんは「ガムをかむと頭がすっきりするといわれるのは、三叉神経を介したこうした働きも関係している」という。

 だが、かんで食べるという行為は非常に複雑で、脳との関係についてはまだ分からないことも多い。例えば、あごと舌では、それぞれ動かしたときに働いている脳の領域が少し異なるという。泰羅さんは「咀嚼は、大脳の内側の大脳辺縁系がつかさどる本能的なシステム(生きるために食べること)と、大脳新皮質がコントロールする人間の意思や理性に関係するシステム(楽しんで食べること)の両方が、うまくバランスをとっていると考えられ、非常に興味深いメカニズムだ」と話す。


参考HP 放射線医学総合研究所:かむことで注意力と判断力が向上 アイラブサイエンス:咀嚼は大切


咀嚼の本―噛んで食べることの大切さ
クリエーター情報なし
口腔保健協会
噛めば噛むほど子どもは伸びる! ―『噛むこと』を考える本
クリエーター情報なし
現代書林

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