冷たい暗黒物質・熱い暗黒物質
ダークマターとは、宇宙にある星間物質のうち電磁相互作用をせずかつ色電荷を持たない、光学的には観測できないとされる仮説上の物質である。「暗黒物質」とも呼ばれる。"人間が見知ることが出来る物質とはほとんど反応しない"などともされており、そもそも本当に存在するのか、もし存在するとしたらどのような正体なのか、何で出来ているか、未だに確認されておらず、不明のままである。
ダークマターの正体は何だろうか?2003年から、宇宙背景放射を観測するWMAP衛星の観測によって、宇宙全体の物質エネルギーのうち、74%が暗黒エネルギー、22%が暗黒物質で、人類が見知ることが出来る物質の大半を占めていると思われる水素やヘリウムは4%ぐらいしかないことが分かってきている。
具体的に何が暗黒物質として宇宙の質量の大半を占めているかであるが、その候補は大別して素粒子論からの候補と天体物理学からの候補に分けることができる。素粒子論からの候補はWIMPと呼ばれ、さらに熱い暗黒物質と冷たい暗黒物質の2種類に分けられる。
宇宙の晴れ上がりの時に、運動エネルギーが質量エネルギーを上回っていたものを「熱い暗黒物質」、そうではないものを「冷たい暗黒物質」と呼ぶ。現状の本命は冷たい暗黒物質シナリオであるが、決定的な弱点はその候補粒子が未だ見つかっていないことである。
今回、50個の銀河団におけるダークマター分布を調査したところ、「冷たい暗黒物質モデル」と呼ばれる理論から予測される分布と一致する結果が示された。従来の研究では銀河団中心への集中度が大きい、つまり冷たいダークマターモデルと一致しない結果が報告されていたが、今回の結果は有力モデルを支持するものとなる。
銀河団50個のダークマター分布、「冷たい暗黒物質」モデルと一致
「ダークマター(暗黒物質)」は、電磁波による観測で直接見ることはできないが重力的な影響からその存在が確認されている物質で、宇宙の物質の約85%を占めると考えられている。しかし、その正体は未解決のままだ。
ダークマターについて現在もっとも有力なモデルは「冷たいダークマター」と呼ばれるものだ。「冷たい」とは熱運動の速度がひじょうに小さいことを示し、ダークマター同士あるいは通常の物質との間には重力だけが作用する、という理論である。このモデルが正しければ、銀河団のような質量の大きい天体におけるダークマターの分布は銀河など低質量の天体と比較してあまり中心に集中せず、やや拡がるはずだとされている。
東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構など日英台湾の国際研究チームは、すばる望遠鏡で撮影した50個の銀河団におけるダークマターの分布を調べた。直接見ることはできないダークマターだが、その重力によって銀河団の向こう側にある天体像をゆがませる「重力レンズ効果」を調べれば分布を知ることができる。
観測と解析を行ったところ、50個の銀河団に含まれるダークマターの分布を平均すると冷たいダークマターモデルが予測するものにひじょうに近いという結果が得られた。従来の研究では銀河団中心への集中度が大きい、つまり冷たいダークマターモデルと一致しない結果が報告されていたが、今回の結果は有力モデルを支持するものとなる。
研究チームの岡部信広さん(台湾中央研究院)は「これまでの研究では用いた銀河団のサンプルが少なく、銀河団の個性が結果に影響しているのではないかと疑っていました。今回、50個という過去最大の銀河団サンプルを偏りなしに選択し、すばる望遠鏡で撮影した高精度のデータを解析することで、ダークマターの分布の平均的な姿を導き出したのです」と語っている。今後は銀河スケールでのダークマター分布を測定し、その性質や銀河形成に関わる物理過程を解き明かしていきたいとしている。(サイエンスポータル 2013年6月14日)
Cool-Dark-Matterモデルと一致
東京大学 国際高等研究所 カブリ数物連携宇宙研究機構(カブリIPMU)は6月13日、台湾中央研究院を中心とする、英・バーミンガム大学、東北大学との共同研究チームにより、すばる望遠鏡で撮影した50個の銀河団の観測データを用いて、「ダークマター(暗黒物質)」の密度分布を「重力レンズ効果」を通して求め、「冷たいダークマター(Cold Dark Matter:CDM)」モデルの予言する特徴と一致する新たな証拠を発見したと発表した。
成果は、台湾中央研究院の岡部信広博士、同・梅津敬一Tenured Associate Professor、バーミンガム大のGraham Smith博士、カブリIPMUの高田昌広教授、東北大大学院 理学研究科の二間瀬敏史教授らの国際共同研究チームによるもの。研究の詳細な内容は、5月17日付けで米天文学専門誌「The Astrophysical Journal Letters」に掲載された。
ダークマターは約80年前にその存在の証拠が指摘されて以降、今でこそその存在を疑う天文学者はほとんどいないが、今もって直接的に観測はなされていない。さらに、素粒子物理学者は未知の素粒子を候補に挙げるが、その素粒子も未発見である。要は、宇宙の物質の約85%(「ダークエネルギー」を含めない割合)、我々が見ることのできる「バリオン物質」の5倍以上がダークマターであるという強い証拠があるにも関わらず、ダークマターの正体はわかっていないというわけだ。
そうした中、台湾中央研究院の岡部博士率いる国際共同研究チームは、宇宙最大の天体である銀河団に存在するダークマターの密度分布を測定し、ダークマターの性質を解明することに挑んだ。研究チームはこれまでで最大となる50の銀河団のサンプルデータを集め、中心部から外縁部に移動するにつれ、ダークマターの密度がどのように変化していくかを調べることにした。
この研究に対する説明としてバーミンガム大のSmith博士は、「銀河団の例えとして、夜に上空から見渡した時の巨大な街をイメージしてください。街明かり1つひとつが銀河です。街明かりの間に拡がる漆黒の闇は何もないように見えますが、実はダークマターで満たされています。ダークマターは、街灯を照らすために必要な電線などのように、銀河団の中で銀河を形成するために必要なインフラの役割を果たしています」と例えている。
銀河団領域のダークマターの密度分布は、ダークマターの特性を反映していると考えられている。現在の最も有力なダークマターの理論であるCDM(冷たいダークマター)モデルは、ダークマターは熱運動の速度が小さい(=冷たい)ものであり(よって、ニュートリノなどの「熱い」素粒子は候補から外れる)、またダークマター間あるいは通常の物質間で重力だけが働くというものだ。このモデルに基づくシミュレーションによると、銀河団のような質量の大きい天体では、銀河のような質量の小さい天体と比較して、ダークマターが中心に集中しない、やや拡がった分布であることが予言されている。
見えないダークマターを重力レンズで捉える
ダークマターは重力でしかバリオン物質と相互作用しないため、直接観測することは現在の技術では不可能だが、間接的ならその存在する証拠を観測することは可能だ。それは、アインシュタインの重力理論が予言した「重力レンズ効果」を用いる方法である。重力レンズ効果を簡単に説明すると、天体の天体の重力により周りの時空が歪められ、その天体の周囲を通過する光の経路が曲げられてしまうというものだ。
つまり、まるで巨大な凸レンズが宇宙空間にあるような状態になり、本来は地球には届かないはずの光も届くことから、銀河団などの巨大質量の背後にある銀河などが分裂して見えたり、弧を描いて見えたりするのである。この重力レンズ効果が生じている背景銀河の形状を注意深く、詳しく、そして数多く調べることで、銀河団領域のダークマターの分布を測定することが可能になるというわけだ。
研究チームは今回、すばる望遠鏡の主焦点カメラ「Suprime-Cam(シュプリーム・カム)」の銀河団データを解析し、銀河団領域のダークマターの分布(質量密度分布)を測定した。岡部博士は、「1%程度の銀河形状の歪みを測定する必要があるので、すばる望遠鏡の高い解像度が威力を発揮します」と語っている。
ダークマターの質量分布は2つの指標で特徴付けることが可能だ。1つは銀河団の総質量、もう1つ中心付近から外縁部に移るにつれて密度が減少する度合い「質量集中度」だ。同じ総質量の銀河団でも、中心に質量が集中している銀河団では質量集中度が大きくなる。
実はこれまでの研究では、CDMモデルと一致しない、大きな質量集中度結果も報告がされていた。ただし岡部博士によれば、これまでの研究は用いた銀河団のサンプルが少なかったため、銀河団の個性が影響している可能性があったという。そこで今回は、50個という過去最大の銀河団サンプルを偏りなしに選択して研究が進められた。
次は銀河系のダークマターを観測
そしてその研究成果が、上の画像である。まず左の4つの画像は、個々の銀河団で復元されたダークマターの分布を示したもので、その個性が豊かであることがわかる。中央は、50個の銀河団の平均的なダークマター分布だ。ここから、ダークマターの分布が、顕著な質量ピークを中心に持ち、中心から見てほぼ対称な分布を持つことがわかる。
そして右の3つの画像は、質量集中度の異なるダークマター分布のシミュレーション結果だ。観測された銀河団の質量分布は、CDMモデルの予言に非常に近い。なお、青→緑→黄→赤の色の順にダークマターの密度が高くなる。また、中央の画像の白線は100万光年の長さを表す。
Smith博士は今後の展開について、「さらに銀河団中心に近づくスケール、例えば街明かりの街灯である銀河スケールまでダークマター分布を測定することを目標にしています。それができれば、ダークマターの性質や銀河形成に関わる物理過程にさらに踏み込むことができるでしょう」とした。
また、カブリIPMUの高田教授は、「多数の銀河団の重力レンズ測定を1つの観測量に統合する今回の方法は、ダークマターを研究する上でとても強力な手法となります。現在、日本の天文学者は、すばる望遠鏡の新しい超広視野主焦点カメラ「Hyper Suprime-Cam(HSC:ハイパー・シュプリーム・カム)」を用いて、2014年から5年間の予定で、人類史上最大の銀河探査観測を実行する準備を進めています。
HSCの探索によって発見される数1000の銀河団に今回の方法を適用することで、この研究のさらなる発展が確実に起きます。今回の成果は、この統計的重力レンズの手法が、すばる望遠鏡のデータ、つまり実際のデータで実行可能であることを証明する重要な結果です」と語っている。
また同氏は今回の研究について、「この結果に非常に満足しています。この素晴らしい結果は、すばる望遠鏡で得られた最高の観測データを慎重に解析した結果です」とコメントを述べている。(すばる望遠鏡: 銀河団の観測でつかんだ、冷たい暗黒物質の証拠)
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