1962年ノーベル生理学・医学賞
DNAというと、デオキシリボ核酸(deoxyribonucleic acid)のことで、遺伝子の本体である。DNAの塩基配列が遺伝情報を伝えることがわかっている。地球上のあらゆる生物の遺伝情報を担う物質となっている。(大部分のウイルスはRNAが遺伝情報を担っている)
DNAの構造はどうなっているのだろうか?
DNAは2本の鎖状ポリヌクレオチドが一組となっている。もうひとつのDNA鎖は、シャルガフの法則による相補的な塩基 (A/T, G/C) による緩やかな水素結合を介して、全体として二重らせん構造をとる。
この二重らせん構造は、1953年にジェームズ・ワトソンとフランシス・クリックによって提唱された。このDNA分子模型の構築は、モーリス・ウィルキンスとロザリンド・フランクリンによってすすめられていたX線結晶構造解析の画像及び解析情報やエルヴィン・シャルガフによって示されていたDNA塩基存在比の法則などのDNAに関する既知情報をすべて満足させるように配慮しながら行われた。
この功績により1962年、ワトソンとクリックはウィルキンスとともにノーベル生理学・医学賞を受賞した。しかし、DNAの二重構造はこれまで誰も目で確認したわけではなかった。
今回、京都大学の研究グループは、独自に開発した「周波数変調(FM)原子間力顕微鏡(AFM)」によって、水溶液中にあるDNA(デオキシリボ核酸)の二重らせん構造を撮影した。二重らせん構造の基本部分を明瞭にとらえたのは世界で初めてのことである。
世界初!DNA二重らせんを直接撮影
京都大学工学研究科の山田啓文・准教授や京都大学産官学連携本部の小林圭・助教らのグループは、独自に開発した「周波数変調(FM)原子間力顕微鏡(AFM)」によって、水溶液中にあるDNA(デオキシリボ核酸)の二重らせん構造を撮影した。従来のAFMでは観察できなかった二重らせん構造の基本部分も明瞭にとらえられた。
周波数変調原子間力顕微鏡(FM-AFM)は、液体中で探針と試料との間に働く微弱な力(原子間力)を測定しながら、試料の上を探針でなぞることによって画像化する。従来のAFMでは、探針を試料に接触させて測定するため、試料の構造変化やダメージが問題となっていたのに対し、FM-AFMは非接触で測定するので、DNAやタンパク質分子などの柔らかい生体分子試料を破壊することなく、液体中で“生きたまま”の状態をナノ(1メートルの10億分の1)スケールで観察できる。
DNAの二重らせん構造は1953年に、ジェームズ・ワトソン(1928年-)とフランシス・クリック(1916-2004年)の2人が解明した(1962年ノーベル医学生理学賞受賞)。これまでのエックス線や電子顕微鏡による解析ではDNAの結晶化が必要だったが、研究グループはFM-AFMで大腸菌のプラスミドDNAを直接観察し、二重らせん構造によって交互に現れる、幅の広い溝(主溝)と幅の狭い溝(副溝)の様子も分かった。
研究論文“Beyond the Helix Pitch: Direct Visualization of Native DNA in Aqueous Solution” は米国化学会誌「ACS Nano」(2013年2月号) に掲載され、写真は表紙にも採用された。(サイエンスポータル 2013/02/28)
DNAとその二重構造とは何か?
デオキシリボ核酸(deoxyribonucleic acid、DNA)は、核酸の一種である。高分子生体物質で、地球上のある程度の生物において、遺伝情報を担う物質となっている。(大部分のウイルスはRNAが遺伝情報を担っている)
DNA はデオキシリボース(五炭糖)とリン酸、塩基 から構成される核酸である。塩基はプリン塩基であるアデニンとグアニン、ピリミジン塩基であるシトシンとチミンの四種類あり、それぞれ A, G, C, Tと略す。2-デオキシリボースの1'位に塩基が結合したものをデオキシヌクレオシド、このヌクレオシドのデオキシリボースの5'位にリン酸が結合したものをデオキシヌクレオチドと呼ぶ。
ヌクレオチドは核酸の最小単位であるが、DNAはデオキシヌクレオチドの高分子である。核酸が構成物質として用いる糖を構成糖と呼ぶが、構成糖にリボースを用いる核酸はリボ核酸 (RNA) という。ヌクレオチド分子は、糖の3’位OH基とリン酸のOH基から水が取れる形でフォスフォジエステル結合を形成して結合し、これが連続的に鎖状の分子構造をとる。ヌクレオチドが100個以上連結したものをポリヌクレオチドと言うが、これがDNAの1本鎖の構造である。DNAには方向性があるという。複製の際、DNAポリメラーゼは5'から開始し、3'の合成で終えるからだ。転写のときもこの方向性に従う。
DNAは2本の鎖状ポリヌクレオチドが一組となっている。もうひとつのDNA鎖は、シャルガフの法則による相補的な塩基 (A/T, G/C) による緩やかな水素結合を介して、全体として二重らせん構造をとる。A/T間の水素結合は2個、C/G間は3個であり、安定性が異なる。塩基の相補性とは、A、T、G、Cの4種のうち、1種を決めればそれと水素結合で結ばれるもう1種も決まる性質である。2つのヌクレオチド鎖が互いの方向に逆となるよう水素結合で結ばれるために二重らせんとな。
二重螺旋構造は、通常右巻きの螺旋を持ち、これはB形DNAと言う。細胞の種類によっては、部分的な左巻き螺旋構造を有する場合があり、これはZ形DNAと呼ばれる。
この相補的二本鎖構造の意義は、片方を保存用(センス鎖)に残し、もう片方は、遺伝情報を必要な分だけmRNAに伝達する転写用(アンチセンス鎖)とに分けることである。また、二本鎖の片方をそのまま受け継がせるため、正確なDNAの複製を容易に行うことができるため、遺伝情報を伝えていく上で決定的に重要である。さらにまれに起こる損傷の修復にも役立つ(詳しくは二重らせん)。多くの場合、DNAは環状構造をとっている。
二重らせんの主要な特徴
DNAの二重らせん構造。主溝 (major groove) と副溝 (minor groove) が示されている。
二重らせんはDNAに関する多くの研究の中からワトソンとクリックのたどり着いた最も理想的なモデルだが、その構造には7つの重要な特徴が強調される。なお、DNAの構造は3種類あるが、次の特徴はB-DNAのもの。
1.二重らせんは2本のポリヌクレオチドから形成される。
2.プリンおよびピリミジン環は二重らせんの内部に配向している。
3.相補的な関係にある塩基は水素結合によって結ばれている。
4.らせん1回転あたり10.4塩基対存在する。
5.二重らせんの2本のポリヌクレオチドはそれぞれ方向が逆である(逆平行である)。
6.二重らせんには主溝と副溝の2種類の溝がある。
7.二重らせんは右巻き(右手)である(右方向へまわりながら下る螺旋階段をイメージ)。
以上が7つの特徴だが、1. の特徴が中でも証明に困難を要した部分と言われている。光学異性体の研究で有名なライナス・ポーリングもDNAの立体構造について研究し、ワトソンとクリックの論文の数ヶ月前に三重らせんモデルを提案している。後にDNA密度測定により二重らせんが正しいことが証明された。
2. の特徴はプリン、ピリミジン環が内部であると同時に糖-リン酸に関しては外部に配向していることを説明している。なおプリン、ピリミジン環はらせん軸に対してほぼ直角に傾いている。
3.の特徴はエルヴィン・シャルガフによって提案された塩基存在比の法則(後述)の証明となった。後にアデニン (A) とチミン (T) の間に2本の、グアニン (G) とシトシン (C) の間に3本の水素結合が存在することが示された。(詳しくは相補的塩基対)
4. の特徴はDNAの二重らせんの数字的な部分も説明しており、例えばらせん一回転あたり螺旋軸の長さは34オングストローム (Å)(この長さをピッチ) 、したがって螺旋軸に沿った塩基対間の距離は3.4Å(この長さをライズ)、らせんの直径は20Åである。
5. の特徴は逆平行の二本鎖DNAのみが二重らせんを構築できることを説明している。デオキシリボースの5'側の配列を上流、3'側の配列を下流とする。
6. の特徴は二重らせんは完全に規則正しいらせんを描いているわけではないことをあらわしている。塩基の積み重なりと糖ーリン酸骨格のねじれの関係上、完全に規則正しい二重螺旋から鎖がずれ、螺旋に長さの違う2種類の溝が存在する。大きなほうを主溝、小さなほうを副溝という。主溝と副溝の存在はDNAの複製や遺伝子発現時に重要な立体構造であると考えられている。
7. の特徴は例外的であり、後述するがZ型DNAでは逆の左巻き(左手)のらせんを示す。Z型は従来は人工的なものと考えられてきたが、実は生体内でもこのような構造を取りうることが最近の研究でわかってきている。しかし、生物の有する大半のDNAは右回りであることは間違いない。(Wikipedia)
参考HP マイナビニュース:京大DNAの二重らせんの直接観察に成功 Wikipedia:DNA二重らせん
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