史上初の首を持つ魚、ゆっくりと陸へ
 古代の魚類がどのようにして陸生動物に進化したのかについては依然として謎が多いが、首と足と持つ3億7500万年前の魚類の化石がまた新しい手掛かりを与えてくれたようだ。

 2004年、カナダの北極地方で、ある魚類の化石が発掘された。「ティクタアリク・ロゼアエ(Tiktaalik roseae)」と名付けられたこの化石は、魚類と陸生脊椎動物の間のミッシングリンクを埋める大発見であった。ティクタアリクは、現在確認されている中では、地球の歴史において初めて“首”を持つ生物であり、そのヒレは“足”のような形状に進化している。

 最新の研究によると、ティクタアリクは、脊椎動物が水から出て陸へ上がった重大事の先駆者であることは間違いないが、移行の進化過程は以前に想定されていたほど突然に生じたものではないという。


 化石の頭蓋骨やエラ部分の骨、口蓋などを詳細に調査した結果、ティクタアリクが魚類と陸生動物の両方の身体的特徴を併せ持つ中間形態であることが確認された。魚類が浅瀬で生息する上で必要な進化であったと考えられる。

 研究チームの一員で、アメリカのペンシルバニア州フィラデルフィアにある自然科学アカデミーのジェイソン・ダウンズ氏は、「ティクタアリクは、これまで陸生動物に固有のものと思われてきた頭蓋骨の特徴を持っている。つまり、こういった特徴は、最初は浅瀬で生息できるように適応する仕組みだったのだ」と話す。今回の研究は「Nature」誌最新号に掲載される。(National Geographic news:史上初の首を持つ魚


 魚類から陸生脊椎動物へ
 
ティクタアリクについては、これまでの研究で、全長およそ3メートルのワニのような捕食動物で、浅瀬で生息するために適応した結果として、首や原始的な肺、足のようなヒレを持っていたことがわかっている。そして今回は、脊椎動物が水生から陸生へと移行する進化過程において、頭蓋骨も少しずつ複雑に変化していったことが明らかとなった。

 ティクタアリクは、頭蓋骨の内部構造は原始魚類と共通点が多いが、頭部全体としては両生類に近い特徴を持っており、空気呼吸を行い陸上でエサを取る能力を持っていたという。

 2004年の発掘チームの一員だった自然科学アカデミーの古生物学者テッド・デシュラー氏は、「今回の研究により、魚類から陸上四肢動物へと進化する過程は緩やかなもので、水生から陸生へと移行するには、足が進化するだけではまったく足りないことがあらためて確認された」と話す。「ティクタアリクは、原始的なヒレの魚類よりも空気呼吸や陸上移動の能力が優れていた可能性があるが、それでも生物の分類としてはまだ水生動物である」とダウンズ氏は語る。

 ティクタアリクの頭蓋骨は魚類と異なる点があり、口蓋が平らで、頭部全体が頑丈な構造をしており、鰓蓋(さいがい)を支える舌顎骨(ぜつがくこつ)が非常に短い。その結果、ティクタアリクは、地球の歴史上初の首を持つ生物になったという。

 ダウンズ氏は、「このような特徴からすると、ティクタアリクは、体内に水を吸い込むのが得意ではなかったと思われる。水中で暮らすには水の吸水・排水機能が欠かせない。ただし、ティクタアリクにエラ呼吸の能力がなかったというわけではない。エラの骨格自体は、原始的な魚類とまったく変わっていない。だから、ティクタアリクが空気呼吸を行うとすれば、頭を水面から出して空気を一口吸い込むという方法だっただろう」と話す。

 以前は、魚類から陸生脊椎動物が急速に進化したと考えられていたが、ティクタアリクの頭蓋骨により、そこに中間形態が存在することが示された。「ヒレを持つ生物から足を持つ生物への移行過程はどのようなものだったのか。私たちはティクタアリクから少しずつ学んでいる」とダウンズ氏は話す。

 スウェーデンにあるウプサラ大学の古生物学者ペール・アールベリ氏は次のように話す。「ティクタアリクの頭蓋骨は、さまざまな点でパンデリクティス(Panderichthys)を想起させる。パンデリクティスはティクタアリクよりも古い時代の魚類で、両生類に近い特徴を持っている」。

 さらに、「ティクタアリクは保存状態が良いので、水生から陸生に移行する際に頭蓋骨がどのように再構築されたかよくわかる。ティクタアリクは、頭蓋骨の再構築という点ではパンデリクティスよりも進化が進んでいたようだ。生物進化をめぐるジグソーパズルのピースがまた1つ手に入った」と話している。(National Geographic news:史上初の首を持つ魚


 ティクタアリクとは何か?
 ティクタアリク(学名:Tiktaalik)はデボン紀後期(約3億7500万年前)に生息した絶滅肉鰭類である。ティクターリクと表記されることも多い。 四肢動物と多くの共通点を持つ。 2004年にカナダのヌナブト準州エルズミーア島で保存状態のよい化石が3体発見された。学名は現地のイヌイットの言葉で「カワメンタイ(大きな淡水魚)」の意。

 3億8000万年前のパンデリクティスのような魚類と3億6500万年前のアカントステガ(アカンソステガ)やイクチオステガのような四足動物の間を結ぶミッシングリンクであるといわれる。

 体の後ろ半分は発見されていないが、魚類と四肢動物の中間的な特徴を持つ。時代的に先行するパンデリクティスとの違いは、四肢の関節と自由に動く首の発達である。

 胸鰭は四肢動物の前肢に近い。エウステノプテロンやパンデリクティスでも鰭の中に上腕骨・橈骨・尺骨があり、肢帯と自在に動く肩関節で接合していたが、ティクターリクではそれがいっそう進歩して肘関節と手首関節がある。まだ指はなく、陸上を自由に歩くまではできなかったようだが、これによって水底にちょうどいい角度で鰭の先端をつけ、体重を支え、推進力を伝達することができた。また胸筋も発達しており、腕立て伏せのような体勢で水の外に体を引き上げることもできたらしい。

 肋骨は四肢動物のように発達しており、陸上の重力下で体が潰れないように支えることができた。頭部は吻部が長く平たく眼窩が上向きで、外見上ワニに似る。魚を捕らえるのに適した細かく鋭い歯を備えていた。

 目の後部にエウステノプテロンなどと同様の呼吸孔があり、肺魚のように鰓呼吸と肺呼吸を併用していたらしい。熱帯の酸素の乏しい浅水域で生息するのに有効だったと思われる。

 頭骨後部の鰓孔と喉を覆う骨は縮小し、四肢動物のように首を胴体から独立させて動かせるようになっている。浅瀬で獲物を狙ったり、空気呼吸のために口を水面上に出すのに役だっただろう。

 出土地点はデボン紀の赤道近くの河川堆積物の中である。おそらく浅い水域で生息し、短時間ならば陸上に逃れることもできる魚食動物だったのだろう。全長は約2.7メートルあったとされる。 (Wikipedia:テクタアリク


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