1滴の血液からクローン誕生!
 理化学研究所(理研)は6月26日、1滴の血液から分離した非リンパ球の白血球を用いて、体細胞クローンマウスを作出することに成功したと発表した。

 これまでのクローンは体細胞クローンといって、体の臓器や組織の細胞の核を使った。しかし、血液中の赤血球には核がないので、これまでクローンには使われたことがなかった。だが、白血球には核がある。理化学研究所はそこに目をつけた。

 体細胞核移植クローン技術は、同じ遺伝情報を持ったコピーを無限に生産できることから、畜産分野、創薬、絶滅の危機にある種の保存などに応用が期待されており、マウスでは、これまでに10種類以上のドナー細胞からクローンを作出できることが報告されてきた。


 しかし、従来法ではドナー細胞を臓器から採取するために、ドナー細胞提供動物に手術などを行い採取する必要があり、個体を犠牲にする必要がある場合があったほか、比較的容易に採取できるとされる皮膚の細胞(線維芽細胞)を用いる場合でも、クローンに適した細胞を得るのに約2週間という長い細胞培養時間が必要という課題があったことから、ドナー動物に負担をかけず、迅速にわずかな量だけ採取することでクローンを実現することが求められていた。

 そこで今回、研究グループは、わずかな量でクローンを行うために、調査の結果、白血球が十分な量の細胞を採取できる可能性があることから、マウスに負担への少ない尾部から1滴(15~45μl)の血液を採取し、ランダムに選んだ白血球をドナー細胞として用いて、体細胞クローンマウスの作出に成功したという。

以下は、理化学研究所プレスリリース:1滴の血液からクローンマウス誕生から引用した。


 白血球の見分け方
 具体的には、白血球には、リンパ球の白血球(T細胞とB細胞)と非リンパ球の白血球(骨髄系細胞の顆粒球や単球)が含まれているが、リンパ球は、再構成されたDNAを持つため、これをドナー細胞した場合、クローンマウスは、全身のDNAが再構成されて生まれてしまうため、元のマウスとは遺伝的に異なってしまうという問題があった。

 そのため、実際の体細胞クローンマウスの作出には非リンパ球を選ぶ必要があったが、特定の細胞を生きたまま分離するためによく用いられる、細胞などの特性を、蛍光染色して1個ずつ、迅速かつ高感度に測定する「FACS法」では、十分な量の細胞が必要になることから、今回の研究では用いることができなかった。

 そこで今回、非リンパ球の白血球を選ぶために、細胞の大きさを利用できるかどうか調べたところ、直径8μm以上の細胞を顕微鏡下で選ぶことで、約85%の正確さで非リンパ球を選べることが判明し、これにより5系統のマウスの非リンパ球の白血球から体細胞クローンマウスを得ることに成功したとする。

 従来法の卵丘細胞をドナー細胞として使用した場合、クローン胚数あたり2.7%の効率で産仔が得られるが、今回の非リンパ球の白血球をドナー細胞として使用した場合でも2.1%の効率であり、従来法と同様の産仔獲得効率が示されたこととなる。また、雌の体細胞クローンマウスを生後8週齢で雄と交配させたところ正常な繁殖能力が示されたほか、野生型と変わらない寿命であることも確認されたという。

 非リンパ球から作出した雌の体細胞クローンマウス。生後8週齢で雄と交配したところ正常な繁殖能力を示したほか、野生型と変わらない寿命であることが確認された。

 なお、研究グループは、今回の成果を活用することで、特にバイオリソース分野における、不妊マウスや系統最後のマウスの系統を維持できる可能性を高められるなどのメリットを得られることが期待できるとコメントしている。


 26世代のクローンマウス計598匹
 理化学研究所発生・再生科学総合研究センターのゲノム・リプログラミング研究チームの若山照彦チームリーダー(現・山梨大学生命環境学部教授)や東京医科歯科大学難治疾患研究所の幸田尚・准教授などの共同研究グループは、2005年末から1匹のマウスをもとにクローンマウスを代々作り続け、現在、26世代、計598匹の再クローンマウスを誕生させていることを明らかにしている。

 哺乳動物のクローン作出は、優良家畜の大規模な生産や絶滅危惧種の保全を可能にする技術として期待される。 クローンマウスは、元になるマウスの体細胞の核を、別のマウスの核を除去した卵子に移植し、さらに雌のマウスの子宮に入れて作る。

 こうしてできた1世代目のクローンマウスから再びクローンマウスを作り、さらに代々のクローンマウスを作ろうとすると、従来のクローニング技術では、核移植を繰り返すごとに出産率は低下し、マウスでのクローン化は最長6 世代が限界だった。

 またウシとネコでは2 世代まで、ブタでも3世代が限界だった。原因は、核の遺伝子の働きを細胞分裂が始まる前の初期状態に戻しきれなかったことで生じる、クローン技術特有の「初期化異常」が代々の核移植のたびに蓄積するためと考えられていた。

 研究グループは、1998年に最初のクローンマウス作出に成功後、初期化の促進や核へのダメージを最小限に抑える技術的改良などに取り組んだ。2005年には、「トリコスタチンA(TSA)」という薬剤を核移植後の培養液に加えると、初期化異常を改善し、クローンマウスの出産率が約6倍に高まることを発見した。

 これを用いて同年末から、1匹のドナーマウスをもとに再クローニングの継続に挑戦していた。 その結果、現在は26 世代目、598 匹が誕生した。核移植の出産率は1 世代目の7%から上昇傾向を示し、最高で15%を達成した。さらに、これらの繁殖能力、寿命、細胞年齢の指標となる染色体末端の「テロメア」の長さなどに異常がないことを確認し、初期化異常も蓄積しないことが明らかになったという。 研究論文は米科学雑誌「セル・ステム・セル(Cell Stem Cell)」(オンライン版、7日)に掲載され、マウスたちの写真が表紙に採用された。(サイエンスポータル 2013年3月11日)

 次の文章は理化学研究所のプレスリリースからの抜粋である。(1匹のマウスから500匹以上のクローンマ作出に成功


 研究手法と成果
 2005年末に、まず1匹の雌のドナーマウスを選び、卵子の周りに存在する卵丘細胞から核を取り出しました。この核を、別のマウスの核を除いた卵子へ核移植してTSAを投与しました。生れてきたクローンマウスを第1世代とし、成体(3カ月齢)に成長した後、その卵丘細胞の核を取り出して第2世代の再クローンマウスを作出、それ以降、再クローニングを繰り返しました。2012年12月の論文提出時には、25世代で合計581匹の再クローンマウスが生まれ、現在は26世代目、598匹の再クローンマウスが生まれています。1世代目のクローンマウスの出産率は7%程度でしたが、TSAと実験条件の改善によりその確率は徐々に上昇し、現在は15%程度を達成しています。

 クローン動物特有の現象に胎盤の形態異常があります。クローンマウスの場合、自然妊娠に比べ胎盤が2~3倍に巨大化します。今回の実験でも、1世代目の胎盤は約3倍に巨大化しましたが、その後26世代まで胎盤重量がそれ以上増加する傾向はなく、出産時の体重もほぼ一定でした(図1C)。生まれた再クローンマウスは大部分が健康な成体へ成長し、ランダムに選んだ4個体を雄マウスと交配して繁殖能力を調べたところ、どの再クローンマウスも自然マウスと同様平均60日程度で自然分娩し、正常な繁殖能力を持っていることが明らかになりました。

 再クローンマウスの寿命については、現在17世代まで(論文では16世代まで)調べており、ほとんどの世代の平均寿命は自然マウスと変わらず2年以上で、世代が進んでも短命になる傾向はありませんでした(図1D)。また、細胞の年齢を調べるマーカーとして一般に用いられている染色体のテロメアの長さについても、各世代の再クローンマウスで調べたところ、世代を経てもテロメアが短くなる傾向はなく、再クローニングごとにドナーマウスと同程度の長さに戻っていることが分かりました。

 TSAの効果を確認するために、21世代目の再クローンマウスの一部はTSAを加えずに作出したところ、やはり出産率は有意に低下しました(図2A)。また、1世代目のクローンマウスで発現異常を示した遺伝子の多くは、20世代目の再クローンマウスでも同程度で異常のままでした(図2B)。さらに、DNAマイクロアレイ※6を用いて、自然マウス、1世代目のクローンマウスおよび20世代目の再クローンマウス間で網羅的に遺伝子発現の様子を比較したところ、自然マウスと1世代目の間および20世代目の間には明確な違いが生じたものの、1世代目と20世代目の間には差がありませんでした(図2C)。これらの結果は、TSAを投与した核移植で作るクローン動物の遺伝子にはある程度の発現異常が生じますが、その異常は再クローニングによって蓄積するものではないことを示しています。また、健康な再クローンマウスが多数生まれていることから、これら発現異常は、生体には影響しない限定された一部の遺伝子だと考えられます。(理化学研究所)


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